遺言は愛のメッセージ
相続が発生すると、残された家族や親族の間で、遺産を巡って紛争が生じやすいものです。
それまで仲良く暮らしてきた家族が、自分が亡くなることによって険悪になってしまうというのは、亡くなる方にとって大変残念なことですし、残された家族も不幸でしょう。
遺言を書くということは、愛する家族を無用な財産トラブルから防ぐことにつながります。
そういった意味で、「遺言は愛のメッセージ」と言われることがあります。
遺言書作成は私のメイン業務の一つであり、非常に興味のある分野でもあります。
地域のご老人たちの集まる集会で、「遺言の書き方教室」の講師をやったこともあります。
最近、私が注目しているのが、ご主人が奥様を残して先立つ場合を想定し、奥様の老後の生活を安定させるために、遺言を残すというものです。
つまり、「奥様に全ての財産を相続させる」という内容の遺言を書いておくのです。
この場合、お子さんの遺留分(法定相続人に、最低限の取り分として保障された財産の一定の割合)を侵害することになりますから、法律的にはお子さんからの遺留分減殺請求が可能です。
しかし、遺留分減殺請求権を行使するかどうかはその人の自由ですから、遺言の中に、「遺留分減殺請求をしないでほしい」という希望を書いておくことは可能です。
そして、母親を最期まで看取って、母親が亡くなった後に財産を有効に活用してほしいというように、子供の心情に訴えかけるのです。
このような記載に拘束力はありませんが、それを読んだお子さんは、なかなか請求をしづらい気持ちになるのではないでしょうか。
ご主人の財産が潤沢にある場合は、奥様の法定相続分(2分の1)だけでも十分に事足りるでしょう。そうであれば、ことさら奥様に対してこのような配慮は必要ないかもしれません。
ですが、それほど多額の財産がない、または主な財産が奥さんとご主人が住んでいる土地建物だけというようなケースでは、奥様が全ての財産を相続するとしておかないと、奥さんが老後の生活に困る場合も考えられます。
遺言を書くというと、とかく堅苦しいとか面倒だといったイメージがつきまといます。
でも、ご主人が長年連れ添ってきた奥様に対して、最後の「愛のメッセージ」として、このような遺言を残しておくというのは、とても素敵なことではないでしょうか。