昨日、技術士試験は簡単なのか① を書いた。
うーん、己の経験・体験から得た感覚では、事実と大きく異なることを書いてはいないと思う。
で、「技術士は簡単なのか②」を書こうか、と思ったのだが、
Wikipediaの妙な記事(情報処理技術者試験との関係) をつらつらとみているうちに、思ったことがある。
技術士試験がいったいなんなのか。
情報処理技術者試験がなんなのか。
IT技術者にとって、両者の関係がいったいなんなのか。
実はみんな、よく知らないんじゃないのかと。
よくわからないから、巷のうわさで、最高峰はこれだ、といわれると反発する。
実際の試験をみて、技術士試験がなんだか簡単そうに思えた人が、技術士を装って、簡単だと言いふらすことさえある。
いや、実力があって、技術士試験が実際に簡単だと思う、そんな人もいるとは思う。
そういう人は、世間一般の評価とは逆に、技術士や高度論文試験は簡単だが、基本情報技術者とかはうっかり不合格になってしまうタイプの人だろう。
実力派の技術者は、駆け出しのころ習った、基礎理論があやふやになっちゃってる人が、時にいる。
そういうケースをもって、基本情報技術者が高度論文試験より難しいと主張するのは無理があるだろう。
話が脱線した。
ネットでは、技術士試験が論文試験だと知らない(!) 人すらいたし、
妙な記事(情報処理技術者試験との関係) の理解は、まだましな方なのだろう。
だから、まあしばらくは技術士試験について書いてみようかと思う。
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IT技術者にとっての、技術士試験と情報処理技術者試験の関係
まず、結論から言う。
結論:技術士(情報工学)試験は、情報処理技術者試験の、上位試験となる。
その理由は、
① 情報処理技術者試験は、IT技術者の「知識・技能」が一定以上であることを示すものである。
② 技術士(情報工学)試験は、IT技術者が、科学技術に関する高度な応用能力を備えていることを認定するものである。
この場合の応用能力とは、技術コンサルタント能力であると解されている。
③ IT技術者は、情報処理技術者試験を通じて「知識・技能」が水準であることを証明し、次に、技術士試験を通じて、その「知識・技能」を用いた「応用能力」があることを証明する。
④ 従って、技術士(情報工学)受験者にとり、情報処理技術者試験の合格は、事実上、前提条件である。
(要は、基本→応用→高度区分→技術士(情報工学)という道筋なのだということになる。)
現行の試験制度から導き出される、技術士試験と情報処理技術者試験の関係は、このようになり、最初の結論が導き出される。
議論するまでもない、技術士試験と情報処理技術者試験の定義から①、②は自明であるし、
そこから③は当然に導かれる。
そして、IT業界における、情報処理技術者試験の知名度を考慮すると、
④も当然に導かれ、結論がでる。
技術士試験でも、当然に「知識・技能」を確認はしてはいる。
しかし、技術士試験はあくまで「応用能力の有無」を判定するのがメインの試験である。
「応用能力」を使うためには、核となる「知識・技能」があるのは大前提。
それは、技術士の受験資格を得るまでの7年間で、自ら習得することが期待されている。
技術士試験でフォローしない、その7年間については、
情報処理技術者試験の合格をマイルストーンとして、研鑽を積むのが適当であろう。
技術士試験を前提にすれば、情報処理技術者試験は、そのような位置づけになる。
別の言い方をすれば、
技術士(情報工学)にとって
情報処理技術者試験は、基礎練習。
技術士(情報工学)試験は、応用練習。
それが、技術士試験と情報処理技術者試験との関係である。
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また、以下でそれを検証してみたいが、その前に書いておくことがある。
一般的に、資格の難易度をもっともらしく書いているサイトがある。
たいてい、弁護士が頂点となっているが、あそこでのIT系の技術資格の評価方法は、問題が多々ある。
その最たるものが、技術者の成長を考慮した書き方になっていないことだ。
弁護士でもなんでも、普通の資格は20代での取得を前提としている。
しかし、情報処理技術者試験を含むIT資格は、20~40代で、技術者の成長にあわせて段階的に取得するよう設計されているのだ。たとえば、一般的なIT技術者が、22歳でITストラテジストだけをとっても、技術者としての基礎資格がとれてないようでは使い道があるまい。
そういうことだ。IT資格を単純な難易度で評価するのは、いかがなものかと思う。
さて、私流に検証してみよう。
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【 合格者の平均年齢に注目する。 】
まず、合格者の平均年齢に注目してみよう。
平成25年10月時点で、IPAの資料 と、技術士会の資料 から、
直近の試験の合格者の平均年齢を求め、若い順にソートした結果を次に示す。
ITSS | 試験名 | 合格者の平均年齢 |
レベル2 | 基本情報技術者 | 25.4 |
レベル3 | 応用情報技術者 | 28.3 |
レベル4 | データベーススペシャリスト | 31.8 |
〃 | ネットワークスペシャリスト | 32.5 |
〃 | エンベデッドシステムスペシャリスト | 33.9 |
〃 | 情報セキュリティスペシャリスト | 34.0 |
〃 | システムアーキテクト | 35.7 |
〃 | プロジェクトマネージャ | 36.9 |
〃 | ITサービスマネージャ | 37.7 |
〃 | ITストラテジスト | 39.2 |
〃 | システム監査技術者 | 39.9 |
評価外 | 技術士 | 41.9 |
いかがだろうか。
情報処理技術者試験の難易度 の記事で、情報処理技術者試験の序列を書いたが、ほぼ似たような順番になっていることがわかるだろうか。
(注) 二つの表は、逆順だった。(汗) まあでもわかってもらえるだろう。
合格者の平均年齢は、合格に必要な勉強時間・経験を反映しているので、難易度の順に似てくるのは、当然のことだろう。
しかしそれよりも。
この表から、平均的なIT技術者が、どのように成長していくか、それが読み取れることに注目すべきである。
IT技術者が新卒でSI企業に入社し、
20代のうちにITSSのレベル2、レベル3の試験に合格して基礎的な実力をつける。
そして30前後で、一部の者が評価を求めてスペシャリスト系を取得する。
(一般的にCisco,Oracle,Microsoft等のベンダー資格は、この時期までに取得する。
それがたとえベンダの最上位資格であってもだ)
そして、30半ばで一部の者が、高度論文系の下位資格に合格し、管理者の道へ進む。
30後半で、さらに一部の者が、高度論文系の上位資格に合格し、上級管理者への道へ進む。
40代で、ごくごく一部の技術者が、更なる技術的評価を求めて技術士を取得する。
そういった事柄が読み取れると思う。
もちろん、全員が全区分を取得するわけではない。
己のキャリアパスや欲求に従い、必要十分と思われるところで、IT資格試験を「卒業」していく。
(だから、各資格の取得者の総数は、基本情報技術者がもっとも多く、技術士が最も少ない。)
この平均年齢を大きく逸脱する例も、ないことはないが、まあ、平均だけあって、普通はこういう成長をたどる。
こういう事情を知っていれば、情報処理技術者試験と技術士試験のどちらか役に立つだの、たたないだの、技術士の難易度が情報処理技術者試験のスペシャリスト系や論文系と比べてどうこうという議論が、技術士である私にとって、とても馬鹿馬鹿しいものに思えることは、理解してもらえると思う。
技術士(情報工学)にとっては、(己の専門分野においては)情報処理技術者試験もベンダー試験も、既に通過した場所だからだ。
(By 烈海王)
そういうわけで。
技術士は、若いときに、情報処理技術者試験やベンダー試験を取得し、
業務経験をみっちりと積んで、その上で受験するよう、設計されている試験なのだ。
だから、技術士試験は、実力のない人は、最初から受験できない。
業務経験7年が必要だし、業務経歴に社長の判子を押すことでハードルを設けているし、
とどめに、大学教授や民間コンサル技術者による面接試験で、技術能力の真贋を判定する。
実力のない人は、ここまでのどこかで排除される。
そして、第三者が認めるような実力がある人なら、
受験資格ができる7年の間に、高度区分のひとつやふたつ、余裕で合格しているはずなのだ。
逆に、高度区分すら合格できない人は、まず技術士試験を受けようと思わないだろう。
どう考えたって、情報処理技術者試験やベンダー試験の方が、楽で簡単だ。
もし何かの間違いで、技術士試験を受けるというなら、それは無謀もいいところだろう。
競争相手は全員、高度区分の合格者。IT資格試験ずれした猛者ぞろいなのだから。
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(補足:つぶやき)
高度区分に受からず、情報処理の「知識・能力」が水準に達さない人が、技術士受験したとして。
「応用能力」を問う技術士試験において、上位10%の合格水準に達するケースがありえるだろうか。
いや、ないだろう。とんちんかんな答案しか書けないと思うが。
---------------------------------------まあ、そういう感じで、
情報処理技術者試験は、基礎練習。
技術士(情報工学)試験は、応用練習。
(技術コンサルの場が、本試合)
以上の関係が、合格者の平均年齢からも、裏付けられると思う。
情報処理技術者試験などでの研鑽(=基礎練習)なしに、
技術士(情報工学)の合格(=応用練習)などありえない。
技術士にとって、情報処理技術者試験は、
・己がこれまで自己研鑽してきたことの証明
であり、
・本番(技術士試験)までの、腕試し
であるのだ。
今日はここまで。