ひとつだけ、忘れたくないことは
出会ったことを否定しないこと。


紆余曲折、憎んで憎んで。
“こんなはずじゃなかった”
何度も思った。

けれど、周りの困惑も気づかぬフリして結婚を選んだのは紛れもなく自分自身で。
色んなしがらみから逃げ出したい気持ち、
周りに置いていかれて焦っていた気持ち、
ただ単純に、この人と一緒に過ごしていきたいと思えた気持ち、

100%純粋な思いなんてなかった。
それでも50%は、この人と始める新しい生活を楽しみにしていた。


会える日をチェックしていたこと
親に紹介することを楽しみにしていたこと
雪に埋もれて転げ回ったこと
さくらを何度も見にいったこと
花火を間近から見上げたこと
虫の声を聞きながら涼んだこと
お揃いの手袋で出掛けたこと

楽しかった、好きだった時間がたくさんある。


数十年の人生のたかが数年しか知らない人。
この人にも、大切な人がいて、愛した人がいて、愛し合った人がいた。

嫌な面はどれだけでも見えてくるけど
良い面は意識しないと見落としてしまう。
それはきっと先入観があるからで、
良い面を見ようとしないわたし側に問題があるんだと思う。
きっと良い面なはずなのに、それを良いと思えない自分がいる。

この人を愛した誰かは、何を愛していたのか。
どうしてわたしはこの人を愛せないのか。
ふと、自問自答を繰り返す。


自分で決めた道。
何度も何度も、決断した自分を責めた。

それでも、嫌な気持ちと同じだけ、楽しかった時間があった。
楽しかった時間があったからこそ、嫌な気持ちに拍車がかかった。

相手への不満ばかりで、自分は何をしてあげた?
求めるばかりで、与えることができていたのか?
大声でイエスなんて到底いえない。


落ち着いて振り返ると見えることがある。
融合できないのなら、自分の間口を広げればいい。
入りやすく、溶けやすく、包み込めばいい。

こう思えたことを、忘れないでおこう。
憎んでしまったときに思い出せるようにしておこう。


彼はわたしの人生の片割れ。
わたしは彼の人生の片割れ。
彼の人生の片側が曇ってしまわないように。
いつだって明るく前を向いて進めるように。

わたしは彼の太陽でいよう。
片側からずっと照らしていよう。
片側が明るいのなら、もう片方にも光が射す。
そう思った、梅雨の晴れ間の午後。