むかしから
カードゲームには弱かった
ババ抜き、スピード、神経衰弱…
正月に親戚の子どもたちが集まって
みんなでよくトランプゲームをしたものだ
いつも負けてばかりで悔しくて…
でも、
一つだけ、勝負が予想不可能なものがあった
それは「大貧民」というゲームで、
「ババ」の次に「2」が一番強く
2,1,13,12,11,10,…の序列で
そして、「3」が一番弱かった。
だから、ほかの数字の次に「3」は出せない。
一番最後までカードを持っていた人が「負け」なのだが、
「3」を持っていると最後まで札が出せないことになる。
そして負けてしまう。
しかし、
「3」を3枚持っていたならば話は違う。
それは最強となって、
「革命」が起こり、
最弱な数字「3」が一番強く、最強な数字「2」が一番弱くなる。
ところで、
私の仕事はほとんど
半年から一年ほどでピリオドを迎える
次の職場でキャリアはリセットされ、
スタッフの中のどの若い子よりも
序列はぺーぺーのペーから始まる
毎度、かなり年下の人に
指示してもらい、注意を受け、確認してもらう
もう自分の年齢など関係ない。
どこに入っても「新入り」で初心者なのだ。
時々、安定した地位、
責任をもって熟練した人を見ると
羨しく眩しく見え
ため息が漏れる
パン屋の厨房で
「ああ!」
手の中の雑巾を握りしめ
「いつになったら安定した存在になれるんだろう…」
気が遠くなり
少し悔しさがこみあげてきた
よし、
「ここを磨く!」
私はパン工房のキッチンの流し台の下に
頭を突っ込んで
何年も放置されていた
油まみれのホコリと
こびりついた汚れと格闘し、磨いた
「わたしは輝く!わたしは輝くんだ!」
と心の中で叫んだ。
みるみる
油で茶色く汚れたシンクは
独特のアルミの銀色に輝き
場所が明るくなった
さっきまでの
「殺気」に満ちた「やってやる!」といった
ヤケクソ感は消え、
突然、「大貧民」の「3」を思い出した。
一番弱い「3」の回数を重ねることで
「3」であることに自信が付いてきたかもしれない。
それこそ最強じゃないか?
どこへ行っても「3」から
始められる勇気!?
私の手元にはすでに3枚の「3」のカードがあって
自分を卑下することもなく
他人をやたらと羨むことなく
今後、平坦な気持ちで「3」でいられそうな気がしてきた。