初老の男がいた。彼はまだ独身で一人寂しく生きていた。
そんなとき、玄関のチャイムが鳴った。
客が来るなんて珍しい。
新聞の勧誘かな?と思ったが、出てみた。
すると、3人の子供がハロウィンの格好をして立っていた。
彼は、「少し待っててね」と言って、部屋に戻りお菓子を探した。
しかし、イカの塩辛とかインスタントラーメンしか出てこない。
まあ、何もないよりいいかな、と思いラーメンを3袋、子供たちに渡した。
がっかりした様子の子供たちをみて、何だか可愛そうになり300円づつあげることにした。
みるみる子供たちの表情が楽しそうになり、彼も嬉しくなった。
二人の子供は帰ったのだが、一人だけ残った。
「どうしたの?」
「あたし、帰るとこがないんだ…。おじちゃん、あたしを泊めて」
「それは出来ないよ。お父さんやお母さんが心配するよ」
「…あたしには誰も居ないの」
「…」
「あたしをおじちゃんの子供にして!」
「それは出来ないよ。おじちゃん犯罪者になっちゃうよ」
「じゃあ、今日だけ…。お願い」
仕方なく彼は、その女の子を泊めることにした。
明日は仕事を休んで、警察に連れて行かないとな。
「名前はなんて言うの?」
「…ゆき」
「そう、ゆきちゃんか!いくつかな?」
「9歳」
「そうか、今日はもう疲れただろ?おじちゃんはあっちで寝るから、ゆきちゃんはおじちゃんの布団で寝ればいいよ」
「ありがとう。じゃあ、もう寝るね」
彼は、彼女の寝てる姿を見ながら、俺も家族が欲しかったなぁと思った。
だけど、このままだと誘拐になるかもしれない。監禁なんて言われたら、俺は犯罪者だ。明日は警察に連れて行こう!
そういうことを考えながら、彼は眠りについた。
朝、彼が起きるとキッチンからトントントンと音がする。
何かとそっちを覗くと、ゆきちゃんがご飯を作っている。
「おじちゃん、起きたの?今ご飯を作っているからね」
「ありがとう。ゆきちゃん料理も出来るの?」
「あたし、親が居ないから全部自分でやるんだ」
そのとき、誰かがドアをノックした。
年配の女性と警官が立っていた。
「私は施設の職員で山形と言います。うちのゆきが居ませんか?」
「ああ、居ますよ。昨日帰りたくないと言うもんで、家に泊めたんですよ」
警官が横から、
「それは監禁ですよ。署まで来てもらいましょうか!」
そこに、ゆきちゃんが現れて
「違うの!昨日はおじちゃんに無理言って泊めてもらったの!」
警官は、
「取り合えず、御同行願いますか?」
ゆきちゃんは山形さんが連れていった。
彼は警官と一緒に警察に行った。
色々訊かれたが、夕方には初犯ということもあって、家に帰ってもいいと言うことになった。
家に帰って来ると、玄関にゆきちゃんが座り込んでいた。
「ど、どうたんだ?」
「おじちゃん、優しそうだから、あたしを養女にして?なんでもするから」
彼は、施設の山形さんに電話した。
すると、山形さんは意外な言葉を発した。
「…どうしても、ゆきちゃんが貴方の娘になりたいと言ってるの。明日、役所の方へいって相談してみるけど。取り合えず貴方いい人みたいだから、今日もゆきちゃんをよろしくね」
なんと言う施設だ!
こんな簡単に!
彼は憤りさえ覚えた。
「ゆきちゃん、お腹は空いてない?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、家に入ろうか?」
「うん」
それからは、施設からは何の音沙汰もなく、二人の共同生活が始まった。
彼は、凄く幸せだった。
夢にまでみた家族が出来たのだから。
ゆきちゃんは、明るく素直な女の子だ。
いつも、笑いが絶えない。
いつまでも、この生活が続けばいいのに!
彼は心の底から願った。
3ヶ月が過ぎようとしたときだった。
一人の男がやってきた。
「私は、こういうものです」と名刺を渡してきた。
〇〇市役所課長 永岡英輔と書かれていた。
「こちらに、渡辺ゆきちゃんが居ますね?」
「ええ、確かに居ますが…」
「貴方のことを調べさせてもらいましたが、不適応だということになり、また施設に戻さなければいけません」
「私の何がいけないんですか?」
「貴方は一人暮らしだし、経済的にも難しい!」
「そ、そんな。ちゃんとゆきも学校に行ってるし、確かに母親は居ませんが、ゆきも不平もいわずに頑張ってます」
「貴方も、もう還暦近いし、給料も少ない。もしものことがあったら、どうするんですか?」
「よ、余計なお世話だ!私は100まで生きる!」
役人はまだ何か言おうとしていたが、彼は「もう帰れ!」
そう言って追い返した。
「おじちゃん、大丈夫?」
「何が?」
「あたし、ずっと居てもいいの?」
「いいよ、ゆきちゃんがお嫁に行く迄はおじちゃんは絶対に生きるからね!」
ゆきちゃんも二十歳になった。
彼氏を連れてやってきた。
「おじちゃん、今までありがとう」
そう言って涙を流した。
「ゆきは幸せだったよ」
「そうか、そうか」
彼はまた一人になる。
もう嫌だ!
それから数ヵ月、ゆきと彼氏は結婚式を挙げた。
彼は呼ばれたが行かなかった。
玄関のチャイムが鳴った。
出てみると、ゆきとその彼氏だった。
ゆきは言った。
「お父さん、これからはあたしたちがお父さんの面倒をみるからね」
「こんな年寄りはほっといて、二人で幸せにおなり」
「それは出来ないわ。だって、今の幸せがあるのはお父さんのお陰なのよ!」
彼は涙が出てきた。
それから、彼は川に行き冷たい水の中に入っていった。
老兵は去るのみ!
それが彼の信念だった。
遺書には、ただ一言 二人とも幸せに!
そう書かれていた。
