“りりぃが何もしなくても、僕の方が怒りで震えが止まらない”



友人のブチョーが、いつものポーカーフェイスのまま言った。



ひょんなことから、事実を伝えたことで、歯車が動きだす。



この世界のすべてが、そんなふうにしてできている。


ひょんなこと。


ちょっとしたことで、歯車が重なり合って動く世界に、わたしたち人間は存在し、生きている。


それでも、まわる、まわり続ける歯車。どんな手段を使っても、まわり続けさせなければいけないのだ。


ひとつ止まれば、ひとつ止まるのだから。



そんなふうに思えるのは、すべてが終わったあとになるわけだが、それはまだ、


もう少し先の話になる。


★ありのままに信じたキモチ~~婚約破棄・君が残した悪夢の中で~~★


わたしには、あまりに突然のことで、その事実が信じられなくて、夢のようで、


怒りも、悲しみも、失望感も、喪失感も、何も、何もなかった。


ただ、ただ、夢かと思うほど。



だからこそ、まわりが動いてくれたのかもしれない。


何も感じられなかったわたしの心を、引っ張り上げてくれたのは、友人たちだ。




桜が舞い散る頃、新しい春もあれば、終わる春もある。


ごくごく、当り前の、こと。


他人から見れば、どうってことはない。誰もが経験しうること。



ひとつのレンズから見れば、ごくごく普通に見えることなのに、レンズを変えて角度を変えたら、どうなるだろう。



★ありのままに信じたキモチ~~婚約破棄・君が残した悪夢の中で~~★


桜はこんなに明るいのに。


桜の儚さと、私の複雑な想いが入り混じって困惑する。



“りりぃが望むなら、可能な限り、協力するよ”


ブチョーが真面目な声で言う。


“りりぃが望まなくても、僕が許せないな”


怒りなど、どこに隠し持っているのかわからぬ表情に、似合わぬ言葉。



それでも、いつもの変わらぬ冷静な声と表情に、一瞬の強い刃を感じたからか、悪魔になることも覚悟で、その手を取った。



★ありのままに信じたキモチ~~婚約破棄・君が残した悪夢の中で~~★


最初は、そんな囁きがくるなんて思ってもみなくて。

だって他人のトラブルに、わざわざ介入できる奴なんて、そうそういない。



気持ちは揺らぐ。


不安定な波のように、善良な自分と欲望のままの黒い自分と、大切なものたちの間で、何度も何度も溺れるかもしれないことを知っていながら、その手を取った。


★ありのままに信じたキモチ~~婚約破棄・君が残した悪夢の中で~~★


穏やかな波が、おさえていた波が、形を変えた日のこと。



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一緒に大人になってきたんだと思っていた。


まだ未熟なまま、スタートして、一緒にたくさんのことを覚えてきたのだと。


わたしの糸だけが紡がれて、君の糸が未完成だなんて、知らなかったよ。



★ありのままに信じたキモチ~~婚約破棄・君が残した悪夢の中で~~★


いまでもわからない。



何が本当で、



何が嘘なのか、



真実を知る術はないとわかっていても、



頭の中をコダマしては、わたしを混乱させる。



★ありのままに信じたキモチ~~婚約破棄・君が残した悪夢の中で~~★


ずっとずっと待っていたのにね、あなたからの決意と勇気ある言葉を。


その言葉を投げかけられた時のわたしは、半信半疑ながらも、すごくすごく嬉しくて、


嬉しくて嬉しくて、仕方なかった。



あの気持ちを、予想もつかない展開で切り裂かれるなんて、想像できなかった。



糸を紡いだのはなんのため??


わたしのため?


君のため?


あの子のため?


理想のため?



それでも、糸はもうできているよ。


誰にも使われないまま。誰にも触れられていないまま。この糸は私の影となる。


この糸で、何を作ろう。何を作ろう。


いっそ、紡いだ糸すら手放せばいいのに、この先に何も作れない人生など考えられない前向きな自分が悲しかった。

★ありのままに信じたキモチ~~婚約破棄・君が残した悪夢の中で~~★



わたしとあなたとあの子と、ずっとずっと、遠いイメージの中で溺れて、なんだか息ができないね。



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まっすぐな生き方をしたかった。

さんざんひねくれ続けた私の、初めての想い。


殴ることも、罵ることも、けしてできない渦の中で、わたしは振り返りの旅に出ることにした。



★ありのままに信じたキモチ~婚約破棄・君が残した悪夢の中で~★


朝の白さが、私にはやけに眩しすぎて、まるで私の方が犯罪者のようだ。


2人で歩いた軌跡を消す作業をするかのように、旅に出る。


わたしにも1人で歩くことができるんだと、まるで挑戦状をたたきつけるような思いも含めて。



旅、それは私にとって、移動自体も目的なのだ。

君が教えてくれたこのゆるりとしたローカル線で、何を思い、何を感じ、何を見つけにいくのだろう。



★ありのままに信じたキモチ~婚約破棄・君が残した悪夢の中で~★

海をひたすら愛した君が、海で白くなって消えていく姿を想像しながら、旅に出る。


この100万円を持って。



紙切れ100枚の涙のカタマリは小さい。



1枚ごとに、想いをのせていくことにする。




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