“りりぃが何もしなくても、僕の方が怒りで震えが止まらない”
友人のブチョーが、いつものポーカーフェイスのまま言った。
ひょんなことから、事実を伝えたことで、歯車が動きだす。
この世界のすべてが、そんなふうにしてできている。
ひょんなこと。
ちょっとしたことで、歯車が重なり合って動く世界に、わたしたち人間は存在し、生きている。
それでも、まわる、まわり続ける歯車。どんな手段を使っても、まわり続けさせなければいけないのだ。
ひとつ止まれば、ひとつ止まるのだから。
そんなふうに思えるのは、すべてが終わったあとになるわけだが、それはまだ、
もう少し先の話になる。
わたしには、あまりに突然のことで、その事実が信じられなくて、夢のようで、
怒りも、悲しみも、失望感も、喪失感も、何も、何もなかった。
ただ、ただ、夢かと思うほど。
だからこそ、まわりが動いてくれたのかもしれない。
何も感じられなかったわたしの心を、引っ張り上げてくれたのは、友人たちだ。
桜が舞い散る頃、新しい春もあれば、終わる春もある。
ごくごく、当り前の、こと。
他人から見れば、どうってことはない。誰もが経験しうること。
ひとつのレンズから見れば、ごくごく普通に見えることなのに、レンズを変えて角度を変えたら、どうなるだろう。
桜はこんなに明るいのに。
桜の儚さと、私の複雑な想いが入り混じって困惑する。
“りりぃが望むなら、可能な限り、協力するよ”
ブチョーが真面目な声で言う。
“りりぃが望まなくても、僕が許せないな”
怒りなど、どこに隠し持っているのかわからぬ表情に、似合わぬ言葉。
それでも、いつもの変わらぬ冷静な声と表情に、一瞬の強い刃を感じたからか、悪魔になることも覚悟で、その手を取った。
最初は、そんな囁きがくるなんて思ってもみなくて。
だって他人のトラブルに、わざわざ介入できる奴なんて、そうそういない。
気持ちは揺らぐ。
不安定な波のように、善良な自分と欲望のままの黒い自分と、大切なものたちの間で、何度も何度も溺れるかもしれないことを知っていながら、その手を取った。
穏やかな波が、おさえていた波が、形を変えた日のこと。
りりぃ