- Wakin on a Pretty Daze/Kurt Vile
- ¥1,558
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フィラデルフィア出身のSSW,Kurt Vile2年ぶりの新作。元war on drugsのメンバーであるが、前作Smoke Ring for My Haloが高い評価を得、個人的にもその年のベストアルバムの一枚に選ばせてもらった。
サウンド的には割にオーソドックスなスタイルでありながら、ドラッギーな声とギター、儚く美しいメロディーラインで、人間の悲しみや痛みを描き出すのだが、リアルと夢の間を行き交うような浮遊感がすごく心地よく感じられた。ただ、気持ちいいんだけど何か不健康な感もあって、漂う背徳感みたいなものがアルバムのエネルギーとなっていたように思う。
で、この新作であるが、全体的には少しアップテンポ調の曲や、骨太感のある曲が増えた印象だが、スタイル的には大きく変わっていない。作り込んでいる感じはなく、リバーブのかかったギターが若干後退し、剥き出しのアコギのざらつき感がより楽曲の世界観を浮かび上がらせているように感じる。
オープニングのWakin' On A Pretty Dayは、70年代風の心地よいギターソロと柔らかなメロディーが延々続く。一聴すると、聴きやすい、親しみやすいと思う。しかし、詞はit's only dyingとか、I'm diggin layin low,lowlowとか実に暗い。そして結局、終盤になると軽やかだったギターから、紫色の煙が漂ってくる。
この後は、王道のアメリカン・ロック調のサウンドに、カートのぶっきらぼうなヴォーカルのKV Crimes、The Sea And CakeのようなパーカッシヴなギターロックのWas All Talkが続いていく。
そして、4曲目Girl Called Alex。内向的な妄想世界について歌っていて、エレアコをつま弾くところから、ダークでサイケな世界を展開していくが、途中から優しげなサウンドへと緩やかに変わっていく。
このような感じで、心地よいと思ったら知らないうちにダークな世界に引き込まれていたり、その逆もあったりする。それ故に尺の長い曲、シンプルな楽曲が多いにもかかわらず、聞き流すことのできない音楽として成立している。どんな世界観を提示しようとも、彼の表現者として発しているものの聴き手の誘引感が半端ないことが大きいと思う。
朝起きて、ふとアコギを手にして思いついたようなメロディー。この人の曲を聴いていると、いつもそんなことが頭に浮かぶ。それはどこか素朴だけど、強い中毒性を持っている。この「作り込まれてない」感こそが肝なんだと思う。アルバムのラストを飾るGoldtoneは10分以上続く。彼の意志の赴くままに、音楽は流れていく。しかし、それこそが「あるべき姿」であるような、強烈な佇まいを見せている。
誰でも鳴らせそうで、彼にしか鳴らせない、天性のローファイ・ロックだ。
(31/07/13)