文明開花により、日ノ本は変わりつつ有る
が、そんな中で変わらないのはやはりスランプであろう
時代変われど、考えが思い付かなければ手につかないのはいつの時代も同じである
私は物書きである、それ故にこの悩みが付き纏うのだ。
とある日、私はこのスランプの気持ちを紛らわせる為に喫茶店に足を運んだ
店内は西洋被れはしているが、何処か心が安らいだ。
蓄音機から微かに流れる洋楽も良い。
席に着き、御品書の頁を捲る
そこには料理で有ればライスカレー、オムライス、ビフテキ。
甘味で有ればあいすくりん、チョコレイト、あん蜜が並ぶ。
これらは私が食べたことある物ばかりで有った。
だが、飲料の所に私が飲んだことない物が並んでいたのだ。いや、正確に言えば名前は見た事あるの方が正しいだろう
『珈琲』と書かれたそれを、私はその時無性に頼んでみたくなった。
名前を見て頼んでみたくなったとは、随分可笑しな理由になるだろうが、スランプという沼に嵌ってしまっている私には良い刺激になるのではと思ったのだ
こう思ってはすぐに行動する他道は無い
私は直ぐに女給に注文をした。
其処から数分して、割賦に入った其れは来た。
中身は漆黒であった、だが香りはよかった
私がこれまで良いと思っていた茶より、だ
其れでも問題は味である。私は恐る恐る、割賦を持ち一口、口に流し入れた
苦い、だが後から来る何処か心が満たされる感じがした。そして今まで悩みに悩んでいたスランプと言う沼から抜け出せる感じがしたのだ
残念な事に、筆と紙は家に置いて来てしまったが、浮かんでこなかった物が次々と浮かぶのは実に気持ちの良い事だった
其れを感じ始め何分経っただろう、気づけば私が持っていた割賦の珈琲は空になっていた
それを目で確認すると何処か寂しい感じが込み上げて来る。
だが、今思い浮かんでる物を不意にするまいと私は席を立ち勘定をした
帰路に着く間にも、絶え間なく湧き出るそれを忘れぬ為に気づけば足速に帰っていた
家に着き、執筆室に入り筆を取る。そしてある決まりを立てた「また浮かばぬ時があるなら、あの珈琲を飲みに行こう」と
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