スフィアン・スティーブンス、オリジナル楽曲によるフルアルバムとしては5年ぶりとなる新作。しかしその5年の間にも豊富なアイディアによって作品リリースは継続的に行ってきた。そういう意味では、止めどない表現欲求がある人なんだろうと思っていたのだが、実際は全てが順調ではなかったようである。
というのも、この新作が完成に至るまでに、自分を見失い、音楽を作る事への意味を見いだせなくなったことがあったようなのだ。休養し健康を回復してから、自分の手持ちの未完成素材がたくさんあることに気づき、それを完成させるために3ヶ月間作業に没頭し、出来上がったのが今作「The Age Of Adz」である。
2005年にリリースされた歌ものアルバム「イリノイ」は各音楽雑誌で絶賛され、彼自身が世間に認知されるきっかけともなったが、今作はまた違ったアプローチで取り組んだ歌ものになっている。
曲のフォーマットはフォークソング的な、シンプルで雄大な美を感じさせるようなものでありながらも、そこにエフェクトやサンプリングなど過密的にアイディアを放り込んでいくことによって、現代のウォール・オブ・サウンドとでも言うべき音が構築されている。元々デビューした頃はエレクトロ寄りの音を出していたということらしいが、ヴォコーダーやループなど、ここまで徹頭徹尾楽曲を加工することはある意味勇気のいることだったんじゃないだろうか。
しかし、それでもしっかり「歌」となっているところがすごい。頭から終わりまで、一番躍動しているのはスフィアンの歌声なのだ。そしてメロディーのきらめきが全く損なわれることなく、詰め込まれた過密と思われる音のピースを余すことなく共鳴させ、眩い光を放っている。
また、その力強さとは別にそのサウンド・コラージュは繊細だ。特にラストを飾る25分以上の大作、Impossible Soulはその集大成的な曲だろう。実際は5曲がつなぎ合わされているのだが、これもまた興味深い。えげつなきギターロックやダンス・チューンなど変化を繰り返し、最後はアコギをつま弾きながらフォーキーに終わってゆく。様々なアイディアに耳を奪われっぱなしで終わってしまう。緻密さと大胆さをこれだけ自在に体現できるアーティストはそういないだろう。
とにかく1曲1曲の情報量が多く、リスナーとしても咀嚼力が試されるところがあるかもしれない。個人的にはどんなサウンド・スケープを描きながらも、最終的に姿を現す彼の「歌心」にすっかりはまるきっかけとなった1枚だ。これは「イリノイ」をちゃんと聴かなきゃ。
★★★★☆(14/11/10)