【私の一生の後悔】
 
もう10年以上も前の話。
 
当時、私は原宿の駅前に住んでいて、
今思えば裕福な暮らしをしていた。
 
 
 
周りから羨ましがられる暮らしをしていたけれど
 
実際は
 
長女は小学校を嫌がり泣いてばかり、
 
完全同居だった義父は認知症で
昼夜関係なく、近所に電話をかけまくり
119番にもよく電話をしていた。
外に出れば転んで立てなくなり、
目が離せなかった。
 
当時の夫とは関係が破綻していて、
彼はほとんど家には帰って来なかった。
 
 
次女は4歳だった。
 
 
ある時、幼稚園からの帰り道、
竹下通りのクレープ屋さんの前で
次女が足を止めた。
 
クレープ屋さんの周りは人がいっぱいで
いかにも地方から来た感じの私くらいの女性が
大きな声で笑いながら道に立って
息子らしき子供とクレープを食べていた。
  
  
私は家に1人でいる義父のことが気がかりで、
呑気に笑っている女性を少し憎んだ。
 
 
『早く帰ろう』
と、次女の手を引っ張ると
『クレープが食べたい』
と言う。
 
 
普段、甘いものなど食べたがらないのに
なんでよりによってこんなに混んでる日に
そんなこと言うのだろう。
 
『またにしよう。空いているときに』
と、私は提案した。
 
 
普段は決して我を通そうとしない次女が
『やだ。今、食べたい』
と言う。
 
私はイライラしながらクレープを買うために
列に並んだ。
 
 
私達が並んでいる間も
クレープを食べている女性は
声を出して笑いながら食べていた。
 
何がそんなに楽しいのだろう?
 
 
クレープが出来上がると
次女がその場で食べようとしたので
『道でなんて食べないでよ』
と、私は次女の手を強く引いて帰宅した。
 
 
手を洗って
椅子に座って
クレープを食べている次女は
ちっとも嬉しそうでなく、
かといって不満そうでもなく、
 
おかしいなぁ
 
と、不思議そうにクレープを食べていた。
   
 
そんな次女を見ながら私は
『あれだけ欲しがったんだから
もっと喜べば?』
と、思った。
 
私は次女をリビングにひとり残し、
義父の部屋に行き、
義父が何かしていないか確認して
洗濯物を取り込んだ。
長女が帰る前に夕食の支度をしなければ。
子供のテレビ番組が始まるまでまだ時間がある。
 
 
リビングに戻ると
次女は食べかけのクレープを見て
ひとりで考え込んでいるようだった。
 
 
そのとき、私は悟った。
 
 
この子はクレープが食べたかったんじゃないんだ
 
 
クレープ屋さんの前にいたあの女性のように
親子で笑いながら食べたかったんだ。
 
 
私は、どれくらい笑っていないだろう。
 
いつも疲れていて
イライラして
『なんで私ばっかりこんな目に!』
って、いつも思ってて
 
朝から晩まで怖い顔をしていたかもしれない。
 
何より、
ここ最近子供と目を合わせて笑った記憶がない!
 
 
次女は
あの親子を見て
クレープを食べたら親子で笑い合える
と思ったのではないだろうか?
 
 
4歳の次女がそこまで考えたかどうかは
わからない。
 
 
 
私は取り返しのつかないことをしてしまった気がして
その場で次女に泣いて謝った。
『ママと楽しく食べたかったよね。ごめんね』
 
 
 
彼女が10歳になったとき、
なんとなく2人でアイスクリーム屋さんに入った。
 
私はそこでまた次女に
クレープ屋さんの事を謝った。
話しながら涙が止まらなかった。
 
『一緒に笑いながら食べたかったよね。
ママ、そんなこともわからなくてごめんね』
と、謝った。
 
次女も泣きながら
『大丈夫だよ。平気だよ』
と、言ってくれた。
 
 
彼女がその時のことを覚えているかはわからない。
 
 
今でも時々、次女に言う
『クレープのこと、ごめんね』
って。
 
次女は
『もういいから』
と、笑う。
 
 
今の私は田舎に住んでるし、
身につけているものも高価ではないし、
お金だってそんなに無い。
 
でも、よく笑うし
今のほうが自分は幸せだと断言できる。
 
 
あれ以来、
子供と視線が合ったら
まず笑うようにしている。
 
 
ただ、どれだけ時間が経っても私は
あの日のことを
ずっとずっと後悔し続けると思う。