「さて、当時の状況を詳しくきかせてもらえるかな」
再び部室にもどり、ソファーに腰掛けた小野崎が切り出す。


やっと解決に向かいそうだ。
更衣室に入ったらすでに人混みができていたこと。
俺のロッカーにあった女装用具について。
発見したときの状況。
浩介が分かる範囲の説明を、小野崎はときどき質問をはさみながら聞いていた。

「もうちょっと調べてからかなー」
話を聞き終わった小野崎が、考え込むようなそぶりを見せた。
もしかして俺は、学食につきあわされ、ティラミスをおごらされただけで終わるんじゃないか――そんな不安が浩介の頭をよぎる。
「大丈夫、明日ぐらいには君のロッカーの真相も分かるよ」
小野崎のウインクは、浩介の不安を増大させただけだった。






翌日。
再び部室を訪れると、びっくりするぐらい綺麗になっていた。
ガタガタのちゃぶ台はガラスのテーブルに。
破れた簡易ソファーは毛皮仕様に。
そのソファーに満足げに笑う小野崎が腰掛けている。
「やっぱりこれがいいね!」
「どうしたんですか」
変わりように驚きながらも、おずおずと尋ねる。
「決まってるだろ」
小野崎は間にCMでも挟みそうなぐらいたっぷりとタメを作ってから、言い放った。
「ナゾトキ、だよ」
その言い方と不適な笑いがやけに似合っていて、少し意外に思う。
――まるで、今まで何回も言ってきたみたいだ。
「まずは一つ目」
小野崎が指を一本立てる。
一瞬、学食DXの追加注文のときのデジャヴ感におそわれたが、気にしないことにした。
「君のロッカーに細工した方法だ」
それは浩介自身も気になっていた。
女装道具は結構量がありそうだったし、わざわざ運んでロッカーに入れていたのでは、目立ってしまうだろう。
その疑問に答えるように、小野崎が言った。
「結論から言えば、女装道具はもともと更衣室にあったんだよ」
「それはないですよ」
浩介がすぐさま反応した。
さすがに女装道具が入っていたら、いくら急いでいても気づくし、
気づいたなら別のロッカーを使っていたはずだ。
納得できない顔をする浩介を、まあまあと抑える小野崎。
「俺がさっき言ったのは、女装道具は後から君のロッカーに入れられた、という意味なんだ。更衣室内にはあったけど、最初の置き場は君のロッカーじゃない。
最初にロッカーにしまったときのことをよく思い出してみてよ」
小野崎に言われて、浩介は体育が始まる前のことを思い返す。
――――
授業変更に気づいたときには、すでにギリギリ急いで更衣室に飛び込んだ。
ギリギリな以上手前のロッカーが開いているはずがないので、奥のロッカーを選ぶ。
自分で選んだロッカーは確か――奥から3番目。
佐倉は奥から4番目だった気がする。
と言っても、急いでいて記憶がおぼろげなので、ニアピンの数字だった可能性はなくはない。
最悪体育から帰ってきた後、自分が使ったロッカー付近を適当に開ければ見つけられるので、とくに気にもとめなていなかったのだ。
ただし、佐倉より浩介の方が奥のロッカーを使っていて、浩介は一番奥のロッカーではなかったことだけは確かである。
着替えだけなので、あんまりプライベートにさわる心配もないから、皆人のロッカーも普通に開けているし、今更気にとめるヤツはいない。
だから武田が浩介のロッカーを開けるて女装道具を見つける、というようなことがおこってしまったわけで。
つまり、誰も予測できないはずなのだ。
「そこだよ、浩介くん」
小野崎がソファーから立ち上がり、室内を無意味に歩き回りはじめた。
名探偵の徘徊、ってやつですか。
「自分がしまったロッカー付近のロッカーを開ける人は大勢いる。そしてもし、見られたくないものがその、開けられる可能性のあるロッカーに入っていたら? 君ならどうする?」
小野崎は生徒に問いかける先生のように、浩介を見た。
「隠そうとします・・・」
「でも体育の授業の終わり、皆すぐに帰ってきてしまう中で、完全に隠すのは厳しいよね」
ということは、浩介のロッカーからさほど離れていない位置、最低でも隣の隣ぐらいまでが怪しいということになる。
自分の近くのロッカーを使っていた人物・・・。
浩介の頭を不安がよぎった。
「佐倉・・・が?」
「佐倉くんは違うよ。君と一緒に更衣室に入って、そんな細工をする時間はない」
その言葉を聞いてホッとする。
でも、それなら・・・?
「武田くんだよ」
状況を把握できずに固まっている浩介に、小野崎が話を続けた。
「武田くんのロッカーの位置、覚えてる?」
記憶をたぐりよせる。
武田のロッカーの位置は確か―――佐倉とは逆側の、俺の隣だったような。


「決まりだね」
「俺にはなんのことだかさっぱり分からないのですが・・・」
浩介がおずおずと手をあげると、小野崎は少しあきれた顔をした。

しかしそれがポーズだということが、隠し切れていない得意げな顔から伺える。
(ちなみにこの間、名探偵の徘徊は続けられていた。)
「浩介くんは体育に遅れそうだったから、必然的に奥近くのロッカーを選んだ。そして
その時点で、浩介くんより奥のロッカーを使っている人間はいなかった。つまり?」

ようやく浩介にも納得がいく。

小野崎は良い教師になれるかもしれない。
「・・・・・・・つまり、武田がそこを使っていたのはおかしい・・・」
「そーいうことだね」
小野崎がよくできました、という顔で浩介を見る。
「あとは強いて言えば服のたたみ方かな?佐倉くんの服も君の服も、たたんだ状態でネームプレートが見えた――ということは、同じたたみ方の可能性が高い。そして急いでいた二人に、制服をたたむ余裕があったか?」
答えは、なかった、だ。
部活に行く前も、佐倉は制服をぐしゃぐしゃのままかばんにつっこんでいた。
それなのに体育の前だけ制服をたたむ余裕があるはずもない。
「でも、なんで?俺、武田に恨み買うようなことした心当たりがないんですけど・・・」
ここ一ヶ月特にクラスの連中とトラブルを起こした覚えはなかった。
「多分、恨みじゃないよ。あの女装道具は武田くんのだ。そしてそれが着替えがなくて安全な、体育のない日に、奥のロッカーにしまわれていたとしたら・・・」

あの体育は急遽入ったものだ。
もし体育がないこと前提でしまっていたのなら、体育があることで気づかれる可能性は大きくなる。
「そして、おそらく武田くんは、自分の荷物を元々志田くんが使ってたロッカー、そして志田くんの荷物を佐倉くんが使ってたロッカー、って移動させてったんだと思うよ。
武田くんのロッカーに女装道具は移しても、周りのロッカーが開けられる可能性は高い。女装道具からしたほのかな香りは、もともと入っていた場所ならもっと強いはずだから、開けられたらまずいでしょ?」
確かに一つずらしたなら、浩介と佐倉の制服が同じたたみ方でたたまれていた理由も説明がつく。
最初にどの状態でおかれていたか分からなかったものは、俺ならとりあえずたたむ。
たたんだものがぐしゃぐしゃになっていたら目につくが、ぐしゃぐしゃだったものがたたまれていたところで、さほど目にはとまらない。
「じゃあ、武田がわざわざ女装道具を学校に持ってきた理由は?」
趣味があるのはすごく良いことだと思うが、学校に持ってくる理由はないと思う。
小野崎は、付け足すように言った。
「言い忘れてたけど、武田くんは別に女装が趣味なわけじゃないよ。昨日、君が帰ったあと学食のヨシコさんに話を聞いたんだ。―――ガトーショコラを食べに来た子はいなかったか、って。」
「そしたら・・・?」
「黒髪巻き毛の背の低い女の子が来たそうだ。可愛い顔してるのに下手くそな化粧しててもったいなかった、って言ってた」
黒髪巻き毛。背の低い。下手くそな化粧。すべてあの女装道具で解決できる。
「つまり、武田くんはスイーツ男子だったってことだ」
今度部室に連れてきてよ。
小野崎が笑顔で付け足した。確かに武田がスイーツ男子なら、小野崎と話しが合いそうだ。
とは言っても、真相を聞いてみると拍子抜けする。
というか、そうまでしてガトーショコラを食べたがった武田の努力は涙ぐましい。
女装癖疑惑を押しつけられたのは納得いかないが―――武田には、何も言わないでおくことにしよう。
でも。
最後に一個だけ疑問が残る。
「何で俺だったんですか?」
ロッカーがたまたま隣だっただけで、近さから考えれば、他にも何人かいなくはない。
わざわざ自分が選ばれた理由が分からなかった。
「え?言っていいの?」
小野崎がきょとんとした顔をして、名探偵の徘徊をとめる。
そんなに意外な理由なんだろうか。
気になった浩介は反射でうなづいた。



「志田君、女装似合いそうだからじゃない?」
―――聞かなきゃよかった。


「ありがとうございます」
頭を下げてから部室を出て行こうとすると、小野崎は部室の外まで見送ってくれた。
そこで、ふと気がつく。
――結局俺の女装癖疑惑は晴れていないままなんじゃ・・・?
「ささいなことは気にすんなよ!ここは男らしく!」
小野崎が、グーを突き出す。
思わず浩介もつきだしてしまったが、女装癖がある時点で、男らしさからは果てしなく遠ざかるんじゃないかと思う。
そしてよくよく思い返せば、自分は学食に付き合わされた上に小野崎にティラミスをおごり、その上問題解決をしてもらってない、ということに・・・。
小野崎の方を軽くにらむと、満面の笑みで繰り返してきた。
「ささいなことは気にすんな!」
その顔のまま浩介に手を振る小野崎。
「また来てねー」
「誰が来るか!」
浩介ははじまったばかりの高校生活の路線を正すかのように、小野崎の笑みに背を向けた。

その後路線は正せないまま、またこの部室の扉をたたくことになるとは―――今の浩介が知るはずもない。

                                to be continue・・・