「あなたね、自分がありすぎて人が入り込む余地がないのよ。」

 

この言葉が数日頭をよぎっていた。

 

朝起きて水道で顔を洗い

タオルに顔を埋めると

まぶたの中に幼い頃の自分の姿があらわれてきた

 

誰もいない家の中

ほとんど大人は家にいなかった

自分のお相手をしてくれるのは

LPお話レコードの”ロングおじさん”だった

 

一方通行のコミュニケーション。

でも、とてもあたたかい語り口で好きだった

いろんなお話が空想され、頭の中で世界が広がる

 

幸せだけれど、お話のレコードが終わると

ロウソクの火が消える様に

幸せ気分も消えてしまうのだ

何回も何回もお話のレコードを聞いていた

 

成長して私は母親になり

家に一人ぽつんと取り残される様になった

もう、自分の知らない世界に飛び出ていく勇気もなく

仕方なく家に閉じこもっていた

私のパートナーはラジオになった

朝から晩までラジオを聞いていた

 

一方通行のコミュニケーション。

 

「あなたには人の話をそのままに聞くってモードがないのよ」

「なんでも自分の枠にはめてきこうとしてるの」

「だから相手は何も言えない」

「わかってもらえないからって諦めちゃうのよ」

友人はそんなふうにも言っていた。

 

数年前までの自分の姿を思い出した

「一生懸命、相手のために」、と頑張って

ピンと張った心で

家族に向かいあっていた。

ピーンと張り詰めていることを自覚していたけれど

それを耐えなければ、と思っていた。

 

心にはパラフィン紙が張っていて

表面がツルツルしていて

取りつくところがなく

柔らかい心が飛沫のように

弾き返されてしまうような

そんな、硬直した心の様子が思い出される。

 

過ぎたことは少し遠目で、

ありのまま見えるようになるものらしい。

 

今日も電話でのアドバイスを受けた。

 

「でもね、安心して。スライドするように変われるから」

「もうそのままじゃ、いられなくなるから。」

「気がついたら変わっているから。」

 

「ピンと張ったバリアを剥いだら

自分はどうなっちゃうかと思ってるだろうけれど

そんなものなくても

なんでもないって、わかるから。

もっと人生が楽しく感じられるようになるわよ。」

 

なんだか、心が軽くなった。

ちょっといつも喉に物が詰まった様に感じていたけれど

きっとそのうちスッキリしてしまうに違いない。

 

熱いお風呂に浸かった足先がピリピリ痛むのも

今日はなんだか楽しかった。