私の夢は、作家になること。自分の書いた作品で、世界中の人を楽しませたい。
私の夢は、旅に出ること。世界中を旅して回って、この世界の美しいもの、問題をたくさん学びたい。
それが、私の夢。
………だった、はず。
海外の美しい景色や文化を見れば、行きたいとは思う。物語を考えるのはとても楽しくて、大好き。
だけど、それが本当に私の夢なのか。
現実問題、今のアルバイトで月に貯金できる額だけでは、1年間働いても5ヶ月も留学することは叶わない。旅行だとしても、1人では不安だし、かと言って一緒に行けるような友人もいない。物語を考えても、文章を書くとなると長くは続かない。面白い文を書けるのかと問われても、他の人に見せることはほとんど無いのでわからない。
私の夢。私の望む未来。それは、本当に"夢見る未来"なのかもしれない。
働く?私が、全く知らない世界。
何故?本当に海外へ行きたいの?もしそうではないのなら、何のために働くのか。
家にお金を入れるため。
老後の貯金として。
国家のため。
他人のため。
………今の私は?今の私は、どうなるのかもわからない未来のために不安になって、ただ毎日働くだけ?
それは、後悔ばかりが残るのでは?
ならば、後悔しない生き方って何。好きなことをして、楽しく生きること。
好きなことをって何。私は、物語を考えるのが好き。
夢を持てば、生きることが楽しくなる。
私の夢って何。ただただ"夢見る"だけならば、いくらだって思いつく。
私が生まれて、もうすぐ19年。この19年の間に、私は、夢を忘れてしまったのか。それとも、自分の夢が見つけられなかったのか。思うだけ、願うだけで、私は何もしてこなかったのか。
沢山とは言えなくても、色々なことはやってみた。特に高校の時は、がんば……ったのかな。わからない。もしかしたら、がんばってなかったのかもしれない。
難しそうでも、何かとやった。変わりたかったから。
……何も変わらなかった。何を変えたかったのか。何を夢見て、挑戦し続けたのか。
……私は、今まで夢を見ていただけなのか。夜、眠くなって目を閉じれば広がる、現実に限りなく近く感じた、朝になれば消えてしまうそれと、全く同じだったのか。
言葉だけ。行動を伴わない。中身の空っぽのガラス瓶。見ているだけならキラキラとして美しい。だけど、いざ手元に来ると何の使い道もない。
頭のいい人は、空の瓶を利用して美しい物を作ることができる。いや、誰にでもできるかも。私は、見かけだけで持ち帰って。使い用のない邪魔な物として放置され、しばらく経てば不燃ゴミとして捨てられる。使い道を考えようとしないから。自分のその場の考えだけで夢を見て、後先を考えることも、順序を考えることも面倒臭がって放棄するから。
いつか私も捨てられる。見せかけばかりの、中身のない人間だから。
なら、捨てられないためには何ができるか。素敵なものを一杯つめた、世界にたったひとつの瓶になればいい。自分の好きなものだけをつめこんで、自分だけの瓶をつくればいい。
でも、それって死ぬほど難しい。何をどうすればいいかわからないし、下手すれば汚く見えてしまう。
だから、慎重に考える。何を入れよう、どうしよう。
散々他人に見せびらかしてきた瓶が、空っぽだったと今知った。
言ってきたことが嘘にならないように、私の思う未来になるように、瓶に中身をつめていく。少なすぎれば寂しいし、ぎゅうぎゅうにしすぎると瓶が割れるから、ゆっくり、丁寧に。
…………こうやって考えたら、悲しさも不安も、怖さも落胆も、少しは和らぐよね。
*ただのお馬鹿の独り言です
中国って、嫌いですか。
私は、中国が好きです。
独自の文化はとても綺麗で美しく、長い長い歴史と伝統を思わせるから。
悲しいなぁ。
何で世界には争い事があるんだろう。
毎日同じ太陽の元で暮らしているのに。同じ空を見上げながら、一生懸命生きているのに。
四千年という長い歴史の中で、あの国は一体どんなことをしてきたのだろう。
美味しい料理を探し求めたのかな。万病に効く薬を調合したのかな。
戦をして、沢山の人が亡くなって。
沢山の犠牲を出しながら紡がれた歴史の上に、今の私たちは立ってるんだ。
悲しいな。悲しいな。
とても素晴らしい国なのに。
とっても美しい、誇りある国なのに。
争いは、いつになっても無くならない。
それは、構わないんだ。意見がぶつかり合うのは仕方が無いから。
けど、ただ悲しいんだ。
流れて行く時間の中に生まれた私たち。
争いの中で傷付いていく人たち。
怪我だけじゃない。心の傷だってそう。
まだ、ちょっとの時間しか生きてないけれどさ。
いつか、私が大人になった時、絶対にこの世界を変えていこうと思うんだ。
正直ね、もう生きるのが辛いって思うことは沢山あるんだ。
こんなめっちゃくちゃな世界で、争ってばかりの世の中で、何で生きなきゃなんないんだって。
死にたいなんてさ。よく思うことなんだ。
けどね、色々な理由があって死ねないんだよ。長くなるから言わんけれども。
中国もそうだけど、世の中から争い事を無くそうなんて思わない。無理。できん。
偽善なんてまっぴらごめん。できないもんはできんのさ。
けど、そんな中でも誰かを助けることはできるでしょ。
やれることはやって行きたい。私何かにできることだったら、面倒臭がるだろうけど、何だってしたい。
たぶん、私みたいなのは社会にでれば「阿呆」の一言で片付けられるんだろうけど。
もしそうなら、息苦しくなった社会も全部ひっくるめて革命起こしてやる(笑)
だから、大丈夫。
ちゃんと、この世界は美しいよ。
中国って、嫌いですか。
私は、中国が好きです。
独自の文化はとても綺麗で美しく、長い長い歴史と伝統を思わせるから。
悲しいなぁ。
何で世界には争い事があるんだろう。
毎日同じ太陽の元で暮らしているのに。同じ空を見上げながら、一生懸命生きているのに。
四千年という長い歴史の中で、あの国は一体どんなことをしてきたのだろう。
美味しい料理を探し求めたのかな。万病に効く薬を調合したのかな。
戦をして、沢山の人が亡くなって。
沢山の犠牲を出しながら紡がれた歴史の上に、今の私たちは立ってるんだ。
悲しいな。悲しいな。
とても素晴らしい国なのに。
とっても美しい、誇りある国なのに。
争いは、いつになっても無くならない。
それは、構わないんだ。意見がぶつかり合うのは仕方が無いから。
けど、ただ悲しいんだ。
流れて行く時間の中に生まれた私たち。
争いの中で傷付いていく人たち。
怪我だけじゃない。心の傷だってそう。
まだ、ちょっとの時間しか生きてないけれどさ。
いつか、私が大人になった時、絶対にこの世界を変えていこうと思うんだ。
正直ね、もう生きるのが辛いって思うことは沢山あるんだ。
こんなめっちゃくちゃな世界で、争ってばかりの世の中で、何で生きなきゃなんないんだって。
死にたいなんてさ。よく思うことなんだ。
けどね、色々な理由があって死ねないんだよ。長くなるから言わんけれども。
中国もそうだけど、世の中から争い事を無くそうなんて思わない。無理。できん。
偽善なんてまっぴらごめん。できないもんはできんのさ。
けど、そんな中でも誰かを助けることはできるでしょ。
やれることはやって行きたい。私何かにできることだったら、面倒臭がるだろうけど、何だってしたい。
たぶん、私みたいなのは社会にでれば「阿呆」の一言で片付けられるんだろうけど。
もしそうなら、息苦しくなった社会も全部ひっくるめて革命起こしてやる(笑)
だから、大丈夫。
ちゃんと、この世界は美しいよ。
ひんやりとした細い筒を軽く咥え、そっと息を吹き込んだ。
ぽっぺん。
ちょうど、水溜りに張った薄い氷を割るような、薄ーい硝子が割れる寸前のような危なげな……
早い話が、独特な音。
が、灰色の高い壁に反響して消えていった。
ぽっぺん。
冷たい壁に遮られ、日の当たらないその場所で、少年はまた音を鳴らした。
光の当たらないはずなのに、硝子のそれはキラキラと瞬く。
有象無象から隔離されたようなこの場所は、冷たい壁に囲まれていて、「外」では揉み消されるような繊細な音も、とても綺麗に反響した。
ぽっぺん。
少年の吹き込む息に合わせて、澄んだ音を奏でる。
空は、やはり狭い。
ぽっぺん。
無機質な灰色に遮られ、ろくに風も入ってこない。
群衆共から切り離されたこの場所ですら、辺りの空気は淀んでいるように感じた。
ぽっぺん。
ぽっぺん。
ぽっ
パサッ・・・
「ぺんっ」と続くはずだった音は、響かなかった。
「…………」
何かが、頭の上から落ちてきた。そして、それは見事に少年の頭上へ収まった。
スッポリと頭全体を覆い隠し、暗闇が少年を包む。
別に特別見ていたわけではないのだが、前が見えないったらありゃしない。
・・・何なのだ一体。
咥えた筒を持っている手とは反対の手を頭へやってひょいとそれを取ってみれば、視界に飛び込んできたのは鮮やかな紅の風呂敷のようなものだった。
紅い下地に色とりどりの花の模様を散らした、この灰色の空間には不釣り合いな可憐な風呂敷だ。
・・・・それが、そんなものが、何故、こんなところに?
何もないであろうとわかっていながら、ふっと視線を上へ向ける。
ひしめく灰色。狭い水色。水色の中にひらひらと靡く紺色の・・・・
「…………………………」
ぺんっ。
「ああ、そうだった」と言わんばかりに、筒はそう音を響かせる。
少年はそっと視線を灰色へ戻し、黒い地面に置いてあった三度笠を眼鏡ごと目元を隠すように深く被る。
・・・見てはいけないものを見たかもしれない、と。
からん ころん
からん ころん
普段、比較的動作の緩やかな少年には珍しく、少し早足に階段を上がって行く。
しかし、何故か急いでいるようには見えない。
からん からん ころん
大きく聴こえる下駄の音。
続く続く、どこまで続く。
からん ころん からっ からん ころん……。
しばらく階段を上り続けた。
ピタリと、下駄の耳触りの良い音が止まる。
目の前にあるのは、重そうな錆びた鉄で出来た大きめの扉。
取っ手を回せば、ギィ、と嫌な音をたてながら開く。
途端、淀んだ空気を吹き飛ばすかのようにぶわりと強い風が少年に吹き付ける。
ここは、風が強いらしい。
さっと笠を片手で押さえ、視線を前へ向ける。
こんな高い場所ですら、無機質な灰色が割り込んでくる。
電線がめぐり、向かい側の建物の上にまで続いていた。
生き物の暖かさを感じさせるものが、ほとんどない。
・・・目の前のモノを除けば。
少し茶色がかった、長い髪が強風に煽られて宙を舞う。
薄手の、黒色の長袖の服。
こげ茶色の革靴。
ぴったりと襞のついた、強い風に激しく靡く紺色の………。
からん、ころん。
一歩、近づく。
しかし、目の前の者は下を向いたまま動かない。何かぶつぶつと言っている声は聴こえるが、強風にかき消されて、言葉は少年の耳には届かなかった。
からん、からっ。
からん、ころん、からん、ころん・・・
ゆっくりと歩み寄ってゆく。
近づくに連れて、強風にかき消えていた言葉はゆっくりと意味を持って浮かび上がり始める。それは、この浮世では珍しい、とても綺麗な言葉たちだった。
穢れを知らず、美しく。
「全部終わらせんだ・・・こんなトコで人形みたいに生きてるぐらいなら、さっさと消えちゃえばいいんだって・・・ねえ?本当・・・こんな馬っ鹿みたいな世界・・・・・・大っ嫌い。みんな死んで消えちゃえばいいのに・・・」
か細く震える、高い声。
これ以上に美しい言葉を、聞いたことがあるだろうか。
からん ころん からん ころん。
少年よりは幾分か小さい少女の後ろで立ち止まる。
少女の見つめる先は、先ほどまで自分が音を響かせていた、空気が淀み雑踏から隔離された日の当たらぬ場所。
遠い、黒の硬い地面だった。
「・・・」
すっと懐から硝子の筒を取り出して、軽く咥える。そして、十分手の届く距離まで少女の背後に近づいた。
・・・ここまで近づいても気が付かないとは、よっぽど周りのことに気が回っていないのだろう。
または、どうでも良い、といったところか。
そぉっと少女の耳元に近づいて、ゆっくりと筒に息を吹き込んだ。
ぽっっぺん!
「っっっうぇわぁっ!!?」
清々しいほど間抜けな音が大きく響く。
少女は、隙間から急に飛び出してきた鼠に不意打ちを食らった猫のようにビクゥ!!っと身を震わせる。
瞬間、ゆっくりと傾いてゆく、体。
「ぁ」
目を大きく見開いて。
全身から血の気が失せて。
恐ろしい浮遊間と恐怖に襲われる中、少女は無意識にぱっと腕を伸ばした。
何を求めたのかはわからない。
ただ、少女の中の「何か」は、必死になって手を伸ばしたのだ。
伸ばされた手は空を掴み、そしてどんどん離れて行く。
『死』
その言葉を思い浮かべ、少女は強く目を瞑った。
暗闇に呑まれてゆくのを感じながら。
ぐいっ!!
ドサッ…………
暗転した中で、再び体が傾く。
次に来たのは、軽い衝撃と、手のひらから伝ってくる冷たい感覚。
「…………………?」
一体何が起きたのか。
次々と流れて行った出来事に頭がついていかなかったのか、少女はただ呆然として地面に座り込んでいた。
ぽっぺん。
少年は、また一つ音を鳴らす。
すると、何か硬直していたものがとけたのか、堰を切ったように少女の瞳は潤み始め、ぼろぼろと大粒の涙をこぼし始める。
「っ~・・・!っく・・・ひっく、ぇぐっ・・・!」
「・・・」
ぽっぺん。
少年は、まだ青い空を見上げながら硝子の筒で空気を震わせた。
多少広くなった夕焼けの空。
灰色の中に紛れた、二つの影。
座り込んで静かに空を見つめる少女と、少し離れた場所に腰掛ける少年。
どのくらい時間がたっただろう。
沈黙の空間に、座り込んでいた少女はぽつりと音を投げ入れる。
「・・・嫌い」
ただ一言。
何が、とは聞かない。
「何で、人は生きると思う・・・?苦しくて、たまらない・・・」
穢れを知らぬ美しい言葉たちは、悲しみと失望の色を纏っていた。
消え入りそうな、弱々しい言葉。
「さぁな」
少年は、一言そう言った。
少女は答えない。
「小生は、先代の生きたこの地を見るだけだ」
「・・・随分、変わり果てちゃったんだろうね」
かつてを知らぬ己に、本来の姿がわかるわけではない。
しかし、この地は随分と変わり果てた。
面影すらも、残らぬほどに。
「・・・」
「色も無い、心も無い。機械みたいな世界だもの。」
虚言に溢れ、本来のモノの価値が否定される世の中故に。
「嫌か」
「嫌よ」
息をつく間も置かずに、そう言葉が返ってきた。
ぽっぺん。
重い雰囲気をぶち壊すように突然響いた間抜けな音。
それにびっくりした様に目を丸くした少女は、さっと少年の方を見る。
そして、二度びっくり。
何だ、この純和風の男は。
「………。どちら様?」
「清正」
「え?私は花火・・・って、そうじゃないってば、もう・・・」
ふぅっと小さく息をついて肩をすくめる少女・・・花火。
花火はゆっくりと少年、清正に近づいて行き、隣にぽすんと腰を下ろす。
その行動に、今度は清正がぎょっとする。
慌ててその場に立ち上がり、だいぶ横に移動してからもう一度座った。
二人の間に、微妙な間隔が出来る。
「・・・何よ、別に汚くなんてないのに・・・。」
ぶすっと頬を膨らませる花火。一方の清正は、何かをぼそぼそと呟いた。
風が強い中であるということと、少し離れているということもあり、花火には何と言っているかは聞き取れなかった。
「なぁに?よく聞こえないよ?」
「………。………が」
被っていた三度笠で、さっと目元を隠す。
「ん?(汗)」
「………。………………。……あまり……。女子が男に近づいてくるな………」
長い長~い沈黙の後、ようやく紡がれた言葉は、そんなものだった。
花火は呆気にとられた。空いた口が塞がらないとは、今まさにこういうことを言うのだろう。
そして、
「ぷっ!っははは!な、なんじゃそれ・・・!お、オナゴ!?はっ、始めて聞いたっ・・!!」
笑われた。それはそれは盛大に。
片手で腹を押さえ、もう片方の手で自身の膝をバシバシと叩きながら大笑いする花火。
そんな花火を、はやり呆気にとられたように見つめる清正。
「・・・・なん」
「ほっ」
何だ、という言葉は遮られた。
ついさっきまで離れた場所にいたはずの花火が、急に走り寄って飛びかかってきたのだ。
避けるべきか。
しかし、避ければ避けたで花火はそのままぶつかって怪我をしてしまわないか。
女に怪我をさせることがあって良いのか。
そんな事が頭の中を駆け巡ったが、行動を起こす前に花火がぶつかってくる。
「っ?!!」
そして、己の首に思いっきり腕を引っ掛ける。
ぐいっ!
「っぐぅっ!?」
「なぁにが『近寄るな』よ!今時、そんなこと誰も気にしないよ!」
思いっきり、首を絞められた。
しかも、存外容赦がない。
「ぐむっ…わ、わかった、離せ、絞まって……!」
片手に持っていた硝子の筒を必死に守りながら、苦しながらもそう声を上げる。
「絞めてるの!」
そう言って、更に力をいれてくる。
故意なのか。そうなのか。
「!?っく、っつ~・・・!!」
慌てて、花火の腕をお手上げの意味で何度も叩く。
振り払うことは、出来た。
だが、女子に手荒な事は出来ぬ。しかしこのままされるがままになっていれば、本当に己は辞世の句を詠まねばならなくなる。
ふと、思った。
何故、己はこんなところで女子に首を絞められているのだろうか。
・・・知るか。
「もう近づくなとか言わない??」
どうなのだ、と言うような目で、ひょいと顔を覗き込んでくる。
「わ、わかった、わかったから、やめぃ………!!」
「ちぇ~」
名残惜しそうにそう言って、腕を放した。
「げほっ、ごほっごほっ!」
新鮮な空気が、一気に肺の中に入ってくる。
生理的な涙が、じわりと滲む。
「あはは、ごめんごめん」
笑って、清正の隣に座る。
「・・・ありがとうね。止めてくれて。・・・おかしいなぁ、私、ここで死ぬはずだったんだけど」
「けほっ、こほっ…」
「いつまで噎せてる、の!」
「ぐふっ!?」
バシィっと、背中を叩かれる。
・・・痛い。
叩かれた衝撃で、眼鏡がずれる。
「あははっ・・・もう、本当に面白い。変なの。貴方とこうして少し話した(のかな?)だけで、あんなに暗かった気持ちが一気に晴れちゃった!ふふふ・・・」
嬉しそうにそう言って、ニコニコしながら此方を見てくる。
清正は、背中をさすりながらずれた眼鏡を直す。
笑う花火をちらりと見れば、微笑みながら「ごめんね、大丈夫?」と聞いてくる。
「こほっ……。き、にするな……」
まだ少し噎せる清正は、そう言ってそっと視線を逸らす。笠で目元を隠すのも忘れずに。
しかし、そっとしておいてくれれば良いものを花火はそんな仕草も面白がる。
「あれ、照れちゃった??可愛い~」
そして、ニヤニヤしながら清正の頬を指でぷにぷにと突き始める。
「………………………それは、男に言う言葉ではないだろう……………」
若干花火の指を避けつつ(しかしどう足掻いても突かれる)、呆れたようにそうこぼす。
この清正、生まれてこのかた「変な奴」とは言われたことがあろうとも、「可愛い~」などとは一度も言われたことがない。
「何でもいーの、そんなこと!・・・えっと、名前、何だっけ?」
「………清正」
もう忘れたのか。
「そっか。何か、よくわからないけどさ。今日は色々ありがと!私、そろそろ行くね。じゃあね、清ちゃん!」
「!?」
満面の笑顔でそう言って、手を振りながら走り去って行く花火。
驚く清正をよそに、錆びた扉はギィ……バタン!と低い音を立てる。
ぽっぺん。
ちょうど、水溜りに張った薄い氷を割るような、薄ーい硝子が割れる寸前のような危なげな……
早い話が、独特な音。
が、灰色の高い壁に反響して消えていった。
ぽっぺん。
冷たい壁に遮られ、日の当たらないその場所で、少年はまた音を鳴らした。
光の当たらないはずなのに、硝子のそれはキラキラと瞬く。
有象無象から隔離されたようなこの場所は、冷たい壁に囲まれていて、「外」では揉み消されるような繊細な音も、とても綺麗に反響した。
ぽっぺん。
少年の吹き込む息に合わせて、澄んだ音を奏でる。
空は、やはり狭い。
ぽっぺん。
無機質な灰色に遮られ、ろくに風も入ってこない。
群衆共から切り離されたこの場所ですら、辺りの空気は淀んでいるように感じた。
ぽっぺん。
ぽっぺん。
ぽっ
パサッ・・・
「ぺんっ」と続くはずだった音は、響かなかった。
「…………」
何かが、頭の上から落ちてきた。そして、それは見事に少年の頭上へ収まった。
スッポリと頭全体を覆い隠し、暗闇が少年を包む。
別に特別見ていたわけではないのだが、前が見えないったらありゃしない。
・・・何なのだ一体。
咥えた筒を持っている手とは反対の手を頭へやってひょいとそれを取ってみれば、視界に飛び込んできたのは鮮やかな紅の風呂敷のようなものだった。
紅い下地に色とりどりの花の模様を散らした、この灰色の空間には不釣り合いな可憐な風呂敷だ。
・・・・それが、そんなものが、何故、こんなところに?
何もないであろうとわかっていながら、ふっと視線を上へ向ける。
ひしめく灰色。狭い水色。水色の中にひらひらと靡く紺色の・・・・
「…………………………」
ぺんっ。
「ああ、そうだった」と言わんばかりに、筒はそう音を響かせる。
少年はそっと視線を灰色へ戻し、黒い地面に置いてあった三度笠を眼鏡ごと目元を隠すように深く被る。
・・・見てはいけないものを見たかもしれない、と。
からん ころん
からん ころん
普段、比較的動作の緩やかな少年には珍しく、少し早足に階段を上がって行く。
しかし、何故か急いでいるようには見えない。
からん からん ころん
大きく聴こえる下駄の音。
続く続く、どこまで続く。
からん ころん からっ からん ころん……。
しばらく階段を上り続けた。
ピタリと、下駄の耳触りの良い音が止まる。
目の前にあるのは、重そうな錆びた鉄で出来た大きめの扉。
取っ手を回せば、ギィ、と嫌な音をたてながら開く。
途端、淀んだ空気を吹き飛ばすかのようにぶわりと強い風が少年に吹き付ける。
ここは、風が強いらしい。
さっと笠を片手で押さえ、視線を前へ向ける。
こんな高い場所ですら、無機質な灰色が割り込んでくる。
電線がめぐり、向かい側の建物の上にまで続いていた。
生き物の暖かさを感じさせるものが、ほとんどない。
・・・目の前のモノを除けば。
少し茶色がかった、長い髪が強風に煽られて宙を舞う。
薄手の、黒色の長袖の服。
こげ茶色の革靴。
ぴったりと襞のついた、強い風に激しく靡く紺色の………。
からん、ころん。
一歩、近づく。
しかし、目の前の者は下を向いたまま動かない。何かぶつぶつと言っている声は聴こえるが、強風にかき消されて、言葉は少年の耳には届かなかった。
からん、からっ。
からん、ころん、からん、ころん・・・
ゆっくりと歩み寄ってゆく。
近づくに連れて、強風にかき消えていた言葉はゆっくりと意味を持って浮かび上がり始める。それは、この浮世では珍しい、とても綺麗な言葉たちだった。
穢れを知らず、美しく。
「全部終わらせんだ・・・こんなトコで人形みたいに生きてるぐらいなら、さっさと消えちゃえばいいんだって・・・ねえ?本当・・・こんな馬っ鹿みたいな世界・・・・・・大っ嫌い。みんな死んで消えちゃえばいいのに・・・」
か細く震える、高い声。
これ以上に美しい言葉を、聞いたことがあるだろうか。
からん ころん からん ころん。
少年よりは幾分か小さい少女の後ろで立ち止まる。
少女の見つめる先は、先ほどまで自分が音を響かせていた、空気が淀み雑踏から隔離された日の当たらぬ場所。
遠い、黒の硬い地面だった。
「・・・」
すっと懐から硝子の筒を取り出して、軽く咥える。そして、十分手の届く距離まで少女の背後に近づいた。
・・・ここまで近づいても気が付かないとは、よっぽど周りのことに気が回っていないのだろう。
または、どうでも良い、といったところか。
そぉっと少女の耳元に近づいて、ゆっくりと筒に息を吹き込んだ。
ぽっっぺん!
「っっっうぇわぁっ!!?」
清々しいほど間抜けな音が大きく響く。
少女は、隙間から急に飛び出してきた鼠に不意打ちを食らった猫のようにビクゥ!!っと身を震わせる。
瞬間、ゆっくりと傾いてゆく、体。
「ぁ」
目を大きく見開いて。
全身から血の気が失せて。
恐ろしい浮遊間と恐怖に襲われる中、少女は無意識にぱっと腕を伸ばした。
何を求めたのかはわからない。
ただ、少女の中の「何か」は、必死になって手を伸ばしたのだ。
伸ばされた手は空を掴み、そしてどんどん離れて行く。
『死』
その言葉を思い浮かべ、少女は強く目を瞑った。
暗闇に呑まれてゆくのを感じながら。
ぐいっ!!
ドサッ…………
暗転した中で、再び体が傾く。
次に来たのは、軽い衝撃と、手のひらから伝ってくる冷たい感覚。
「…………………?」
一体何が起きたのか。
次々と流れて行った出来事に頭がついていかなかったのか、少女はただ呆然として地面に座り込んでいた。
ぽっぺん。
少年は、また一つ音を鳴らす。
すると、何か硬直していたものがとけたのか、堰を切ったように少女の瞳は潤み始め、ぼろぼろと大粒の涙をこぼし始める。
「っ~・・・!っく・・・ひっく、ぇぐっ・・・!」
「・・・」
ぽっぺん。
少年は、まだ青い空を見上げながら硝子の筒で空気を震わせた。
多少広くなった夕焼けの空。
灰色の中に紛れた、二つの影。
座り込んで静かに空を見つめる少女と、少し離れた場所に腰掛ける少年。
どのくらい時間がたっただろう。
沈黙の空間に、座り込んでいた少女はぽつりと音を投げ入れる。
「・・・嫌い」
ただ一言。
何が、とは聞かない。
「何で、人は生きると思う・・・?苦しくて、たまらない・・・」
穢れを知らぬ美しい言葉たちは、悲しみと失望の色を纏っていた。
消え入りそうな、弱々しい言葉。
「さぁな」
少年は、一言そう言った。
少女は答えない。
「小生は、先代の生きたこの地を見るだけだ」
「・・・随分、変わり果てちゃったんだろうね」
かつてを知らぬ己に、本来の姿がわかるわけではない。
しかし、この地は随分と変わり果てた。
面影すらも、残らぬほどに。
「・・・」
「色も無い、心も無い。機械みたいな世界だもの。」
虚言に溢れ、本来のモノの価値が否定される世の中故に。
「嫌か」
「嫌よ」
息をつく間も置かずに、そう言葉が返ってきた。
ぽっぺん。
重い雰囲気をぶち壊すように突然響いた間抜けな音。
それにびっくりした様に目を丸くした少女は、さっと少年の方を見る。
そして、二度びっくり。
何だ、この純和風の男は。
「………。どちら様?」
「清正」
「え?私は花火・・・って、そうじゃないってば、もう・・・」
ふぅっと小さく息をついて肩をすくめる少女・・・花火。
花火はゆっくりと少年、清正に近づいて行き、隣にぽすんと腰を下ろす。
その行動に、今度は清正がぎょっとする。
慌ててその場に立ち上がり、だいぶ横に移動してからもう一度座った。
二人の間に、微妙な間隔が出来る。
「・・・何よ、別に汚くなんてないのに・・・。」
ぶすっと頬を膨らませる花火。一方の清正は、何かをぼそぼそと呟いた。
風が強い中であるということと、少し離れているということもあり、花火には何と言っているかは聞き取れなかった。
「なぁに?よく聞こえないよ?」
「………。………が」
被っていた三度笠で、さっと目元を隠す。
「ん?(汗)」
「………。………………。……あまり……。女子が男に近づいてくるな………」
長い長~い沈黙の後、ようやく紡がれた言葉は、そんなものだった。
花火は呆気にとられた。空いた口が塞がらないとは、今まさにこういうことを言うのだろう。
そして、
「ぷっ!っははは!な、なんじゃそれ・・・!お、オナゴ!?はっ、始めて聞いたっ・・!!」
笑われた。それはそれは盛大に。
片手で腹を押さえ、もう片方の手で自身の膝をバシバシと叩きながら大笑いする花火。
そんな花火を、はやり呆気にとられたように見つめる清正。
「・・・・なん」
「ほっ」
何だ、という言葉は遮られた。
ついさっきまで離れた場所にいたはずの花火が、急に走り寄って飛びかかってきたのだ。
避けるべきか。
しかし、避ければ避けたで花火はそのままぶつかって怪我をしてしまわないか。
女に怪我をさせることがあって良いのか。
そんな事が頭の中を駆け巡ったが、行動を起こす前に花火がぶつかってくる。
「っ?!!」
そして、己の首に思いっきり腕を引っ掛ける。
ぐいっ!
「っぐぅっ!?」
「なぁにが『近寄るな』よ!今時、そんなこと誰も気にしないよ!」
思いっきり、首を絞められた。
しかも、存外容赦がない。
「ぐむっ…わ、わかった、離せ、絞まって……!」
片手に持っていた硝子の筒を必死に守りながら、苦しながらもそう声を上げる。
「絞めてるの!」
そう言って、更に力をいれてくる。
故意なのか。そうなのか。
「!?っく、っつ~・・・!!」
慌てて、花火の腕をお手上げの意味で何度も叩く。
振り払うことは、出来た。
だが、女子に手荒な事は出来ぬ。しかしこのままされるがままになっていれば、本当に己は辞世の句を詠まねばならなくなる。
ふと、思った。
何故、己はこんなところで女子に首を絞められているのだろうか。
・・・知るか。
「もう近づくなとか言わない??」
どうなのだ、と言うような目で、ひょいと顔を覗き込んでくる。
「わ、わかった、わかったから、やめぃ………!!」
「ちぇ~」
名残惜しそうにそう言って、腕を放した。
「げほっ、ごほっごほっ!」
新鮮な空気が、一気に肺の中に入ってくる。
生理的な涙が、じわりと滲む。
「あはは、ごめんごめん」
笑って、清正の隣に座る。
「・・・ありがとうね。止めてくれて。・・・おかしいなぁ、私、ここで死ぬはずだったんだけど」
「けほっ、こほっ…」
「いつまで噎せてる、の!」
「ぐふっ!?」
バシィっと、背中を叩かれる。
・・・痛い。
叩かれた衝撃で、眼鏡がずれる。
「あははっ・・・もう、本当に面白い。変なの。貴方とこうして少し話した(のかな?)だけで、あんなに暗かった気持ちが一気に晴れちゃった!ふふふ・・・」
嬉しそうにそう言って、ニコニコしながら此方を見てくる。
清正は、背中をさすりながらずれた眼鏡を直す。
笑う花火をちらりと見れば、微笑みながら「ごめんね、大丈夫?」と聞いてくる。
「こほっ……。き、にするな……」
まだ少し噎せる清正は、そう言ってそっと視線を逸らす。笠で目元を隠すのも忘れずに。
しかし、そっとしておいてくれれば良いものを花火はそんな仕草も面白がる。
「あれ、照れちゃった??可愛い~」
そして、ニヤニヤしながら清正の頬を指でぷにぷにと突き始める。
「………………………それは、男に言う言葉ではないだろう……………」
若干花火の指を避けつつ(しかしどう足掻いても突かれる)、呆れたようにそうこぼす。
この清正、生まれてこのかた「変な奴」とは言われたことがあろうとも、「可愛い~」などとは一度も言われたことがない。
「何でもいーの、そんなこと!・・・えっと、名前、何だっけ?」
「………清正」
もう忘れたのか。
「そっか。何か、よくわからないけどさ。今日は色々ありがと!私、そろそろ行くね。じゃあね、清ちゃん!」
「!?」
満面の笑顔でそう言って、手を振りながら走り去って行く花火。
驚く清正をよそに、錆びた扉はギィ……バタン!と低い音を立てる。
ぴゅーっ。シュルルルルッ!
ぴゅーっ。シュルルッ!
自分の吹く息に合わせてまるで生きているかのように動く。
・・・紙。
本当に、何の変哲もない、ただの紙。
「うわ、ちょぉ、見て見てアレ」
「何~・・・?・・・ぶふっ。何あれヤベェwwマジ時代劇じゃんwww」
そんな、何の変哲もない紙を見て騒ぎ出すけばけばしい化粧をした・・・化け物たち。
「スゲェピロピロしてんですけどwwえ、何変態?ww」
「生まれてくる時代間違えてませーん?wここ平成なんですけどwww」
そんなことを言いながら、去ってゆく化け物たち。
「吹き戻し」。これは、そういう名前の子どもの玩具だ。細長い色紙と針金、ちょっとした筒で出来ている、化け物たちが言っていた様に、ただ「ぴろぴろさせて」遊ぶ、昔ながらのおもちゃ。
別に珍しいものでも何でもない。はずなのだ。
だが、どうもあの化け物たちにはわからなかったらしい。訳のわからぬ言葉を吐くだけはいて、何処かへ行ってしまった。
ぴゅーっ。シュルルルッ!
再び息を吹き込む。それは、やはり先ほどと同じく伸びて、軽い音を立てながらくるくると戻ってくる。
別に、何にも変わったことなどない。
・・・少なくとも、彼から見れば。
昼の3時ぐらいだったと思う。
少し小さい公園のベンチに座り、藍色の呉服にコートを羽織り、時代劇を思わせる三度笠に眼鏡をかけ、きわめつけには下駄を履いた少年が、一人、まだ寒さの残る春風に吹かれながら、ぴろぴろと思うがままに吹き流しを吹いていた。
正月はとっくに過ぎ、桜もまだまだ咲いていない。暦では「春」とされていても、正直なところこんなにクソ寒いのに、お世辞にも「春」だなんて言い難い(「寒さの残る」というより、寒いのだ)。
そんな中、何が嬉しくて一人で吹き流しを吹いているのかなど理解されるはずもなく。
ただただ、「友達のいない、寂しい人」「何か物凄い勢いでずれている人」「変態」などという評価がされるだけだった。
ぴゅーっ。シュルルルッ!
軽い音を立てて伸び縮みする色紙をぼんやりと眺めて。
ふっと視界に映ったのは、黒の世界に、ぽつんと顔を覗かせた小さな緑の草だった。
冷たい風が吹けば、それに合わせてゆらゆら揺れる。青く、柔らかそうな葉が揺れる。
クシャッ…
「はい・・・本当に申し訳ありませんでした。明後日には必ず手配致しますので……ええ、勿論です。はい・・・」
焦ったように早歩きで公園の敷地内へ入ってきた、「モノ」。
長方形の携帯電話を持ち、電話越しにカクカクと機械の様な動きをする。暫く言葉を交わした後、数回携帯電話の画面を操作して、鞄に戻した。
そして、「あぁあぁぁ!!」と雄叫びだかなんだか知らない奇声を上げて、足元に転がっていた石を革でできたそれで地面にガツガツとめり込ませる。
「くそっ!!何で毎回毎回俺が文句言われなくちゃいけないんだよ!!悪いのは全部あのロクに仕事も出来ない馬鹿上司だろ!?ふざけんな!とっとと退職するなり何なりして消えろ!!」
ズカズカと荒い足取りで側にあった木に近づいていく。
「てめぇみたいな「社会のクズ」がいるから、この世界は可笑しくなっていくんだよ!!
「社会」どころの話じゃないなぁ、「世界のゴミ」だなぁ?おい!!」
ガッ!ガッ!!
少し細めな木の幹を、怒りのままに何度も蹴飛ばす。
蹴られるたびに、幹は小さく揺れ枝は軋む。
お前みたいな出来損ないが生きていけるほど、この世は甘くはねぇんだよ。
一辺死んで、人生一からやり直してこいよ。
二度と俺の前に現れるんじゃねぇ。
ドス黒い感情の塊は、ワーワーと耳触りな音を撒き散らす。
ガッ!ガッ!ガッ!!
バキィッ………
終わりの音が聴こえた。
耳に残るその音を聞き、ハッとしたような表情をする「男」。
さっと顔色を変えて、辺りをざっと見渡す。その時、少年は男と目が合った。
瞬間、生まれる沈黙。
ぴゅーっ。シュルルルッ!
そんな間抜けな音が、沈黙を破った。
男は一瞬目を丸くして、顔に苦笑を浮かべる。
「・・・あ、あはは、どうも・・・。」
今にも消えて行きそうなほどの声でそう言って、数回頭を下げながら去って行く男。歪んだ木には目もくれない。
その横顔は、苦虫を噛み潰したような、そんな表情だった。
「・・・此れにて弥終(いやはて)、嘘も方便、面隠す」
この腐り切った世の中に、良いも悪いもありゃしない
薄気味悪い笑顔を浮かべ、純粋無垢を装って
オモテの姿で判断されて、使えぬモノは棄てられる
無価値なものを崇めたて、奇抜なモノは揉み消される
ぴゅーっ。シュルルッ!
黒の固形物と化した地面に目をやれば、雑踏たちに押し潰された、美しいとは到底言えない見るも無残な緑の残骸があった。黒の世界に呑み込まれながら、ただ消えてゆくのを静かに待っているように、ひっそりと。
今に、あの緑の存在は消え去り、忘れ去られていくだろう。
誰かに知られることもなく。
ひとりでに立ち込め、ひとりでに消えてゆく霧の様に。
溢れる空言に汚染されたこの御時世に、孤独に生まれて死んでゆくニンゲンたちの様に。
ぴゅーっ。シュルルッ!
自分の吹く息に合わせてまるで生きているかのように動く。
・・・紙。
本当に、何の変哲もない、ただの紙。
「うわ、ちょぉ、見て見てアレ」
「何~・・・?・・・ぶふっ。何あれヤベェwwマジ時代劇じゃんwww」
そんな、何の変哲もない紙を見て騒ぎ出すけばけばしい化粧をした・・・化け物たち。
「スゲェピロピロしてんですけどwwえ、何変態?ww」
「生まれてくる時代間違えてませーん?wここ平成なんですけどwww」
そんなことを言いながら、去ってゆく化け物たち。
「吹き戻し」。これは、そういう名前の子どもの玩具だ。細長い色紙と針金、ちょっとした筒で出来ている、化け物たちが言っていた様に、ただ「ぴろぴろさせて」遊ぶ、昔ながらのおもちゃ。
別に珍しいものでも何でもない。はずなのだ。
だが、どうもあの化け物たちにはわからなかったらしい。訳のわからぬ言葉を吐くだけはいて、何処かへ行ってしまった。
ぴゅーっ。シュルルルッ!
再び息を吹き込む。それは、やはり先ほどと同じく伸びて、軽い音を立てながらくるくると戻ってくる。
別に、何にも変わったことなどない。
・・・少なくとも、彼から見れば。
昼の3時ぐらいだったと思う。
少し小さい公園のベンチに座り、藍色の呉服にコートを羽織り、時代劇を思わせる三度笠に眼鏡をかけ、きわめつけには下駄を履いた少年が、一人、まだ寒さの残る春風に吹かれながら、ぴろぴろと思うがままに吹き流しを吹いていた。
正月はとっくに過ぎ、桜もまだまだ咲いていない。暦では「春」とされていても、正直なところこんなにクソ寒いのに、お世辞にも「春」だなんて言い難い(「寒さの残る」というより、寒いのだ)。
そんな中、何が嬉しくて一人で吹き流しを吹いているのかなど理解されるはずもなく。
ただただ、「友達のいない、寂しい人」「何か物凄い勢いでずれている人」「変態」などという評価がされるだけだった。
ぴゅーっ。シュルルルッ!
軽い音を立てて伸び縮みする色紙をぼんやりと眺めて。
ふっと視界に映ったのは、黒の世界に、ぽつんと顔を覗かせた小さな緑の草だった。
冷たい風が吹けば、それに合わせてゆらゆら揺れる。青く、柔らかそうな葉が揺れる。
クシャッ…
「はい・・・本当に申し訳ありませんでした。明後日には必ず手配致しますので……ええ、勿論です。はい・・・」
焦ったように早歩きで公園の敷地内へ入ってきた、「モノ」。
長方形の携帯電話を持ち、電話越しにカクカクと機械の様な動きをする。暫く言葉を交わした後、数回携帯電話の画面を操作して、鞄に戻した。
そして、「あぁあぁぁ!!」と雄叫びだかなんだか知らない奇声を上げて、足元に転がっていた石を革でできたそれで地面にガツガツとめり込ませる。
「くそっ!!何で毎回毎回俺が文句言われなくちゃいけないんだよ!!悪いのは全部あのロクに仕事も出来ない馬鹿上司だろ!?ふざけんな!とっとと退職するなり何なりして消えろ!!」
ズカズカと荒い足取りで側にあった木に近づいていく。
「てめぇみたいな「社会のクズ」がいるから、この世界は可笑しくなっていくんだよ!!
「社会」どころの話じゃないなぁ、「世界のゴミ」だなぁ?おい!!」
ガッ!ガッ!!
少し細めな木の幹を、怒りのままに何度も蹴飛ばす。
蹴られるたびに、幹は小さく揺れ枝は軋む。
お前みたいな出来損ないが生きていけるほど、この世は甘くはねぇんだよ。
一辺死んで、人生一からやり直してこいよ。
二度と俺の前に現れるんじゃねぇ。
ドス黒い感情の塊は、ワーワーと耳触りな音を撒き散らす。
ガッ!ガッ!ガッ!!
バキィッ………
終わりの音が聴こえた。
耳に残るその音を聞き、ハッとしたような表情をする「男」。
さっと顔色を変えて、辺りをざっと見渡す。その時、少年は男と目が合った。
瞬間、生まれる沈黙。
ぴゅーっ。シュルルルッ!
そんな間抜けな音が、沈黙を破った。
男は一瞬目を丸くして、顔に苦笑を浮かべる。
「・・・あ、あはは、どうも・・・。」
今にも消えて行きそうなほどの声でそう言って、数回頭を下げながら去って行く男。歪んだ木には目もくれない。
その横顔は、苦虫を噛み潰したような、そんな表情だった。
「・・・此れにて弥終(いやはて)、嘘も方便、面隠す」
この腐り切った世の中に、良いも悪いもありゃしない
薄気味悪い笑顔を浮かべ、純粋無垢を装って
オモテの姿で判断されて、使えぬモノは棄てられる
無価値なものを崇めたて、奇抜なモノは揉み消される
ぴゅーっ。シュルルッ!
黒の固形物と化した地面に目をやれば、雑踏たちに押し潰された、美しいとは到底言えない見るも無残な緑の残骸があった。黒の世界に呑み込まれながら、ただ消えてゆくのを静かに待っているように、ひっそりと。
今に、あの緑の存在は消え去り、忘れ去られていくだろう。
誰かに知られることもなく。
ひとりでに立ち込め、ひとりでに消えてゆく霧の様に。
溢れる空言に汚染されたこの御時世に、孤独に生まれて死んでゆくニンゲンたちの様に。
「進む道 溢れる欺瞞(ぎまん)に滲む嘘 浮世に消えゆく 我が言葉」
ちかちかと光を放つ高くそびえ立つ建物を、かつかつと機械の如く忙しく脚を動かす群衆を、西に沈んでゆく夕日が照らし出した。
空は、狭い。
私利私欲の塊たちが作り出した冷たいそれは、周りのものの目を潰さんばかりにギラギラと輝き、橙色がかった空を隅へ隅へと追いやっている。静寂などという言葉は、存在しなかった。
常に何かが荒れ狂い、他のものの存在を押し退けようといきりたっている。
それ等は留まる事を知らず、ただ雑音となって己の耳に響いてくる。
「進む道 溢れる欺瞞に滲む嘘 浮世に消えゆく 我が言葉」
もう一度、少年はポツリと呟いた。
行き交う群衆の片隅で、一人空に向かって呟いた。
少年の言葉は、掻き消された。
恐らく、己の言葉が空に届くことはないだろう。この有象無象にまみれた世界で、言葉たちは揉まれ、砕かれ、消えてゆくだけ。
ーーそんなものなのだろうか。そんなものなのだろう。ーー
少年は立ち上がった。
群衆の中の幾らかは、ひょいと少年に目を向けて、興味が失せたかのように再び前を向く。
「そんなものなのだろう」
少年は、再び言葉を呟いて歩き出す。届きもしない、ただ消えて行くだけの空の言葉を。
からん、ころん。
革で出来た光沢のある靴が行き交う中、似つかわしくない古びた下駄がただ消されるためだけに硬い地面にぶつかって音を奏でた。
ちかちかと光を放つ高くそびえ立つ建物を、かつかつと機械の如く忙しく脚を動かす群衆を、西に沈んでゆく夕日が照らし出した。
空は、狭い。
私利私欲の塊たちが作り出した冷たいそれは、周りのものの目を潰さんばかりにギラギラと輝き、橙色がかった空を隅へ隅へと追いやっている。静寂などという言葉は、存在しなかった。
常に何かが荒れ狂い、他のものの存在を押し退けようといきりたっている。
それ等は留まる事を知らず、ただ雑音となって己の耳に響いてくる。
「進む道 溢れる欺瞞に滲む嘘 浮世に消えゆく 我が言葉」
もう一度、少年はポツリと呟いた。
行き交う群衆の片隅で、一人空に向かって呟いた。
少年の言葉は、掻き消された。
恐らく、己の言葉が空に届くことはないだろう。この有象無象にまみれた世界で、言葉たちは揉まれ、砕かれ、消えてゆくだけ。
ーーそんなものなのだろうか。そんなものなのだろう。ーー
少年は立ち上がった。
群衆の中の幾らかは、ひょいと少年に目を向けて、興味が失せたかのように再び前を向く。
「そんなものなのだろう」
少年は、再び言葉を呟いて歩き出す。届きもしない、ただ消えて行くだけの空の言葉を。
からん、ころん。
革で出来た光沢のある靴が行き交う中、似つかわしくない古びた下駄がただ消されるためだけに硬い地面にぶつかって音を奏でた。
何もしなくても 時間は刻一刻とながれていく
気がつけば 刻一刻と過ぎ去っていく
どこからともなくきこえてきたのは
恐怖を煽る崩落音
怖くて怖くてたまらない
音はだんだん近づいてくる
崩れるまでのカウントダウン
残りの時間はあといくら?
ねぇ 気づいていないとでも思っているの?
まだ所詮子どもだからって
それとも
あなたにはこの音がきこえていないの?
だんだんと
ゆっくりゆっくり
近づいてくるの
崩れ去るまで
あと何刻?
気がつけば 刻一刻と過ぎ去っていく
どこからともなくきこえてきたのは
恐怖を煽る崩落音
怖くて怖くてたまらない
音はだんだん近づいてくる
崩れるまでのカウントダウン
残りの時間はあといくら?
ねぇ 気づいていないとでも思っているの?
まだ所詮子どもだからって
それとも
あなたにはこの音がきこえていないの?
だんだんと
ゆっくりゆっくり
近づいてくるの
崩れ去るまで
あと何刻?
*謝罪と言い訳、つぶやき
こんにちは!
閲覧してくださっている方々(・・・って、いるのかしら・・・!?←)、お久しぶりです、管理人です。
物語を思いついては書き、途中で止めてを繰り返し。さらには多忙も相まって、ナメクジにすら劣る更新スピードでございます・・・
さてさて、最近は色々なところで考えて、oceanの流れがぼんやりと決まってきました。
故に、こちらでのお話とは大分違ってきて、物語を進めるのに限界を感じてきました~_~;(殴
アイデアや新しいキャラは増えるばかり。ひえええ~・・・
by管理人の独り言
ただいま、文体が安定しておりません。
読み苦しいかとは思いますが、何卒ご理解を宜しく申し上げます…
*文体にかなり変化が見られます。
「・・・で?」
背の高い木々がのびのびと育つ、広いひろーい森の中で、アムラはぽつりとそう言葉をこぼした。
「このクソ広い森ん中で、何をどうしろって?」
あからさまに苛立った声でそう言うアムラ。
針葉樹の枝には、青々と葉が茂って太陽の光を一杯に浴びている。
木々の間をふわりと吹き抜ける優しい風は少しだけ潮の香りがして、あの小さな港町を思い出させる(誰だ、今「思い出すほど長くいなかったじゃねぇか」って言った奴)
さて、こんな素敵な森の中で何故こんなにアムラさんはぷりぷり(←)しているのでしょうか。
そもそも、アムラとフェルファが此処へ来た一番の理由というのは、「取り敢えずシェリアの言っていた獣鬼だかなんだかを倒しに来た」というもの。
しかし、その探している何だか知らないものが、一向に見つからない。これは一体どういうことなのか。
・・・・まぁ、それもそのはず。この森は非常に広く、木々も立派で縦にも横にもそこそこデカい。シェリアの言っている獣鬼だか何だかがどんなものなのかは知らないが、探し出すとなると少々と言わず面倒になってくるのだ。
ふと、アムラの中に「獣鬼(仮)を森ごと全て焼き肉にしてくれようか」と魔が差した。
どうせこんな秘境まがいの森中に立ったしょぼい教会一つ消し炭になろうとも、誰も何も言わんだろう。リューフかシェリア辺りは何か言いそうではあるが、ここらいったいの魔鬼も含めて全て駆除するとか何とか言っておけば良いだろう。
「なーんにも居ないね~?でも、結構遠くまでよく見える?おーい、アームラー!!なーにか見えたーー!!?」
「は?」
耳障りな「奴」の叫び声に辺りを見渡すが、人影一つ見当たらない。
…何処行きやがった?
辺りを再び見渡せば、今度は上を見るように叫ぶ。
やっとその目立つ色合いのそれを見つけたアムラは、足元に落ちていた太めの小枝を選んで構え、勢いよく投げつける。
手加減は、無論しない。
「アームーラー!!そっちじゃなくって上だよ~!!木ーのーうー「ああ」あだはぅっ!!?」
すこーん!
太めの小枝は見事フェルファの額を打ち付ける。
そしてふらふらと2、3回大きく揺れて、ボトリと地面に熱烈なアタックをかます事となった。
「・・・・で?」
「え?」
「貴様何故木の上にいた。寧ろいつの間に登った」
全体的に白いフェルファはこれまた全体的に茶色い土をトッピングし、極め付けと言わんばかりに額には小枝を投げ付けた赤い痕が付いている。
「アムラが見てない時だったんだけどね、ちょうど「それにしても何にもねぇな」・・・ぐすん。」
素直に質問に答えようとしたフェルファをあからさまに遮り腕を組む。
生き物の面影も、痕跡すらも見当たらないとはどういうことか。
「化け物っつってもなァ。熊か何かじゃねぇのか?」
「でも、いなかったよ?この森結構広かったけど、周りにはなーんも・・・あ、でっかい湖は
あったよ!」
「湖ねぇ・・・。」
もしかしたら、水を飲みに行っているかもしれない。何か見つかるのでは・・・?
・・・最も、唯の動物ならば。
何故こんなことで悩んでいるか。
それは、何と「そいつ」の正体を聞く前に飛び出してきてしまったからである。デカい獣鬼であるとは聞いているが、他の特徴は一切わからない。
「大体、港に居たときに木が倒れてたはずなのに、見つからないってのは何故だ?」
遠目から見ても、かなりの大きさの木であったことは間違いない。それに、木が倒れてから森に到着するまでに、そんなに時間はかかっていない。そんな短時間の間に片付けることなんてまず考えられない。
燃やした。ならば、何故灰が残っていない?焦げ付いたにおいもないし、火をつけたというのなら、煙が立つからわかるはず。切り刻んで隠した。ならば、何故一切音がしない?そもそも、何故隠す必要がある?そもそも、何故見つからないのか。考えられる原因は、探す場所が違うか、何者かが痕跡を消してしまったか、それとも・・・
「森が変わったからだゾ」
「あ゛ァ?」
真面目に思考をめぐらせていたところにトンチンカンな意見を挟まれる。ピキリと青筋を浮かべながら、アムラは低い声で唸る。
「テメェは毎度毎度イイ度胸してやがるな。今日という今日は徹底的に・・・い?」
「うん。おれはイイドキョウなのカ」
「・・・・・・・・」
なんだこいつは。
小さな体の少年が、くりくりとした丸い目でアムラを見上げている。それだけならば、何もおかしいことは無いのだが。
「アムラ~、どうしたの?・・・んん?うっはー、かわいいねぇ~!」
「カワイイ?」
少年に気づいたフェルファが、喜んで駆け寄ってくる。少年は、首をかしげてゆらりと尻尾を揺らした。
姿形は人間と似ているが、似て異なる存在。彼らは人間が持たない不思議な力を扱い、性格は凶暴であり、人間にとっては脅威となる。
ある単語が頭を過ぎる。
「!!」
妖霊とは、人間にとっては害以外の何ものでもない。
「来るなフェルファ!」
「!」
はじかれたようにその場から飛び退き、叫びながらイフリートを引き抜いた。
「紅蓮のイフを畏れ伏せ───」
「!?え、アムラ」
「?!」
相方が何をするのか理解した。刀身を包む炎、張り詰めた気配。数回目にしたことのある彼特有のスキルは、今少年に向けられようとしていた。
「ぎゃーー!待って待ってーー!!なんでいきなりそうなるのーー!!?」
目を見開いて硬直してしまった少年の元に慌てて飛び出して、突き飛ばすような勢いで少年を抱えあげる。
「「!?」」
軽々と少年を脇に抱え、今にもスキルを発動しようとするアムラから距離をとった。
「何するの危ないじゃないの!?」「何しやがる危ねェだろ!?」
2人の間に、なんともいえない空気が流れる。
「・・・・・」
「・・・・・」
「なあ、おれ腹へったゾ。」
「「・・・・・・・・・・・」」
そして、2人の間になんともいえない空気が流れるのだった。
こんにちは!
閲覧してくださっている方々(・・・って、いるのかしら・・・!?←)、お久しぶりです、管理人です。
物語を思いついては書き、途中で止めてを繰り返し。さらには多忙も相まって、ナメクジにすら劣る更新スピードでございます・・・
さてさて、最近は色々なところで考えて、oceanの流れがぼんやりと決まってきました。
故に、こちらでのお話とは大分違ってきて、物語を進めるのに限界を感じてきました~_~;(殴
アイデアや新しいキャラは増えるばかり。ひえええ~・・・
by管理人の独り言
ただいま、文体が安定しておりません。
読み苦しいかとは思いますが、何卒ご理解を宜しく申し上げます…
*文体にかなり変化が見られます。
「・・・で?」
背の高い木々がのびのびと育つ、広いひろーい森の中で、アムラはぽつりとそう言葉をこぼした。
「このクソ広い森ん中で、何をどうしろって?」
あからさまに苛立った声でそう言うアムラ。
針葉樹の枝には、青々と葉が茂って太陽の光を一杯に浴びている。
木々の間をふわりと吹き抜ける優しい風は少しだけ潮の香りがして、あの小さな港町を思い出させる(誰だ、今「思い出すほど長くいなかったじゃねぇか」って言った奴)
さて、こんな素敵な森の中で何故こんなにアムラさんはぷりぷり(←)しているのでしょうか。
そもそも、アムラとフェルファが此処へ来た一番の理由というのは、「取り敢えずシェリアの言っていた獣鬼だかなんだかを倒しに来た」というもの。
しかし、その探している何だか知らないものが、一向に見つからない。これは一体どういうことなのか。
・・・・まぁ、それもそのはず。この森は非常に広く、木々も立派で縦にも横にもそこそこデカい。シェリアの言っている獣鬼だか何だかがどんなものなのかは知らないが、探し出すとなると少々と言わず面倒になってくるのだ。
ふと、アムラの中に「獣鬼(仮)を森ごと全て焼き肉にしてくれようか」と魔が差した。
どうせこんな秘境まがいの森中に立ったしょぼい教会一つ消し炭になろうとも、誰も何も言わんだろう。リューフかシェリア辺りは何か言いそうではあるが、ここらいったいの魔鬼も含めて全て駆除するとか何とか言っておけば良いだろう。
「なーんにも居ないね~?でも、結構遠くまでよく見える?おーい、アームラー!!なーにか見えたーー!!?」
「は?」
耳障りな「奴」の叫び声に辺りを見渡すが、人影一つ見当たらない。
…何処行きやがった?
辺りを再び見渡せば、今度は上を見るように叫ぶ。
やっとその目立つ色合いのそれを見つけたアムラは、足元に落ちていた太めの小枝を選んで構え、勢いよく投げつける。
手加減は、無論しない。
「アームーラー!!そっちじゃなくって上だよ~!!木ーのーうー「ああ」あだはぅっ!!?」
すこーん!
太めの小枝は見事フェルファの額を打ち付ける。
そしてふらふらと2、3回大きく揺れて、ボトリと地面に熱烈なアタックをかます事となった。
「・・・・で?」
「え?」
「貴様何故木の上にいた。寧ろいつの間に登った」
全体的に白いフェルファはこれまた全体的に茶色い土をトッピングし、極め付けと言わんばかりに額には小枝を投げ付けた赤い痕が付いている。
「アムラが見てない時だったんだけどね、ちょうど「それにしても何にもねぇな」・・・ぐすん。」
素直に質問に答えようとしたフェルファをあからさまに遮り腕を組む。
生き物の面影も、痕跡すらも見当たらないとはどういうことか。
「化け物っつってもなァ。熊か何かじゃねぇのか?」
「でも、いなかったよ?この森結構広かったけど、周りにはなーんも・・・あ、でっかい湖は
あったよ!」
「湖ねぇ・・・。」
もしかしたら、水を飲みに行っているかもしれない。何か見つかるのでは・・・?
・・・最も、唯の動物ならば。
何故こんなことで悩んでいるか。
それは、何と「そいつ」の正体を聞く前に飛び出してきてしまったからである。デカい獣鬼であるとは聞いているが、他の特徴は一切わからない。
「大体、港に居たときに木が倒れてたはずなのに、見つからないってのは何故だ?」
遠目から見ても、かなりの大きさの木であったことは間違いない。それに、木が倒れてから森に到着するまでに、そんなに時間はかかっていない。そんな短時間の間に片付けることなんてまず考えられない。
燃やした。ならば、何故灰が残っていない?焦げ付いたにおいもないし、火をつけたというのなら、煙が立つからわかるはず。切り刻んで隠した。ならば、何故一切音がしない?そもそも、何故隠す必要がある?そもそも、何故見つからないのか。考えられる原因は、探す場所が違うか、何者かが痕跡を消してしまったか、それとも・・・
「森が変わったからだゾ」
「あ゛ァ?」
真面目に思考をめぐらせていたところにトンチンカンな意見を挟まれる。ピキリと青筋を浮かべながら、アムラは低い声で唸る。
「テメェは毎度毎度イイ度胸してやがるな。今日という今日は徹底的に・・・い?」
「うん。おれはイイドキョウなのカ」
「・・・・・・・・」
なんだこいつは。
小さな体の少年が、くりくりとした丸い目でアムラを見上げている。それだけならば、何もおかしいことは無いのだが。
「アムラ~、どうしたの?・・・んん?うっはー、かわいいねぇ~!」
「カワイイ?」
少年に気づいたフェルファが、喜んで駆け寄ってくる。少年は、首をかしげてゆらりと尻尾を揺らした。
姿形は人間と似ているが、似て異なる存在。彼らは人間が持たない不思議な力を扱い、性格は凶暴であり、人間にとっては脅威となる。
ある単語が頭を過ぎる。
「!!」
妖霊とは、人間にとっては害以外の何ものでもない。
「来るなフェルファ!」
「!」
はじかれたようにその場から飛び退き、叫びながらイフリートを引き抜いた。
「紅蓮のイフを畏れ伏せ───」
「!?え、アムラ」
「?!」
相方が何をするのか理解した。刀身を包む炎、張り詰めた気配。数回目にしたことのある彼特有のスキルは、今少年に向けられようとしていた。
「ぎゃーー!待って待ってーー!!なんでいきなりそうなるのーー!!?」
目を見開いて硬直してしまった少年の元に慌てて飛び出して、突き飛ばすような勢いで少年を抱えあげる。
「「!?」」
軽々と少年を脇に抱え、今にもスキルを発動しようとするアムラから距離をとった。
「何するの危ないじゃないの!?」「何しやがる危ねェだろ!?」
2人の間に、なんともいえない空気が流れる。
「・・・・・」
「・・・・・」
「なあ、おれ腹へったゾ。」
「「・・・・・・・・・・・」」
そして、2人の間になんともいえない空気が流れるのだった。



