Ciao!/Moonriders | Surf’s-Up

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ムーンライダース、35年目のラストアルバム、となるかどうかはわからないけど、活動休止宣言後にリリースされた21作目。日本ロック界のパイオニア的存在であるが、2011年11月11日に突如無期限の活動休止を発表。元々ソロとしてやっていけるだけの力量を持った人たちがそろっているわけで、そういう人たちがこんな風にバンドをやっているって事が僕は素敵なことのように思っていたので、すごく残念である。

 全12曲、メンバーが均等に2曲ずつ書いていて、半分は鈴木慶一選、そして半分は自選という構成になっている。最後と言うことで、公平性を重視したのかもしれないが、これが実に良いバランスを生んでいる。つまりはポップなものから、アヴァンギャルドなサイケまでムーンライダースの音楽性のあらゆる側面を味わうことのできる構成になっている。


 1曲は良明さん作のwho's gonna be reborn first?クールな変拍子と不穏な響きのサックスがねっとりと絡み合う。この、いきなりのぶっ飛び具合。挨拶代わりの1曲としては最高にかっこいい。良明さんのもう一つの曲Masque-Riderは一転して、大人のメランコリアを渋い味わいで聴かせる。


 2曲目無垢なままで、はくじらさんの作品。彼らしいチェンバーポップな1曲。もう1曲の弱気な不良 Part-2はややロックよりかつラーガな感じ。ムーンライダースのエキゾチックな側面は彼が担っている部分が大きいんだと言うことがよくわかる2曲である。


 3曲目Mt.,Kxは慶一さんの曲。ヨーロッパの民謡のような癖のあるメロディーが特徴的だ。もう1曲は、タイトルが慶一さんらしい、主なくとも 梅は咲く ならば (もはや何者でもない)。「主なくとも 梅は咲くならば/いてもいなくても 同じじゃないか」という歌詞が、何か今回の活動休止を指しているような気もするが、その先が決して終わりや暗い情景ではないということを感じさせる1曲だ。


 4曲目ハロー マーニャ小母さん ~Hello Madam Manya~は岡田徹作。軽妙なポップサウンドが彼の作風であるけど、この曲はその中でも白眉の出来だと思う。そして歌詞が素晴らしい。震災後に書き直されたらしいが、現代社会への風刺を忍ばせているあたりはさすがだ。ラストの、蒸気でできたプレイグランド劇場で ~The Vapor Theatre "Playground"~も彼の作品。これまたポップな曲調なんだけど、歌詞はもろに「終わり」の歌。


 5曲目Pain Rainはかしぶち哲朗作のスローナンバー。ジャパネスクな歌詞と切ないメロディーが、壮大に展開していく。そして活動休止発表時に公開されたラスト・ファンファーレも彼の手による曲。鳥が雄々しく孤高に空をどこまでも飛んでいくような、そんなイメージが浮かぶ。壮大なシンフォニック・ナンバーだ。


 6曲目折れた矢は鈴木博文作。ソフト・ロックっぽくて、どこか不条理感をはらんだサウンドである。一方、オカシな救済は肩の力が抜けて、スイート・ソウルなテイストさえ感じさせる。どちらもアルバムの中で異彩を放っている。


 と、勢い余って全曲のことを書いてしまったのは、このアルバムをトータルで計ることがどうしてもできなかったからだ。変な話、メンバー各人の顔がすごく見えるバンドなので、トータル感はどの作品でも薄い。でも、逆に言えば、いつだって「ホワイトアルバム」なのである。それぞれの世界観を、バンドとしてどう料理するのか、または破壊するのか。そういうスリルがムーンライダースにはあった。そのぎりぎりのバランスを保ち続けるのは大変だったろうと思う。またいつか、出会えるという期待も持ちつつ、各々の今後の活動にもまだまだ期待したい。


 ★★★★☆(15/05/12)