ディアハンターのフロントマン、ブラッドフォード・コックスのソロユニット、アトラス・サウンドの3rd。三枚目といっても、彼の場合コンスタントに音源を発表しているので、もっと出ていると思っていた。
今回のアルバム・コンセプトはずばり「SF」。これはブロードキャストのトリッシュ・キーナンによる勧めによってのことらしい。彼女は今年の1月に亡くなってしまったが、その意志を受け継ぎ、ブラッドフォードは自らを「宇宙からやってきた昆虫」と設定して、このアルバムを作り上げた。この手法はまさにかつてのデヴィット・ボウイと同じ。もちろんその点については積極的に意識しながらレコーディングしていったそうである。
SFチックなコンセプトアルバムというと2011年度版「ジギー・スターダスト」になるのかと思ったが、あのアルバムほどの強烈なドラマツルギーはない。どちらか言うと、楽曲の世界観でキャラクターを浮かび上がらせるといった感じである。ステレオタイプなSFチックな曲はここにはない。ディアハンターのHalcyon Digestを思わせるようなモノクロームなサウンドである。
アトラス・サウンドのアルバムの中ではもっとも起承転結のあるメロディーが流れるアルバムだと思う。ブラッドフォードは50年代のロカビリーを意識して作ったそうで、確かに尺も3分程度の曲が多いし、少しくぐもったサウンドはアナログ的な感触をもたらしている。
オープニングを飾るThe Shakes、Mona Lisa(ベルセバみたい)やAngel Is Brokenはキャリアを通じてもっともポップなんじゃないかと言うくらいきらめくメロディーがそこにある。もともとそういう素養を感じさせるソングライティングだったが、正直ここまで素直に開花させるとは思っていなかった。
しかし、それだけで終わるはずがなく、従来の毒気のあるサイケデリアも随所ににおわせている。うねうねしたシンセサウンドがアニコレ(というよりPanda bear)的なTe Amo、割と直球的な暗黒的サイケDoldrumsなどといった曲が、アルバムの中で対比的な構造を生むように並べられている。
特筆すべきはヴォーカル・スタイル。ジャケットでもマイクを持っているように、今作はかなりヴォーカルに力を入れているように思う。とてもエモーショナルに彼の歌声が響いているのだ。こんなに歌えるのかと、ヴォーカリストとしての彼への評価が自分の中で上がった。
個人的ベストトラックはTerra Incognita。美しいアコギのイントロから、妖しい光を放つヴォーカルが絡んでいくのだけど、最終的にはそれらがサウンドスケープの渦に飲み込まれていく。その破滅的な感じがすごく良かった。
アトラス・サウンドのアルバムの中では一番わかりやすくて取っつきやすい作品だと思うし、個人的には一番好きなアルバム。Halcyon Digestが好きな人もきっと気に入ると思う。でも、彼らの毒性が苦手な人には、やっぱり敷居が高いアルバムかな。
★★★★(27/11/11)