Travisのフロントマン、フラン・ヒーリィの1stソロアルバム。これまでは「Travisが一番大切」と、ソロ活動には割と否定的な態度を取ってきたフランであったが、Travisが休みに入った段階で、これまで溜まりに溜まった未発表曲・未完成曲のアイディアを少しでも形にしようとレコーディングを始めたことがきっかけとなったそうだ。
演奏はフランがほぼ一人で演奏。しかし、ベースだけは自分の納得いく音が出せずに外部のミュージシャンが演奏している。As It Comesではなんとポール・マッカートニーが弾いている。フランの依頼にポールが快諾し、実現したものだが、フランは感激のあまりポールを喜ばせようと、家族全員ベジタリアンになった。どんなプレゼントももらい慣れているだろうポールを、どうやったら喜ばせられるか思案した結果のことだった。
Travisでは全曲のソングライティングを担当していたフラン。あの天から舞い降りてくるような美しいメロディーは全てフランの才能から生まれたわけで、もちろんこのソロ1stにも喜びと悲しみが表裏一体となったようなガラスのメロディーが散りばめられている。しかし、このソロアルバムの狙いは普遍的な魅力に溢れた歌より、純粋な「フラン・ヒーリィの音楽」を作ろうというところに重きが置かれていると思う。
メランコリックなピアノのイントロで始まる1曲目In The Morning。メロディーはまさにフラン印。しかし、ストリングスとややトライバルなビートが独特の緊張感を与えている。続くAnythingも、たゆたうようなメロディーの中を小舟で進むフランが見えてくるような、儚さを感じさせるナンバー。3曲目Sing Me To Sleepは多分打ち込みと思われるビートとアコギのシンプルなサウンドの中で、ゲストのニコ・ケイスとデュエットを披露。フランのバッキングが美しすぎてややニコが浮いてしまうところもあるが、結婚した男女の心情を切なく歌い上げている。
ポールが参加したAs It Comesはシンプルなリフレインのメロディーだが、やや影のかかったグルーヴ感を出すのは確かに難しかっただろう。ポールはそれをヘフナーのベースで事も無げにやっている。ファーストシングルのButtercupsは、割とTravisに近いサウンド。美メロが空に向かって広がっていくような開放感のあるナンバー(ちなみにButtercupsとはキンポウゲのこと)。希望と現実のズレを飲み込めない男の悲しい叫びを、フランが絶妙に歌い上げている。
Travisのフランとして考えたらどうしてもメロディーの質、人々を虜にしてしまうような美しさを持っているか、親しみやすさがあるか、といったところに着目してしまうだろう。だが、それではこのアルバムを楽しむことは出来ないだろう。もちろんこれは今作のメロディーの質が低い、という意味ではない。むしろ、フランはここでも全く変わらない、フランにしか書けないような美メロを連発している。
このアルバムが生まれた意味は、先に述べたように純粋に自分100%で勝負したらどんなものが出来上がるのかという探求なのだと思う。だから、聞けば分かると思うがTravisはやはり「バンド」なのだ。今作にはそのバンド的な個々のぶつかり合い、絡み合いがない。あるのは、一人の作り手の頭にある「設計図」に忠実に作られたような整合感。「これぞソロ」というような音になっているのだ。その影響だろうか、フランの歌が非常に伸びやかに、表現力も増したように聞こえる。そういう意味ではメロディーメイカーとしてよりヴォーカリストとしてのフランが堪能できるアルバムだと思う。
できればそのモードのままで、Travisのニューアルバム作ってくれないだろうか。
★★★★(30/10/10)