扉をたたく人 | Surf’s-Up

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音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

扉をたたく人 [DVD]/リチャード・ジェンキンス,ヒアム・アッバス,ハーズ・スレイマン



愛妻に先立たれ、心を閉ざして孤独に暮らしていた大学教授のウォルターは、久々にニューヨークにある別宅のアパートを訪れるが、そこにはいつの間にか見知らぬ移民の男女が暮らしていた。シリア出身の青年タレクは“ジャンべ”というアフリカ発祥の太鼓の奏者であり、ウォルターはタレクからジャンベを習い始め、2人は次第に心を通わせていくが……。




ウォルター役のリチャード・ジェンキンスはこの作品でアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされましたが、演技よりは不思議な存在感が目を惹きます。



決して大きな演技をするわけではない。でも、冒頭の精気の無さから、生き生きとジャンべを叩く姿まで、心の中でくすぶっていた炎が再び赤々と燃え出す様子を独特の表情で表しています。(「バーン・アフター・リーディング」でも、最後はあっさり殺されてしまう、ちょっぴり湿っぽい役どころを上手く演じていました。)ジャンベ奏者のタレクがパンツ姿で練習していて「練習するときはこの姿が良いんだ」と言ったのを真に受けて、ウォルターもこっそり一人でパンツ姿で練習するなど、くすりと笑える場面もあったりしますが、リチャード・ジェンキンスが演じてこその可笑しさです。



ウォルターが魅せられていくジャンベ、そして純粋に生きる若者達。彼等と交流し、ウォルターが生きる喜びにもう一度目覚めたときに悲劇が訪れます。9.11以降のアメリカが「扉を閉ざした」状態にあるととらえ、人間性を無視した無謀な管理体制があらわになる瞬間です。



不法滞在の問題は難しい。確かに全ての人が悪人というわけではない。でも、そこに昔から住んでいる人間にとっては、素性の知れない移民がいるということに不安を覚えるのは当然だろう。半ば機械的に対応するよりほかないのかもしれない。



ラストシーンのウォルターの魂が叩くジャンベは、力強くも悲しい響きです。観た後、いろんなことを考えてしまうタイプの映画でした。