That's Why God Made The Radio/The Beach Boys | Surf’s-Up

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 キャピトルからデビューして50周年を迎えるザ・ビーチ・ボーイズ。個人的には彼らに出会ってから音楽観が変わったというか、多大なる薫陶を受けたバンドである。50周年を盛大なアニバーサリーにしよういう思いが各々の中で通じるものがあったのか、ブライアン・ウィルソン復帰という嬉しすぎてある意味怖いサプライズが起こり、同時にニューアルバムを制作しているというニュースも届けられた。

 ピアノとコーラス、最後の悲しげなホーン。オープニングのThink About The Daysが流れた瞬間に、もうアルバムの世界にスッと引き込まれる。

  リードトラックThat's Why God Made The Radioはまさに全盛期を思わせるサマー・オブ・ラブな1曲。幾重にも折り重ねたハーモニーはもちろんのこと、ブライアンの紡ぎ出すメロディーの魔法は未だ持って健在であることを教えてくれる。


 親が全く音楽に興味が無く、家に満足なラジカセもなかった小学生時代、ラジオは唯一の貴重な音源だった。ビートルズを初めて聴いたのもNHK-FM。サウンドストリートやサウンドマーケット、そしてポップス・ベストテンといった番組が僕の音楽の先生だった。ラジオがなければ今の僕はいない。


 全体的にミドルテンポの曲が多く、年齢相応の落ち着いた感じに仕上がっている。コーラスワークも健在で、無理のない感じにまとめられている。ただ、この辺はサポートの力があってこそ、だと思う。ブライアンの「Imagination」のプロデューサーを務めたジョー・トーマスがブライアンと大半の曲を共作している。演奏の方もブライアンのバックバンドが参加し、なんと言っても心強いのはジェフリー・フォスケット。この人はソロとしても実に素晴らしいミュージシャンなんだけど、近年はブライアンのマインド・ミュージックを具現化すべく八面六臂の活躍を続けている。


評価されている「ペット・サウンズ」「スマイル」にあるようなシンフォニックなポップスは、アルバムの終盤に用意されている。Strange World,From There To Back Again、Pacific Coast Highway、Summer's Goneこの4曲の見事な流れで味わうことができる。前半楽しく盛り上がって聴いていても、ここに来ると胸をぎゅうぎゅうに締め付けられる。


 娯楽の少なかった、音楽に求められるものがとても大きかったあの時代の、心地の良いポップス。しかし、なぜなのかわからないけど全く古めかしい感じがしない。懐古的な音楽ではなく、今鳴り響くべき「うた」がそこにあるのだ。サウンド的には昔のポップスのフォーマットであっても、長い間生きてきて音楽をやってきた、音楽に恋い焦がれてきた人間だけが出せる「魂の宿った」ポップスは今の時代の「音」として逆に力強くなっている。もちろんポップスだから、ある種の刹那を孕んで。


 ★★★★(02/09/12)