ある患者Aさんが、歯の痛みを訴え、やってこられた。

 

右下奥歯にインプラント挿入後から、歯肉の痛みが起こり、その後、右側顔全体に痛みが波及して、

仕事も休まざるを得ない状況になったとのこと。

 

診察したところ、インプラント挿入直上に、軽い圧迫で激痛が生じた。

右頭部全体も軽い圧迫で痛みが生じていた。

 

どうみてもインプラント挿入が悪さをしているとしか思えなかった。

インプラントを抜くことはできないのかと伝えたら、それは難しいとのこと。

 

すでに80万円支払っており、総額は200万円にもなるという。

もし抜いたら、また費用が掛かってしまうとのこと。

 

また担当医の話では、レントゲンもとったけど異常はない、痛みが出ることなんてありえない、一度もそんな経験はない、インプラントのせいではないと言い張っているという。

 

痛みが治まったら来るようにと言われ、全然歯の痛みについて向き合おうとしない姿勢にAさんは、困り果て耳鼻科や脳神経外科に行って、鎮痛剤をもらったりしていたが、一向によくならない。別の歯科医に行ったものの、すでにインプラントが挿入している状況ではどうすることもできないといわれたようだ。ちなみに疼痛部位の歯肉に、局所麻酔剤を打ったら、3時間だけ痛みが完全に消えたという。

 

インプラントを入れた直後から痛みが激しくでているにも関わらず、それを認めようしない態度に私はとても腹立たしく思った。

 

Aさんはおそらく治療費を弁償してほしいとか、文句を言いたいわけではないと思う。真摯に患者の困りごとに向き合ってほしいということだと思う。この担当歯科医が対応せずして、どこの歯科医が対応するというのだ。

 

痛みを預かる身としては、術後のこの手の話はとてもよく遭遇する。レントゲンを見させて、「ほら、何もないだろう」と言い放つ。あからさまに不機嫌な態度を取り、話もろくに聞かず、泣き寝入りをしている患者は数知れず。

こちらとしては、我々の治療に入る前に、まず、彼らの無念を長い時間をかけて話を聞く必要がある。

 

医師の良心なんて、久しく聞かなくなったが、人間性を医師に求めるのは、欲張りすぎなのだろうか。