手のひらを太陽に2! | alcyoneのブログ

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じつはこの歌、本当ははやぶさ君のためにリストアップしといた曲ではなかったのです。

僕らに願いを託し断熱圧縮で燃え尽きるはやぶさ君の姿がタチコマに重なって、「えいや」と使ってしまいましたが…。

川島あい - 手のひらを太陽に





その対象とは、同じくJAXAの実験宇宙船のイカロス君

久しく書いていなかったテクノロジー・ジャンルの記事を立て続けに書こうと、この時期に合わせてちょこちょこ準備していたのですが…。ちょっと感情が昂ぶってしまって、軌道修正を余儀なくされてしまいましたw

で、本題。




DCAM2がイカロスの撮影に成功!

と、いきなり言っても何がどうなってるのか伝わらないと思いますので、僕なりにちょっと解説してみます。

そもそもイカロスとは、人類史上初の、太陽光圧で機動できる機動船

金星探査船「あかつき」と共に、H2-Bで打ち上げられた実験船です。

さて、また妙な言葉が出てきてしまいました。

光圧とは、簡単に言えば「光の粒子がぶつかった時に反射面に発生する圧力」のことで、イカロスはこれをソーラーセイル表面に発生させ、利用します。

まさに「光を受けて進む帆船」です。ステキでしょ?(ただし、光は流体とは違うので、通常の帆船の帆のように揚力を発生させたりということはできません。残念ながら…)

またDCAM2とは、イカロス君が装備する分離カメラシステムのことで、本体から切り離され、遠ざかりながら連続写真を撮影し、イカロス君へ(そして地上へ)転送する機能を持ったカメラユニットの2号機のことです(1号機は既に使用済み。尚、DCAMは分離後は世界最小の、太陽の周囲を飛ぶ衛星になります)。

イカロス君は帆を広げると、その大きさは対角線長が20m(正方形)にもなります。

なので自分の姿を撮影して地上へ送るためには、遠くから撮影する必要があるのですが、糸で繋いでおいたりすると色々リスクがあるので、分離式のカメラなのです。




さてイカロス君の任務内容ですが、ウォーミングアップを終えた彼はいよいよ、これから本格的に様々の先進的な実験の数々をこなしていくことになります。

メインになるのは、やはり太陽光圧を利用した加速/減速の実証。次いでソーラーセイルの機能のみを利用した機動の実証も行います。

実験の初期段階においてイカロスは、本体に設置された化学スラスタにより向きを変え、展開したソーラーセイルを追従させて太陽光の入射角を変化させることで加減速、および光圧による機動を行いますが、次の段階ではスラスタを使用せず、4つのセイルに当たる光の反射量を微調整することで各セイルの受ける光圧を変化させ、その圧力差で本体の姿勢を変化させることになります。(ソーラーセイルは、その使用時には常に光源に向いていますから、ここに薄型光電池を装備して、同時に発電も行います。)

4つのソーラーセイル表面には、発電用の光発電パネルのほかに液晶パネルが装備されます。これらに通電して光の反射量を変え、4つの帆に受ける光圧のバランスを意図的に崩すことで向きを変えます。

イカロス君は世界初のソーラーセイル宇宙船ですから、これらの太陽光圧を利用した航行ももちろん世界で最初に彼が体験することとなります。

他には、ダストカウンタで宇宙空間を漂う塵の分布を調べたり、ガンマ線バースト偏光検出器を用いたガンマ線バースト(未だに原理不明)の観測を行います。

単にソーラーセイルの機動実験にとどまらず、今後の宇宙開発にとって極めて重要な役割も負っているわけです。

ちなみに彼の最終目的地は、あかつきと同じ金星です。




太陽光圧推進は、従来の推進装置のような単純な反作用を利用した推進システムではないので、いくつかの優れた点や注意が必要すべき点があります。

まず一つ目は、なんといっても推進のための燃料が必要ないということ。

ペイロード条件(搭載物の重量や容積)の限られる宇宙機にとって、燃料を必要としない推進システムの開発は、まさに夢の発明。エポックメイキングな事件であると言えます。

二つ目は、光源から離れると推進力も弱まるということ。

光圧は、光源と反射面の間の距離の二乗に比例して弱まります。ですから太陽系の外へ向かって旅をする場合、より巨大な帆が必要になります。

三つ目は、加速すると光源から遠ざかり、減速しようとすれば光源に近づくということ。

帆に光を受けて進むわけですから、太陽光圧を利用すれば、加速する際には当然、太陽から離れていかざるを得ないわけですし、逆に減速しようとすれば、今度は太陽の重力につかまって徐々に引っ張られ――つまり太陽に“落ちて”ゆくということになります。太陽へ向かいつつ、ある方位へ向かって自在に加速するのは、ちょっと難しいかもしれません。

これらの特徴をふまえ、イカロスの歩んだ道程は、はやぶさが命を賭して実証したイオンスラスタ技術と共に、高効率な推進システムとして、将来構想される木星探査船などに活かされるだろうと構想されています。




色々とメリットの大きい太陽光圧推進ですが、原理自体は100年以上前から既に知られていました。

それが今になってようやく実現したわけですが、最大の障害は何と言ってもソーラーセイル自体の製造の困難さでした。

太陽光といえど、その光圧は非常に微弱で、我々が肉体の感覚器官でその存在を感じることはまず不可能である、というほど小さな力しか持ちません。

そのため、セイルは薄くて軽く、しかし大きく広げても宇宙線や熱に耐えるだけの、丈夫さ、強さを備えている必要がありました。

でもそんな都合の良い材料が簡単に生み出せるわけもなく…。で、ここまで来るのにほぼ1世紀。

結局、人工衛星の表面を覆う金色の断熱材でお馴染みのポリイミドフィルムを改良し、極限まで薄く、広く加工する技術を開発した日本が、そのボトルネックを解決しました。

さすが材料技術立国・日本!(日本の材料技術はマジで世界一です。工業立国なんて言われてますが、日本の強みは世界の最先端を行く材料技術に支えられています)

その厚み、なんと0.0075mm!一般的にはピンとこない数値かもしれませんが、精密機械部品においては一般的に、寸法のブレが±0.02~0.05mmで管理される~と言えば、なんとなくその凄まじさが伝わるでしょうか?(わかりにくかったらごめんなさい)

そんなものを均質な品質で、しかも16x16mの広さを持ったものを作ってしまう技術力の高さは、ちょっと信じがたいほど高度なものです。

ちなみに液晶パネルと太陽光発電パネル、それらの配線も極限まで薄く開発されており、セイル折り畳み時の体積を大幅に減らしています。

だいこうかい      いかろす
大 公 開 ! これがイカロスのぜんぼうだ !
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抜群の航続距離を実現するイオンスラスタ(はやぶさで実証)とソーラーセイル(イカロスで実証予定)のハイブリッド推進システムは、将来人類の手の届く範囲を大幅に拡大する為の、中核的なファクターになってゆくことが考えられます。

これら技術において我が国は世界の先頭を走っており、大袈裟に言い換えれば、JAXAは人類の宇宙進出を切り拓く存在であると言えます。

日本や世界の発展を想うとき、狭い視野と誤った認識でこうした素晴らしい事業・組織に圧力をかけるべきでないというのは、当然の理屈であります。




JAXAのわかりやすい動画

(大画面動画はこちら

はやぶさを応援してくれたみなさんには、イカロス君のことも是非応援してほしいと願います。

なにはともあれ、イカロス君、がんがれ~~!