ニールヤング1年ぶりの新作。現在65歳にして、現役バリバリ。そのこと自体すごいことなのだが、年齢云々ということは全く問題でなくて、純粋にこの作品の魅力に耳を傾けて欲しい。
新作を出すごとに、その作風も大きく変わるのがニール・ヤング。個人的に一番好きな時代は80年代終盤から90年代にかけての作品。というだけで、数多のニールファンは引くだろうが、好きなものはしょうがない。僕の中ではグランジ隆盛の頃に、負けず劣らず轟音を鳴らしまくっていたニールが一番かっこよかったのだ。
一般的にはHarvest,After The Gold Rushなどの初期の作品が評価されているが、それだけでは彼の真の部分をとうてい知ることは出来ないと思う。かく言う自分もアルバム全部を聴いているわけではないし、ディスコグラフィーを見ても聴いたことのないものの方がずっと多い。
しかしながら、長い活動の中で一貫して言えるのは、その時代において常に自分自身と向き合って挑戦していることだ。その時に歌いたいことを、歌いたいスタイルで歌う。心から湧き出るものに忠実に。悲しみを、怒りを、愛を。
全8曲、ほぼ一発録音。ニールの歌とギターのみというシンプルな構成だが、ただの弾き語りアルバムではない。弾き語りというとアコースティックギターのイメージがあるが、ここではエレキがメインとなった曲が多い。それも柔らかな音色ではなくて、ゴリゴリにノイジーなものが中心だ。
1曲目Walk With Me。イントロからいきなり歪みまくったギターが奏でられる。しかし、一聴しただけですぐにニールのギターだとわかる。そして「君の愛を感じる/君の強い愛を感じる」と歌うのである。もうなんというか、ここで鳴っている全ての音に彼のスピリットが宿っているような感がある。とにかく圧倒的な世界観。シンプルこの上ない構成で、どうしてこんな事が出来るのか?そのほかにも歌詞が感動的なLove And War、怒りが闇の中で燃え上がっているAngry World,一転アコギで叙情的なメロディーを奏でるPeaceful Valley Boulevardなど、収録されているどれもが、ニール・ヤングという人そのものが自然と露わになっている感がある。
プロデューサーはダニエル・ラノワ。一発取りされたギターサウンドにラノワがかなり音響処理を施したようだが、それがこのジャケットのようにモノクロで幽玄的な音空間になっている。例えばHitchhikerではギターが幾重にも重ねられ、サイケデリックな雰囲気を生み出している。それ故、単に無骨なロックアルバムとはなっていない。非常に繊細な面も垣間見えるような、味わい深いアルバムとなっている。
結構昔の話しだが、シニード・オコナーという女性アーティストがテレビ番組でヨハネ・パウロ2世に抗議の意味で写真を破いたことがあり、アメリカではひどい批判を受けた。彼女はその後、ボブ・ディランの30周年記念コンサートに出演する。ボブをリスペクトするアーティスト、多くのロックファンがお祭り騒ぎの中で、彼女だけが激しいブーイングを受け、バンドが演奏できず、ついにはボブ・マーリーのWarをアカペラで歌い泣きながら舞台を降りる事となる。ディランはこのことについてコメントしていないが、仏頂面を崩すことなく最後に出演し、彼のパフォーマンスを待ち望んでいた観客に一つも愛想を見せることなくステージを去っていった。その際に、唯一ボブが握手を求めたのがニール・ヤングだったという。
僕はこのエピソードがとても心に残っていて、最後にこんなエピソードを紹介したくなったのは、普段着のままAll Along The Watchtowerを歌ったニールと自分が主役の場で笑顔一つ見せること無かったボブの2人は、今ロックがロックであり続けるために未だかけがえのない存在なのではないかと思ったからだ。あくまで私見です。
★★★★☆(28/11/10)