おやすみ
中途半端な夢をみていた
夜中に目が覚めた
真夜中の甲州街道
窓の外にはしんしんと雪が舞っていた
すべてがうまくいかない
気の利いたセリフが欲しかった
好きだったあの子のキスが欲しかった
なにもかもがうまくいかない
また眠るしかない
見上げる月は
あの子の口に似ている
おやすみ
ぼくは知っている
いらいらしている人
偉そうにしている人
ぼくは知っている
子どもの頃から知っている
自慢する人
過去の栄光を見せる人
ぼくは知っている
君が偉そうに語ること
ぼくは知っている
誰も知らないくだらないことを
大きな夢
大きな男になりたい
この夏の空を
大きな手で抱きしめたい
あのニューヨークの少女の
小さな夢を
大きな手で抱きしめたい
メキシコの女性
ローマの少年
日本の学生
たくさんの人を乗せたバスを
大きな手で抱きしめたい
しあわせな夏の朝に夢を見る
かなわない夢ではない
かなえようとする夢
盲目の紳士がバスの運転手
大きな男になりたい
記憶
子どもの頃の記憶
僕は右の目が不自由だった
何をするにも恐かった
失敗するのが恐かった
大人になって
眼鏡をかけるようになった
何もかもが鮮やかに映った
美しくないものまで
美しく思えた
眼鏡があっても
恐いことがある