夢も一緒に膨らんだ!
          宇宙ホテル試験機

     「BEAM」
  宇宙で膨張に成功



  鳥嶋真也
  [2016/05/30]


米国のビゲロウ・エアロスペースと米国航空宇宙局(NASA)は5月29日(日本時間)、空気で膨らむ構造をもつ宇宙ホテルの試験機 「BEAM」 を実際に膨らませる作業に成功した。 これから約2年間にわたる、耐久性や安全性の試験が始まる。

膨らんだBEAM (C) NASA


BEAMが膨らむ様子 (C) NASA

ビゲロウ・エアロスペースは、宇宙ホテルの実現を目指す米国の民間企業。 地上から打ち上げるときには折りたたんでおき、宇宙で風船のように膨らませることで、従来の宇宙ステーションよりもはるかに広い居住空間を作り出す、一風変わった技術を特長としている。

BEAMは、その技術の実証を行うために開発された試験機で、今年4月8日に 「ドラゴン」 補給船で打ち上げられ、同16日に国際宇宙ステーション(ISS) へ取り付けられた。 打ち上げ時には直径2m、全長2mほどに折りたたまれていたが、今月28日の22時ごろから空気を入れる作業が始まり、約7時間後の翌29日5時10分ごろに直径3.2m、全長4mほどにまで膨らみ、その後内部の気圧がISSと合わせる作業が完了した。

現在は空気漏れがないかなどの確認が行われており、問題がなければ来週にも宇宙飛行士が内部に入るという。
BEAMは今後、約2年間にわたって、放射線や、宇宙ゴミ(スペース・デブリ) や小さな隕石(マイクロメテオロイド) の衝突、熱の変化など、過酷な宇宙環境に耐えられるか、その耐久性や安全性が確認されることになっている。

当初、膨らませる作業は今月26日に試みられたものの、想定通りには膨らまず一旦中止されており、2回目の挑戦での成功となった。



BEAMの想像図 (C) NASA


BEAMを膨らませる作業を担当したNASAのジェフ・ウィリアムズ宇宙飛行士 (C) NASA


2020年には宇宙ホテルが運用開始
ビゲロウ・エアロスペースは、ホテル王として知られるロバート・ビゲロウ氏によって設立された会社で、宇宙ホテルの建造を目指している。

同社が採用している空気で膨らむ宇宙ステーションの技術は、NASAが1990年代に開発していたものを受け継ぎ、改良を重ねたもので、同社は2006年と2007年に、「ジェネシス」 という小型の無人試験機を打ち上げ、試験を実施。 十分な耐久性を示した上に、「通常の金属製ISSモジュールよりも強い」 という成果が得られたとしている。

そしてジェネシスで得た技術を活かし、今回の「BEAM」(Bigelow Expandable Activity Module) を開発。 2013年にはNASAと契約し、ISSに設置し、耐久性や居住性の試験が行われることになった。

BEAMは直径3.2m、全長4mで、居住区の体積は16mほど。 あくまで試験機であるため、内部にホテルのような内装は施されていない。 電源や生命維持装置ももっておらず、他のモジュールから供給される。 また、ISSとBEAMをつなぐハッチは基本的に閉じたままの状態にするとされ、宇宙飛行士がいつも入り浸れるわけではないという。

試験期間は約2年が予定されており、試験終了後はISSから分離され、大気圏に落として処分される予定となっている。 この試みが成功すれば、ビゲロウ・エアロスペースにとって宇宙ホテルを実現するために大きな実績を得ることになる。

同社はすでに2016年4月11日、実際に宇宙旅行者が滞在できる大型の宇宙ステーション 「B330」 を、2020年に打ち上げる計画を発表している。 B330は全長約17m、体積は330mで、最大6人が滞在することができる。

また、より大型の宇宙ホテルの開発も進めている他、この空気で膨らむ宇宙ステーションの技術は、月や惑星へ向けた長期の宇宙飛行用の居住モジュールや、月・惑星上の基地にも応用できるとしている。


ビゲロウ・エアロスペースが2020年に打ち上げを予定している世界初の宇宙ホテル「B330」 (C) Bigelow Aerospace

現在開発中の、より大型の宇宙ホテル「B2100」の実物大模型 (C) Bigelow Aerospace



【参考】

・BEAM Fully Expanded and Pressurized | Space Station
 https://blogs.nasa.gov/spacestation/2016/05/28/beam-fully-expanded-and-pressurized/
・BEAM Expanded To Full Size | Space Station
 https://blogs.nasa.gov/spacestation/2016/05/28/beam-expanded-to-full-size/
・BEAM Operations Resuming | Space Station
 https://blogs.nasa.gov/spacestation/2016/05/28/beam-operations-resuming/
・Bigelow Aerospace
 http://bigelowaerospace.com/beam/
・NASA calls off inflation of experimental station habitat - Spaceflight Now
 http://spaceflightnow.com/2016/05/26/nasa-calls-off-inflation-of-experimental-station-habitat/
※本記事は掲載時点の情報であり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。





宇宙ホテル、2020年に打ち上げへ
        - 米宇宙企業が発表 -



  鳥嶋真也
  [2016/04/12]


米国の宇宙企業ビゲロウ・エアロスペースと、ロケット運用会社ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA) は2016年4月11日(現地時間)、宇宙旅行者が滞在できる宇宙ステーション 「B330」 を、2020年に打ち上げると発表した。 実現すれば、世界初となる商業的な宇宙ステーション、いわゆる宇宙ホテルが誕生することになる。

ビゲロウ・エアロスペースは、ホテル王として知られるロバート・ビゲロウ氏によって設立された会社で、宇宙ホテルの建造を目指している。 同社の宇宙ステーションは風船のように膨らむ構造が特長で、これにより畳んでコンパクトにした状態でロケットで打ち上げられるほか、ロケットが搭載できる体積よりも大きな、広い内部空間をもつ宇宙ステーションを造ることができるという利点がある。


image:宇宙ホテル、2020年に打ち上げへ - 米宇宙企業が発表 記者会見するロバート・ビゲロウ氏 (C) Bigelow Aerospace

ULAのトーリィ・ブルーノ社長兼CEOは 「この革新的な取り組みは、材料や医療、生物学などの分野で、宇宙実験の機会を大きく増やすことができます。 それは国家の宇宙機関だけでなく、民間や個人でさえ可能になります。 宇宙は誰でも手が届く場所になるでしょう」 と語った。

B330は全長約17mで、最大6人が滞在することができる。 体積は330mで、これは現在国際宇宙ステーション(ISS) にある米国の 「デスティニー」 モジュールより2倍以上も広い。 ブルーノ社長は、「私が最初に住んだアパートよりも広い」 と冗談を飛ばした。 設計寿命は20年が予定されている。

1人の滞在期間は1カ月から45日ほどと想定されている。 打ち上げと帰還を含めた滞在費など、顧客が支払う費用については言及されなかった。



image:宇宙ホテル、2020年に打ち上げへ - 米宇宙企業が発表 B330の想像図(2機結合した場合のもの) (C) Bigelow Aerospace


B330は単独でも飛行できるほか、ISSに結合することも可能だという。 ビゲロウ氏によると、ISSへの結合に関しては、現在、米国航空宇宙局 (NASA) と可能性の調査を続けている最中にあり、最終的に単独飛行になるのか、それともISSに結合することになるのかはまだ決まっていないとしている。 なお、ISSに結合する場合は 「XBASE」 (Expandable Bigelow Advanced Station Enhancement) という名前になるとされ、実現すればISSの総体積は30%も増えることになるという。

ISSに結合する場合はもちろん、単独の場合でも、同ステーションに訪れる手段としては、ボーイングが開発中の宇宙船 「スターライナー」、スペースXの 「ドラゴン2」、シエラ・ネヴァダの 「ドリーム・チェイサー」、またブルー・オリジンが計画している宇宙船が考えられるとしている。

B330の打ち上げには、ULAが運用している米国の基幹ロケット 「アトラスV」 を使用する。 この打ち上げのため、固体ロケットブースターを5基、第2段エンジンを2基装備する最強の 「552」 という構成を使い、さらに大気からB330を守るフェアリングは、全長を伸ばした特注品を使うという。


image:宇宙ホテル、2020年に打ち上げへ - 米宇宙企業が発表 B330の内部の想像図 (C) Bigelow Aerospace



image:宇宙ホテル、2020年に打ち上げへ - 米宇宙企業が発表 B330を打ち上げるアトラスVロケット (C) ULA



国際宇宙ステーションでは試験機がまもなく結合
ビゲロウ・エアロスペースはこれと並行し、風船のように膨らむモジュールの試験機 「BEAM」 を開発し、先日 「ドラゴン」 補給船に搭載し、ISSへ打ち上げている。 ドラゴンはすでにISSへ到着しており、今月15日ごろにもBEAMが取り出され、ISSに結合。 来月下旬には実際に空気を入れて、膨らます作業が行われることになっている。

BEAMは直径3.2m、全長4mで、居住区の体積は16mほど。 あくまで試験機であるため、内部に特別な内装などはなく、また電源や生命維持装置はISS側から供給される。 ハッチも基本的に閉じたままの状態となり、宇宙飛行士が出入りできるのは限られたときだけだという。

BEAMによって、膨らむ仕組みや壁面の素材の耐久性などが証明され、また内部に宇宙飛行士が入り、その快適性も示すことができれば、ビゲロウ・エアロスペースにとってはB330の実現に向けた大きな一歩となる。

同社はまた、より大型の宇宙ホテルの開発も進めており、さらに同じ技術を使った月や惑星へ向けた航行時の居住モジュールや、月・惑星上の基地にも応用できるとし、開発を行っている。



image:宇宙ホテル、2020年に打ち上げへ - 米宇宙企業が発表 BEAMの想像図 (C) Bigelow Aerospace


image:宇宙ホテル、2020年に打ち上げへ - 米宇宙企業が発表 開発中のより大型の宇宙ホテル「B2100」の実物大模型 (C) Bigelow Aerospace

※風船のような宇宙ステーションの仕組みや、ビゲロウ・エアロスペースの歩みなどについては、「「宇宙ホテル」は実現するか - 空気で膨らむ宇宙ステーションの試験始まる」 をご覧ください。


【参考】

・Bigelow Aerospace and United Launch Alliance Join Forces to Foster a New Era of Sustainable Commerci - United Launch Alliance
 http://www.ulalaunch.com/bigelow-aerospace-and-ula-join-forces.aspx?title=Bigelow+Aerospace+and+United+Launch+Alliance+Join+Forces+to+Foster+a+New+Era+of+Sustainable+Commercialization+in+Low+Earth+Orbit
・Bigelow Aerospace Partners with United Launch Alliance, April 11, 2016 - YouTube
 https://www.youtube.com/watch?v=HHcmnq8-wJo
・Atlas 5 to launch commercial space habitat for Bigelow Aerospace - Spaceflight Now
 http://spaceflightnow.com/2016/04/11/atlas-5-to-launch-commercial-space-habitat-for-bigelow-aerospace/
・Bigelow Aerospace
 http://bigelowaerospace.com/b330/
・Bigelow Aerospace | About
 http://bigelowaerospace.com/about/

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