ユイの歌
「起きて。……起きて、結祈」
妹の声が聞こえ、私は重い瞼を開く。今日は日曜、もう少し寝ていたいと思ったが、カーテンの隙間から静かに射し込む日の光を見て少し気が変わった。
「見て。いい天気だよ。散歩に行こうよ」
……まあたまにはいいか。全身の怠さと空腹感を覚えつつ、リビングに向かう。
「あら、珍しいわね。今日は出掛けるにはいいお天気よ」
「おはよう母さん。最近暖かくなってきたし、今日は市場でも歩いて来るよ」
「……ね、市場まで行くなら、頼まれてくれないかしら」
「買い物?」
「ええ……この間結祈ちゃん、花瓶割ったでしょう。新しいのを買ってきてちょうだい」
……とりあえず家を出てきたが、身に覚えがない。多分妹のユイがやったんだな。
「花瓶壊しちゃったの私なの」
後ろから小さな声が聞こえる。
「……でしょうね。ユイ以外にいないもの。別に気にしてないよ」
妹は、ユイは……母さんや、他の人の目には声も聞こえないし姿も見えない。私たちは……いや、ユイは、私と共に生きてきた。
「あはは……それにしても市場に行くのは久し振りだね!」
正直妹のこういうテンションにはついていけない。何がそれにしてもだ。切り替えが早過ぎる。
「……うん、まぁそうね……」
「花瓶はね、市場のどこだったかな……えーっと……」
……市場に着いたのは午前9時頃だった筈だ。妹を当てにした私が馬鹿だった。大して大きくもない市場を隅から隅まで歩き回って、家に帰ってきた頃には太陽が真上に昇っていた。
庭にぽつりと置かれたガーデンテーブルと椅子が2つ。妹を先に座らせ、私はさっき買ってきたばかりの新鮮なフルーツからジュースを搾って、2つのグラスをテーブルに置いた。
「……美味しい!本当に美味しい!」
妹は何度も言いながら、本当に美味しそうに飲んでいる。……他の人から見れば、グラスが浮いて、どんどんジュースが無くなっていくように見えるのだろうか。
「ぷっはー!」
早いなあ……でも仕方ない。ユイはいつもお腹を空かせている。ユイの食事は全て私が用意しなくてはならない。母さんに頼みたい所だが、全てを話すわけにはいかないのだ。……私もユイも幼かった頃、私がユイと話しているのを見ると父も母もそれを気味悪がった。私はいつしか人前でユイと話すことはしなくなった。
「……結祈?」
「どうかした?」
「それ飲まないの?飲んでいい?」
「まだ飲むの……」
「冗談冗談。お花飾らないの?」
「あぁ、そっか。早く生けないと萎れちゃう。やっぱそれ飲んでいいよ」
花瓶のついでに、生ける花も買ってきたのだ。急いで水切りをして花瓶に生け、なんとなくそれを眺めた。ガラスの花瓶がオレンジ色の花と、自分の顔とを映している。
……庭からユイの歌声が聴こえる。耳を傾けると、今日の出来事を面白おかしく歌っているようだ。……透き通るような歌声、か。歌詞こそ適当だが、全くその通りに感じた。悲しいことに誰の耳にも届かない歌声。……ユイのことはずっと妹だと思ってきたがそれは私が面倒をみているからであって、本当のところは定かではない。見た目からするとわたしたちは双子のようだ。名前も双子らしく、私のユキというのに合わせて私がユイと名付けた。ユイは私と共に成長している、ということは私と同じように死ぬのだろうか。もしユイが病気にでもなったら私はどうすれば……
「ねえ結祈ーーーー!!!!お昼ご飯まだーーーー??!!」
……最悪の想像をしていたのが馬鹿らしくなる。うん、とにかく今はこれでいいんだよね。馬鹿みたいに明るいユイがいて、私の手を焼かせて。
「ねーーえーーーー!!!!」
「煩い!!!!!!!!」
「あら、どうかしたの結祈ちゃん?あ、お使いありがとうね」
「あ……うん……」
「結祈ちゃん大丈夫かなー?ふふふふ!」
母さんから見えないことをユイはあまり気にしていないどころか面白がっているようで、いつまでもお腹を抱えて笑っていた。
「起きて。……起きて、結祈」
妹の声が聞こえ、私は重い瞼を開く。今日は日曜、もう少し寝ていたいと思ったが、カーテンの隙間から静かに射し込む日の光を見て少し気が変わった。
「見て。いい天気だよ。散歩に行こうよ」
……まあたまにはいいか。全身の怠さと空腹感を覚えつつ、リビングに向かう。
「あら、珍しいわね。今日は出掛けるにはいいお天気よ」
「おはよう母さん。最近暖かくなってきたし、今日は市場でも歩いて来るよ」
「……ね、市場まで行くなら、頼まれてくれないかしら」
「買い物?」
「ええ……この間結祈ちゃん、花瓶割ったでしょう。新しいのを買ってきてちょうだい」
……とりあえず家を出てきたが、身に覚えがない。多分妹のユイがやったんだな。
「花瓶壊しちゃったの私なの」
後ろから小さな声が聞こえる。
「……でしょうね。ユイ以外にいないもの。別に気にしてないよ」
妹は、ユイは……母さんや、他の人の目には声も聞こえないし姿も見えない。私たちは……いや、ユイは、私と共に生きてきた。
「あはは……それにしても市場に行くのは久し振りだね!」
正直妹のこういうテンションにはついていけない。何がそれにしてもだ。切り替えが早過ぎる。
「……うん、まぁそうね……」
「花瓶はね、市場のどこだったかな……えーっと……」
……市場に着いたのは午前9時頃だった筈だ。妹を当てにした私が馬鹿だった。大して大きくもない市場を隅から隅まで歩き回って、家に帰ってきた頃には太陽が真上に昇っていた。
庭にぽつりと置かれたガーデンテーブルと椅子が2つ。妹を先に座らせ、私はさっき買ってきたばかりの新鮮なフルーツからジュースを搾って、2つのグラスをテーブルに置いた。
「……美味しい!本当に美味しい!」
妹は何度も言いながら、本当に美味しそうに飲んでいる。……他の人から見れば、グラスが浮いて、どんどんジュースが無くなっていくように見えるのだろうか。
「ぷっはー!」
早いなあ……でも仕方ない。ユイはいつもお腹を空かせている。ユイの食事は全て私が用意しなくてはならない。母さんに頼みたい所だが、全てを話すわけにはいかないのだ。……私もユイも幼かった頃、私がユイと話しているのを見ると父も母もそれを気味悪がった。私はいつしか人前でユイと話すことはしなくなった。
「……結祈?」
「どうかした?」
「それ飲まないの?飲んでいい?」
「まだ飲むの……」
「冗談冗談。お花飾らないの?」
「あぁ、そっか。早く生けないと萎れちゃう。やっぱそれ飲んでいいよ」
花瓶のついでに、生ける花も買ってきたのだ。急いで水切りをして花瓶に生け、なんとなくそれを眺めた。ガラスの花瓶がオレンジ色の花と、自分の顔とを映している。
……庭からユイの歌声が聴こえる。耳を傾けると、今日の出来事を面白おかしく歌っているようだ。……透き通るような歌声、か。歌詞こそ適当だが、全くその通りに感じた。悲しいことに誰の耳にも届かない歌声。……ユイのことはずっと妹だと思ってきたがそれは私が面倒をみているからであって、本当のところは定かではない。見た目からするとわたしたちは双子のようだ。名前も双子らしく、私のユキというのに合わせて私がユイと名付けた。ユイは私と共に成長している、ということは私と同じように死ぬのだろうか。もしユイが病気にでもなったら私はどうすれば……
「ねえ結祈ーーーー!!!!お昼ご飯まだーーーー??!!」
……最悪の想像をしていたのが馬鹿らしくなる。うん、とにかく今はこれでいいんだよね。馬鹿みたいに明るいユイがいて、私の手を焼かせて。
「ねーーえーーーー!!!!」
「煩い!!!!!!!!」
「あら、どうかしたの結祈ちゃん?あ、お使いありがとうね」
「あ……うん……」
「結祈ちゃん大丈夫かなー?ふふふふ!」
母さんから見えないことをユイはあまり気にしていないどころか面白がっているようで、いつまでもお腹を抱えて笑っていた。