昔々のことじゃった。

それはまだわたすが東京さ来て間もねぇ頃、

仕事帰りの電車中での話だ。

「帰宅ラッシュ」て言うんだか?

田舎じゃあ考えられねぇことだが、座る席さ1つもねぇのよ。

わたすは仕方なく長イスの一番端に座ってた女の人の前さ立った。

・・別にいやらしい事考えた訳でねぇど。

この人なら、わたすより手前の駅で降りそうな気がしたのよ。

身なりとか見てっどわかっぺ。
わたすも東京さ来て少ス学んだのよ。

何駅か通りすぎ、次の駅に近づいた時、目の前の女がもぞもぞと動き出しただ。

(・・・・!)

(降りんのか?)

わたすは気付かれないように、うっすらと目を開けながら目の前の女の様子を伺っただ。

(・・・・立て!)

(・・・・立て!!)


プシュー💨

(降りだぁー!!!)

すかす、到着した駅で女が席を立ったまさにその時、悲劇が起こっただ。

何とその女の隣さ座ってた別の女が、空いたスペースにサッとスライドしてきたのよ。

それこそわたすの顔も見ねでよ。

(?!)

わたすの隣さ立ってた男は、目の前の空いたスペースにそのままINして瞳を閉じただ。

(!!)

あの顔、忘れねぇ。

・・ハァ、「トンビに油揚げをさらわれる」とはこのことだちゃ…。

すがり付ける場所はどこにもねぇす。

わたすも何事もなかったかのように平然を装い、瞳を閉じてそのまま自宅最寄り駅まで帰ったちゃ。


・・東京では俊敏さが必要なのよって話。

どんびすかんこねぇけど。




写真は話とは全く関係ありません。
先日の大雪で、東京で珍しく積もった雪が綺麗だったので撮った日常風景です。