なかめぐろんは、想いを馳せ始めた。
『You can make your own garden.』
と、前を歩く男子学生のカバンに書いてある。
なるほど、ね。
そりゃ確かに庭が自由に作れたら楽しいわ。イギリス式庭園限定で、と言われてはいかん。
自由万歳。フリーダム。
しかし、なんだか上から目線で言われているような感じは否めない。
Your friend is Akiko. と言われてしまったくらいの戸惑い。
友人くらい、自分で分かってるって。
それを言われたらどう答えるのが正解?「ええ、そうです」?「ええ、本当?」?
そもそも、Youからスタートするのがよくない。ユー、わかってる?
じゃあ I can make my own garden. ならいいか。
『私は私なりの庭をクリエイトすることができます!ふははははは!』
たぶん、とかじゃなく、だめだ。
いや、もう考えたらこのメッセージがなんだかよくない。
意味がないもの。大した意味が。
だめだ、これは大した結論が得られない最後が待っている。この思考回路に
はまってはいけない。ループする。着地点の見えないまま、ただただループする。
そんな予感。悪寒。
そもそも、この人はなんでこんなメッセージの入ったものを身に着けているんだろう。
ああ、そっか、ちょっとデザインの凝ったカバンだったからか。
デザインのよさが、このメッセージの無意味さを上回ったと、そういうことね。
ここらで納得しようよ、私。
なんて、電車から降りて目的地に着くまでの8分ほどを、無駄に過ごしてしまった
そんな日だったからいけなかった。
夕食を求めて入ったスーパー。
目の前の男性客のTシャツに、何気なく目を向けてしまったのがいけなかった。
『俺は 妖怪になって 1億年生きたい』
どこから突っ込めばいいのだろう。
ただべム・ベラよろしく妖怪になっただけではだめだというのだ。
1億年を生きなくては。
ただ1億年を生きたのではだめだというのだ。
妖怪になっていなければ。
望み高すぎやしないか?
ほかに補足説明のない、この潔さ。
窮鼠猫を噛んだような、やけくそさ、とでもいうか。
カバンではない。それはそれはどこにでもあるような、シンプルなTシャツだ。
絶対にほかにもたくさんあっただろうに。残念すぎる。
いったいなぜこのメッセージを手に取ったのだろう
『これこそ、俺の今の気持ちを代弁してるぜ』
そんな男性客は、右斜め1.5メートル前で、冷静に豆腐の品定めをしている。
どこから突っ込めばいいのだろう。
フェードアウト