これまでにも数多くのソロ作品をリリースしているサーストンであるが、その作風の振れ幅も大きい。歌ものから、サーストン流「メタル・マシーン・ミュージック」まで、本当にやりたいことだけを躊躇無くやれるというのは、ミュージシャンにとっては一つの理想郷だろう。
ただ、個人的にはそういうミュージシャンの中には単に「悦に浸っている」だけに見える様な人もいる。そこが難しいと思う。僕にとって、サーストンはその「境界線」にいる人だ。これまでサーストンのソロ作品には感動することもあったし、がっかりしたこともあった。彼の表現の自由さを享受できるだけの感性を自分が持ち合わせていないだけなのだが、それでも自分も一リスナーであることに代わりはない。
だから、「サーストンのソロ作品」はまず聴く前の覚悟が必要となる。何せ「中途半端」に収まることがないのだ。常にオール・オア・ナッシング。そんな気持ちで聴いてみた。
プロデューサーは、あのベック。ベックも躊躇無く自分の音楽を追究している一人であるが、彼の作品にはかならず心をふるわせれる瞬間がある。その瞬間の連続もある。彼の音楽性だって相当にフリーキーなのだが、そこを絶妙にセルフ・コントロールする力がある。それ故にこの2人の組み合わせはベスト・マッチングだと思う。
歌もののソロとしては「Trees Outside The Academy」があるが、比べると今作はアコースティックな音作りになっている。そして、そこかしこにストリングスの彩りが加えられている。サーストンの歌い方も非常に穏やかで、これほどまでに優しげな音像となっていることに驚かされる。当然ながら、極上のアコースティック・アルバムとなっている。
ソニック・ユースではあまり取り上げられることのない、彼のメロディー・センスもここではかなりメロウな側面を見せている。全体的なトーンが低めなので甘く感じられることはないが、緊張感の中にふと柔らかな日差しが差し込むような、ふと気持ちを和ませる効果をもたらしてくれる。
当然こういうものを「ぬるい」と切り捨てる人もいるとは思う。でも、自分にとってはちっともぬるくはなく、むしろ心や感性にヒリヒリとすり込まれていくような、ロック的な作品だ。
★★★★☆(22/10/11)