高校3年の時の話。

クラスに正太郎という男がいた。
勉強は普通にできるのだが、かなりの勘違い野郎であった。
正太郎は自分には親友がたくさんいると豪語するのだが、相手は親友などと思ってはいない。
私もその勘違い親友の一人になっていた。

正太郎には好きな女の子がいて、同じクラスの松本さんであることは、
だいたいの奴が知っていた。
まぁまぁ普通の容姿の松本さんであったが、正太郎に好きになられるとは迷惑な話である。
この話はクラスで悪さをする大原の耳にも入っていた。

バレンタインデーの日の夜、私の家に正太郎から電話がかかってきた。
電話の内容は・・・
今日、正太郎の学校の下足箱の中にチョコと『電話くださいね。From松本』と書いた手紙が入っていた。
そして、意中の松本さんに「おー、サンキュー、松本」と唇をとがらせながら電話したら、
「何のこと?」と相手にしてもらえなかった。
ということだった。

私には、その時点でゲリラ大原の犯行だとは察しがついたが、
その日、ある大学から不合格通知が届いて頭にきてたこともあり、
「頭のいい、E組の松本さんではないか?」
と進言してしまった。
あの真面目な松本さんがこの受験の時期にチョコなど渡すなど考えられないことなのだが。

勘違い男の正太郎はまたしても頭のいい松本さんに電話をかけ、また間違いだと発覚する。

同学年に松本さんはもう一人いるのだが、
その子はかなりの巨漢でチョコをもらってもあまり喜べる相手ではなかったこともあり、
正太郎の捜索活動もここで終わったようだ。
後日、私が大原に「お前がやったんだろう」と言うと、大原は不敵な笑みを浮かべていた。


正太郎は大学受験に失敗し、浪人した。


正太郎の話はここで終わるかと思われたが、
高校を卒業してから、7年~8年くらい経ったころ、正太郎と同じ大学に行っていた会社の同期の奴に
「○○正太郎って知ってるか?」
と聞いたら、
「知ってる!あいつ、変人で有名な奴だった。」
大学でも有名人だったらしい。

さすがに同じ高校だったとは言い出せなかった。