私は13歳。そして引きこもった。理由は簡単だ、そこに世界がなかったから。
でも結局見つかったのは自分だけの世界。でもいいんだ、それも17歳くらいで消えてなくなるだろう。そんな予感があった。
風にゆれないカーテンの向こうの世界に私は、溶けられずにいた。
でも、毎日過ごすベッドの上の世界は何もかもが溶けたアイスクリームのように
無意味な物にうつった。
どうして学校に行かないの?
母親の嫌悪にも似た声が私をとらえるたび私はこわくて泣きたくなる
また朝が来る
私はその光に耐え切れずカーテンをしめきる。もう耐え切れないと脳みそと身体が眠りを欲するまで私は夜の時間をただ消費しているんだ。
人間なんて電機みたいなものかもしれない。人間なんてっておおげさだ。
私なんて。・・・か。
最近あかり、おかしなこと言わなくなったか?父親と母親が私の話をしている。
大人になったんでしょ?
空気ならいくらか読めるようになった。氷なしのジュースみたいに嫌いなものさえ飲めるようになった。
けれど私は、自分の揺れる感情に酔ってしまって吐き気すら感じた。
ミントキャンディとお砂糖とミルクをたっぷり入れたキャラメルティーだけで生きていたら身体も同じ成分になるんだろうか?
そんなことを思うだけで毎日が終始して私はなにもできない。一人で電車に乗れない。
一人でお買い物にも行けない。最近はお風呂にも入れない。
食事らしい食事もとらない。
調子のいい時にはいくらか起きてられるけど。多分私は病気なのだ。
2週間に1度メンタルクリニックに私は連れていかれる。
その病院は個人病院で、3人の医師がいた。田辺先生は一番若い先生で同級生の男の子たちとは違って男らしい体つきをしていた。
先生は、そこに理由も他意もない感じに、
顔色は良さそうですが、学校には行けていませんか?
と聞いた。私は私の方を見ない先生の横顔をぼーっとみつめながら、
その部屋の匂いをかいでいた。
わからないけど、幸せの匂いだった。
死にたいとかおもうみたいで、その。
と母が口をはさむ。
なるほど。
先生は右手に持ったペンでカルテに何か記していく。
そおなの?
これは、私への言葉だった。
ドクっとして胃がちぢむ気がして
ははい。
とやっと答えた。
わかりました。またお薬だすので、きちんと飲んでくださいね。
私は先生の言葉をうけて小さくうなずくと、消えてしまいたいと思った。
ぞっとするほどこわかった。
私は叫ぶ扉のない四角い部屋で。ここは精神科病棟の保護室の中だ。かろうじて明かりのさす窓が私と外界とを唯一つなぐ世界で
ビルの上から落ちる自分の姿を想像して私は過ごした。担当医は言った。統合失調症ですね。一生治る事はありません。いろいろ眠りにつく以外の事、
お風呂に入る、歯を磨く、トイレは保護室の中で、食事は、持ってきてもらえた。
吐く女。私は処女だけど彼女は違った。直接聞いたわけじゃないけど、年上の男の人と一緒に暮らしていたから。ママは花が好きで優しい人だった。
今日は、といっても毎日だけれど。面会に来た。保護室から閉鎖病棟のベッドに移され面会以外の時間に彼女と話をした小説家志望の吐く女。
もうすでに19の誕生日は、来月で。
花が好きな人。私のママは美しい人だった。いつも笑顔で優しくて私がこうなる前までは。
今はどことなく影がさす。泣いてるみたいに笑う
私が変わっただけだろうか
そうともいえた。
いや絶対そう。
精神科医という人。怒っても泣いても笑っても先生はきっと病的だというのだろう。
なら、私はどう生きればいい?
スヌーピー。私は、スヌーピーとロックミュージックが好きで、春が嫌いだった。
恭子。吐く女の恭子さんは美人だった。ママとは違ってまわりを圧倒するような感じの美しい人。
10年後。はじめて自分は女で相手は男だと意識する。それを多分恋愛と呼ぶのなら、多分あれは、恋愛に近い妄想だった
10代のころ家族はそばにいるのが当たり前の世界で私は守られていた。社会に法律に、もちろん家族に
この世界に不変なものとか、ましてや永遠なんてないと、どこかで諦めて、そして僻んで、歪んで、真夏の真昼に、甘いチョコレートが、
冷たいシャーベットが溶けて流れてドロドロになっても干からびて存在しているような、それに似た私。
ライブK。跳びはねる人、叫ぶ人、泣く人。Kのライブは、神秘的な時間が流れていた。何がここまで彼ら彼女らを興奮させ、熱狂させるのか
昔から不思議だけど嫌いじゃなくて、ただ無表情にここにいる全員に何かを問うようなKは時にはスゴむように
時にはただ時間の流れを切り刻むかのように音の世界を創りだしていた。
ライブハウスを出ると寒かった。ガヤガヤと人の流れが駅の中に流れていき普段あまり出かけない私は少し薄着すぎたかなと
今さら思うほど感覚がなぜか鈍っている事にショックをうけた。
冬が近いのだ。
時の早さ。そんなに世の中の暗い部分と自分を重ねるような言い方はどうだろう。死の対極って生じゃない?愛の反対は無(関心)-マザーテレサー
なのよ。何もないのよ。恭子さんからのメール
うん。私も冬には29だし、時間の流れが早すぎて少し恭子さんの話が理解できるようになったよ。
ありがとう。
おやすみなさい。私のメール
恭子さんも、私と同じように1日1日そして入院していた時から10年分は歳を重ねていて、お付き合いは続いているけど、
あの圧倒する華やかなオーラとは違い、バラのトゲの部分に気付いてしまってなんだか近寄りがたく怖ささえ感じた。
腹の探り合い。一歩引いて付き合う。でも、私の妄想かもしれない。こんな日は薬が効いていても
私は病気なんだと分かっていても普通ってなんだろうとか思わずにはいられなくなる。
総合病院。私には気になる彼がいた。彼は薬剤師で左足を少しひきずって歩いていて、総合病院の薬局に勤めていた。
彼のまわりには少しだけ張りつめた空気が流れている気がした。
私の番が来て薬をもらう。
月々のこの流れの中で、なぜ彼が気になったのか・・・
やはり、左足が不自由な事かもしれない。
なんだって深読みですぐ意味づけしてしまう患者の私は、それに気付いた時、納得した。
甘ったれの自分、精神の病を理由に逃げつづける自分と、左足が不自由な事をハンデに持っていても、薬剤師になるために勉強し大学を卒業して
社会の中で生きる彼。尊敬に近い気持ちだった。
終わって始まる。ただ春を待つだけの冬は冷たくて。でも、太陽は光を注いでて。
冬の朝、朝食をとりながら、ママのまた少し歳を重ねた目じりのシワに目がいった。
私、どうしたいんだろう。どうなるんだろう。
そんな事、考えても悩んでも明日は容赦なく私を迎えにくるから。
妄想恋愛にさよならできたように、いつか私も自分の病をうけとめて前を向けるだろう。
終わって始まる。