いきなり長男の姿の消えたのだ。
尾瀬ヶ原の真ん中に通る一本道から分かれた支線の先に
息子の姿が忽然とみえななくなり…
枯れたすすきの穂がサワサワと風に揺れているばかりだった。
「???」皆、顔を見合わせた。
「どこに行った?」
慌てて、皆で手分けして
行き止まりの支線の先を探した。
「わあ、!」
夫がどうやら探し当てたらしい
駆けつけてみると
長男は木道から落ちて
沼地に足が半分くらい埋まっていた。
長男は、惨めそうな、そして怒ったような顔をして
半べそになっていた
泥からみんなで引っ張り上げるが
足がなかなか抜けなかった。
ようやく引き上げると
買ったばかりのトレッキングシューズとズボンが
泥でベッタリと汚れてしまった。
長男はとうとうカンカンになり
「だから、きたくなかったんだよー!!」とキレた。
わたしもその時、イライラの絶頂だったことを思い出す。
わたしは、初めて
「いい、もう知らない!」
この子を生まれてはじめて『見放した』。
本当に。
もう嫌だった。
みんなのご機嫌をとって嫌な思いばかりしている
「もう嫌だ!」
わたしもプツンと切れて
夫と夫の友人と、息子から少し離れた場所で
次男、長女を集めて
傍観者のように見ていた。
事態の集収がつくと、
ある一定の間隔を開けながら、元の道を黙々と戻った。
わたしの前には長く続く一本の木道…
黙ったまま…
ポク、ポク、ポク、ポクと木道を歩く音が聞こえていた。
いつまでこんな日々が続くんだろう?
ムラムラする思いが消えなかった。
湿地の端の山の鼻につくと
少し気持ちが落ち着いていた。
長男もびしょ濡れになった足を気にしていたが
夫にご機嫌を取られながら、
なんとか気を取り戻していた。
初めて、家族にキレたわたし
初めて、長男を見放したわたし
初めて、夫が長男を請け負う姿をみたわたし
複雑なイライラが重なって混乱していた。
あんなに命をかけて育ててきたけれど、
わたしでなくても「用」が足りること。
これほどまでに我慢を重ねて皆に尽くしたけれど、
わたしの我慢なんて「大した」ことではなかったこと。
今回ばかりは「わたしも」楽しめると思ったのに、
人の機嫌ばかりとって楽しめなかったこと。
あんなに自分のことばかりしてきた夫に
ころりと長男が翻ってしまったこと。
心がくしゃくしゃになったけれど、
今だから言葉になること。
当時は、言葉にも出来なかったんだよね…
今、だから、分かることがあるんだね…