High Violet/The National | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

Surf’s-Up 帯によると「ブルックリン最後の大物」らしい、The Nationalの5th。「ブルックリン」という言葉で、最近はややイメージが限定的になってしまうが、このThe Nationalはややイメージと違う音を出すバンドだと思う。


 前作「Boxer」が絶賛され商業的にも成功を収めた彼ら。R.E.M.と共にツアーを回ったり、アーケード・ファイアやダーティー・プロジェクターズらの楽曲を収めたコンピレーション「Dark Was The Night」を手がけるなど、自分たちの立ち位置をしっかりと固めてきた。そして、満を持してのニューアルバム。期待に違わぬ充実作である。


 基本的なフォーマットはギターロックであるが、バリトンボイスのヴォーカル、全体的にダークな雰囲気を持ったサウンドはEditorsやInterpolを想起させる。ただ、スタイルの幅広さはThe Nationalの方が上だろう。単色系の音作りでありながら、その表現力は極めて高い。アコースティックやストリングスを散りばめながら、曲の稜線を丁寧に描こうとしている。


 楽曲はメロディアスな方ではないが、とてもドラマ性の強いメロディーを持っている。それゆえにダークな中にもメラメラ燃えるようなエモーショナルさが爆発するという展開が多く、そこがすごくいい。重めのドラムビートからメランコリックなメロディーがふんわり拡がっていくAnyone's Ghost、ややフォーキーなサウンドから壮大に展開してみせるRunaway、抑え気味のリフやビートが重ねられた中でつぶやくような歌がセクシャルさを感じさせるConversation16など、表現力の幅広さを存分に感じられるような作りにしたのは、バンドの個性や魅力を伝えるという意味で正解だろう。個人的には、あとテンポの緩急ささえあれば申し分なかった。


 ちなみにこのアルバム全米で3位と、セールス的にも大成功を収めている。The Nationalの新作を買いたい、という人がアメリカにはたくさんいたということだ。こういうサウンドのアルバムがこれだけ売れるって、やっぱり英米の音楽に対するリアクションって想像がつかないことが多い。そういえば小学生の頃に「今までで一番、長年にわたってチャートインしたアルバム」って知ってから、「狂気」を聴いたときもそれに近いことを考えたような気がする。


おすすめ度★★★★☆(27/06/10)