心臓カテーテル治療/経皮的冠動脈形成術(PTCA/PCI)について
今日はカテーテル検査で発見された狭心症、心筋梗塞症などの治療法(経皮的冠動脈形成術、以下PCI)についてご説明します。
心臓を養う血管(冠動脈)に狭窄、もしくは慢性か急性の閉塞の生じた状況を解除する目的でカテーテル治療をすることをPCIといいます。
カテーテルそのものは鼠径(そけい)部、肘部もしくは橈骨(とうこつ)動脈領域からの手首部よりアプローチし、約2~2.5mmの細い管(カテーテル)を介して治療します。
穿刺する部分は局所麻酔であり、全身麻酔ではありません。
カテーテルが血管の中を進んでいくときには、通常痛みは感じません。
カテーテルが冠動脈まで進んでから、今度はそれを通じて柔らかい細い髪の毛のようなガイドワイヤーというものを進め、狭窄部を通過させます。
その後、そのワイヤーを使ってすべらせるように風船(バルーン)を狭窄部位までもっていき、拡張、そしてステントといわれる金属の薄い格子状の筒を血管に密着させ、その拡張により血管を支持させて終了です。
心臓カテーテル検査③
本日は心臓カテーテル検査の最終回、検査施行に際しての注意事項です。
心臓カテーテル検査は日本でも開始されたのは古く、一般的な検査となってからも約30年を経過しており、 その間も、多くの進歩をとげており、現在ではほぼ確立した検査のうちの1つです。
しかしながら、血管に対して直接的にアプローチする検査ですので全く合併症がないわけではありません。
代表的なものでは、
①検査施行部位の血腫
②不整脈
③施行血管の攣縮
④施行血管の塞栓
⑤脳梗塞
等ですが、①、②を除けばどれも発生する確率は著しく低い頻度であり、④、⑤にいたっては 1000分の1の確率です。
新東京病院循環器科では、習熟した医師がカテーテル検査を施行していますし、 私が責任をもってやらせていただいています。
カテーテル検査は、いわゆる検査の一部ですので、
「カテーテル検査が必要です」
といわれても、決して怖いものではないことをご認識ください。
学会出席
本日よりアメリカ、テキサス州ダラスに行ってきます。
滞在は4日間の予定でアメリカ心臓病学会(American Heart Association 、以下AHA)の出席のためです。
これは現在のところ、循環器医療に関しては世界で一番レベルの高い学会で、臨床医としてはここで何かが発表できるということは、自分たちの日頃の診療水準が世界レベルに高いことを意味することになるので、皆が目標にしているものです。
もちろん動物実験とか、大学でないとできないような全くの基礎研究の発表も多くありますが、我々が目標としているのは日頃の診療の内容をまとめて何かを発見して・・・といった臨床の現場でのサイエンスで、むしろこの臨床で発表することがAHAでは最も難しいとされています。
現在まで今年で私は5年連続で発表する機会を得ており、そのおかげでだいぶ国際的に名前を覚えてもらえるようになりました。
世界中で心臓病治療をやっている有名な先生たちと友人関係もでき、そのおかげで新東京病院 で高い水準の医療を継続して患者様に行えていると思っています。
では、いつも強行軍なのですが、元気に行ってきます。
昨日の事
日本社会保険医学会総会が三井ガーデンホテル船橋ららぽーとでありました。
昨日のランチョンセミナーで『新しい冠動脈形成術ステント(薬剤溶出ステント)のもたらしたもの』という演題で講演をしました。
以下、少しだけ講演の内容を紹介しようと思います。
ステントが登場する以前のPTCA(POBA、今でいうPlain Old Balloon Angioplasty )の時代は急性冠閉塞、再狭窄(さいきょうさく・・・治療した血管が再び詰まってしまうこと)という2つの問題点がありました。
この問題がステントの登場により、
①重大合併症をほぼ回避できるようになった
②再狭窄を半減させることができた(35~45% → 15~20%)
というように改善しました。
しかし、ステントの登場により人類として新しい病態『ステント内再狭窄(ISR)』という問題に直面しました。
ステント登場前に起こる再狭窄とステント登場後に起こる再狭窄は同じ再狭窄であり、種類は違いますが、常に再狭窄との戦いを含む医療を続けざるを得ませんでした。
常に再狭窄をするリスクがあるという中での治療だったため、2回、3回の治療もありうる方法であったのです。
このため、新東京病院ではカテーテル治療と心臓パイパス手術をいくつかポイントによって選択していました。
しかし、先日も心臓コラムで触れましたが、『切らずに済むなら切らずに済ませたい』と考えるのは当然です。
そこに最近、Drag-Eluting Stent(以下、DES)という画期的なステントが出てきました。
あらかじめステントの表面に再狭窄を予防する効果がある薬剤をコーティングしたもので、以前のステントに比べ再狭窄のリスクがほとんどないことが証明されています。
2回、3回の治療がありうるという常識が1回の治療で「あなたは完全に治りましたよ」と言ってあげあられる時代となりました。
そしてDESの登場によりカテーテル治療とバイパス手術のバランスがカテーテル治療に偏る傾向になることが予想され、治療の質も著しく向上したといえます。
冠動脈インターベンションを施行している循環器科の役割は
『医師として冠動脈疾患を持つ患者さんを幸せに導くこと』です。
そして患者さんのために、常に『意味』『理由』『根拠』のある医療を常にしていきたいと考えています。
心臓カテーテル検査②
本日は検査施行の方法についてご説明します。
心臓カテーテル検査では患者様の動脈または静脈から心臓の方へ向かって細いカテーテルを進めていくのですが、検査に際して全身の麻酔をかけるわけではありません。
局所麻酔のみです。
また注射していくのは
①鼠径(そけい)部・・・心臓電気生理学的検査、もしくは冠動脈造影のごく一部
②肘部・・・冠動脈造影のごく一部
③手首部・・・橈骨(とうこつ)動脈から。冠動脈造影のほとんどはこの部から
の3箇所ですが、後々に安静がいらない等の理由で、橈骨動脈から検査をすることがほとんどです。
カテーテルには1mm強のごく細い冠動脈を用い、血管内をすすめるにあたっては、ほとんど苦痛は感じません。
カテーテルを冠動脈、心室まで進め、その造影等の所定の検査が終了すると、すぐさまカテーテルは抜去、そのサポートとしていたシース(カテーテルを入れるためのガイドのようなもの)も抜去します。
術後は止血用のバンドをした上で、約3~4時間でバンドをはずし、カットバン等の処置をします。
次回のコラムはカテーテル検査の話の最終回です。
検査施行に際しての注意事項を述べたいと思います。
心臓カテーテル検査①
新東京病院 のカテーテル室では、祝日を除く月曜日から土曜日まで検査、治療含めて施行しています。
今日は心臓カテーテル検査(主として冠動脈造影)のことについてふれようと思います。
何かしらの胸部症状があって、病院へ行くと、
「精密検査のために心臓カテーテル検査をしましょう。」
と言われるケースがあります。
普段では聞いた事もない検査、しかも入院を必要とし(一部では日帰り検査としてやっていますが)、体の中に管(カテーテル)を入れるというと
「本当に受けなければならないのだろうか?」
「そんなに悪いのだろうか?」
といろいろな思いが錯綜されることと思います。
何せ、心臓は大事な臓器であるのに、知識がないので不安に違いありません。
そこで簡単に説明をいたします。
心臓カテーテル検査とは、カテーテルという細い管(1mmちょっとの太さ)を使用して、主として心臓を養う動脈(冠状動脈といいます)を造影剤を使って造影し、動脈硬化等による狭窄、閉塞を発見するための検査です。
そもそも心臓は1分間に約60回、生まれてからずっと1日約10万回の拍動をずっと続けている臓器で、生命の源ともいうべき大事な場所です。
そして4つの部屋からなっており、それぞれを仕切るため4つの弁があり、それぞれに名前がついています。
カテーテル検査では、そのそれぞれの部屋の大きさ、内部の圧力収縮の度合い等を詳細に知ることができます。
その心臓を養うための動脈を冠動脈といい、そこに動脈硬化等により発生したその狭窄を発見する検査のことを冠動脈検査といいます。
冠動脈が狭窄となるためには主として2つの原因があります。
1つ目は動脈硬化によるもの、2つ目はこれは日本人に比較的多いのですが、冠攣縮(かんれんしゅく)といって、冠動脈がケイレンして狭窄をつくるものです。
この両方ともに、冠動脈造影検査によりその有無を検出することができます。
次回は検査施行の方法について説明したいと思います。
最近の心臓病の話
「もし病気(それも大病)にかかったら」という不安は誰でも持っていると思います。
また、普通の認識ではまず内科が診察し、外科が手術して治療するという概念はないでしょうか。
心臓病に関して言えば、20年前までは確かにそのような時代でしたが、最近は、全身麻酔、メスを使った手術ではなく、カテーテルを使用した血管内治療(カテーテル・インターベンション)が発達し、多くの領域でいわゆる『切らないで治す』ことができるようになってきました。
かくいう私も心臓病内科医で、かつカテーテル・インターベンション医で、年間約1600例の治療(日本国内で第2位か第3位です)を施行しています。
さて、心臓病治療で現在頻度が高く、最も問題になっているのが、狭心症、心筋梗塞症といった冠動脈疾患でしょう。
この治療にも内科的にカテーテル治療をやるか心臓外科によって冠動脈バイパス術をやるか2つの方法があり、これまでは世界的には、その比重は
カテーテル治療:パイパス手術 = 4:1
ぐらいでした。
これは誰しもが思うことでしょうが、
『切らずに済むなら切らずに済ませたい』 = 『カテーテル治療できるならカテーテル治療したい』
と考えるのは当然です。
カテーテル治療はさまざまな進歩を遂げてきたのですが、どうしても20~30%の患者さんで『再狭窄』してしまうという欠点があり、そのために、その冠動脈の狭窄が中枢にあれば、再狭窄のときの影響が大きいのでその患者さんでは冠動脈パイパスを最初から選択するといった風にカテーテル治療と冠動脈パイパス術を使い分けしていました。
ところが、最近まるで魔法のような道具が出現しました。
それは全く再狭窄しないようにできる『ステント』という道具で血管内を風船で広げたあと、特殊な薬剤を染み込ませた網目状の薄い金属の筒をその血管に留置することによって、再狭窄を防ぐことができるようになりました。
このことによって、95%~98%の患者さんで『切らなくて済む』ようになってきました。
残念ながら未だ100%ではありませんが、ほとんど手術を受けなくても良くなってきたことは狭心症、心筋梗塞症の患者さんにとっては、とてつもない福音であろうかと考えます。
また、この治療もカテーテル治療ですので、治療に要する時間は30~45分程度ですし、入院も簡便で当院 でも施行しています。
この領域は進歩がとても早く、さらにどんどん治療成績がよくなることが予想されます。
もしこの治療に関して、もしくは心臓病全般で何か疑問があればいつでも当院 へご相談にいらしてください。
お待ちしております。