年金の基本を知ると
    「損得」 まで見えてくる!
  意外と知らない 「5つの超常識」



  2016-08-07




武澤 健太郎



© 東洋経済オンライン 年金は、知らないと損をすることがたくさんある(撮影:今井康一)


 大学卒業後、飲食業界に就職し、現在は営業部長として、バリバリ仕事をこなすAさん(40代)。 先日、大学時代の友人で10年前に起業しているBさん(40代) と久しぶりに飲んだときの事です。


年金見込み試算額をみてみると…

 Bさんがたまたま年金のセミナーを受けてきたらしく、 「これが老後の現実らしいぞ」 と言って、スマホで見られる ねんきんネット のページで自分の年金見込み試算額を見せてきたのでした。

 正直、自分の年金なんて、ちゃんと見たことがないAさんでしたが、Bさんの年金額を見てから自分の年金が気になってしまい、帰宅後さっそく自分も 『ねんきんネット』 の手続きをして、数日後に年金見込み試算額をみてみると……。

 『あれ、なんでBさんと同じくらいもらえちゃうの!?』

 実は友人Bさんは同期の中でも出世頭。 現在は、従業員200名ほどいる不動産会社の社長で、毎月300万近くの報酬をもらっていることをAさんは知っていたのでした。 月給65万円の自分は、Bさんの年金より遥かに少ないだろうと不安だったのに、なぜかそこまで差がないことに驚くばかりでした。

 日本に住む20歳以上のすべての人が加入する年金。 みんな当たり前に国民年金や厚生年金に加入し、保険料を払って、将来は年金生活になるけれど、正直年金のことはよくわからないという方は多いのではないでしょうか。


 そこで、今回は、重要だけど意外と知らない年金の決まりについて、ポイントを5つに絞って解説していきます。

1.年金は、「ひょうげつ」 62万円で頭打ち
 会社員が加入する厚生年金。 老後にもらえる年金を老齢厚生年金といいます。 老齢厚生年金は原則65歳以降、加入していた時の報酬に比例した金額がもらえます。

 老齢厚生年金の計算式は細かい話になるので今回は割愛しますが、仕組みとしては、加入していた時の平均の標準報酬月額(ひょうげつ)、賞与、加入していた長さ(期間) によって、将来の老齢厚生年金の金額が決まります。 そして、この 「ひょうげつ」 が、実は厚生年金では62万円を上限としているのです。

 そのため、冒頭の事例で、Aさんが月給65万円で、Bさんは300万円と月給で比較すれば5倍近く差があるのですが、年金のベースとなる 「ひょうげつ」 は、2人とも 「62万円」 となるため差はつきません。 給与から控除される保険料も同じなので、将来の年金額にもそこまで差がなかったというわけです。

 新卒から今まで加入してきた 「ひょうげつ」 と賞与 (1カ月の上限は150万円) の差は当然ありますが、みなさんが思うほど社長の年金は高くないかもしれません。


 なお、先ほどから何度も登場している 「ひょうげつ」 は、社会保険の事務処理を簡略するために考えられた仕組みで、給与をおよそ1万円から6万円の幅で区分した等級のことです。

年金に限らず、社会保険のあらゆる場面で使われる重要なキーワードとなるので、頭の片隅に入れておくと損はないです。
(なお、詳しくは過去記事 『給与が減ったと思ったら 「この表」 を見よ!』 をご覧ください。)


厚生年金と国民年金

2.会社員も国民年金に加入している!
 突然ですが、会社員は国民年金にも加入していることを知っていますか。

 実は、会社員は厚生年金だけでなく、国民年金にも加入しています。 意外に知らない方も多いのですが、イメージとしては、1階に国民年金、2階に厚生年金の2階建ての年金制度となっています。

 給与明細を見ても、厚生年金保険料だけが控除されているので、勘違いしがちですが、会社員は厚生年金被保険者なのですが、国民年金第2号被保険者でもあるのです。 つまり、年金を厚生年金と国民年金の両方からもらえるということになります。 結果的に同じ収入であっても、国民年金加入の自営業の方より、会社員のほうがもらえる年金額が多くなるともいえます。

 ここで知っておくと得する豆知識をご紹介します。 国民年金保険料は、毎月定額で月額1万6260円(平成28年度) ですが、厚生年金保険料は例の 「ひょうげつ」 に応じた保険料であり、それを個人と会社で折半負担しています。 そのため、標準報酬月額の金額によっては、国民年金より保険料が安くなる場合があります。

 例えば、「ひょうげつ」 が18万円であれば、月額1万6045円(平成28年8月まで) なので、「ひょうげつ」 が18万円以下の場合は、国民年金保険料より安い厚生年金保険料で、将来厚生年金分が上乗せされてもらえることになります。

 平成28(2016)年10月からパート等に社会保険が適用拡大されることになっていますが、現在、国民年金保険料をご自身で負担されている方の中には、会社の社会保険に加入した方がお得になる方もいるわけですね。


3.奥さんを扶養家族に入れても、
       社会保険料は変わらない?

 社会保険料は、原則4~6月の給与を等級に当てはめた 「ひょうげつ」 によって計算され、毎月同じ額の保険料が控除されています。

 そんな中、結婚して奥さんを扶養(国民年金第3号、健康保険の扶養) に入れるケースや、子どもが就職して扶養から削除するといったことがありますよね。 そうした家族の状況の変化に伴って、控除される金額は変わるでしょうか。

 答えはNOです。 扶養の変動に伴って、毎月給与から控除される社会保険料が変わることはありません。

 ここで疑問が生まれます。 配偶者が保険料を負担していないとなると、一体誰が負担しているのでしょうか……。 どこからも控除はないのに妻の年金などはしっかり発生します。

 実は、これらについては、厚生年金に加入している日本全国の 「会社員全員」 で負担しているのです。 徴収した厚生年金保険料分の全体から、国民年金に必要な分を拠出しているイメージです。


1日の差が将来の年金に影響する場合も

4.「退職日」 が年金の加入実績にも影響する?
 社会保険の加入資格は、月単位で考えます。日ごとにはみていません。 そのため、例えば、入社の場合は6月1日入社でも、6月30日入社の場合でも社保の加入実績としては同じ1カ月としてカウントされ、社会保険料も日割りされずに1カ月分がかかります。

 問題は退職ですが、退職の場合は月末退職のケースに限って、退職月が1カ月としてカウントされます。 つまり、月末退職でなければ退職月は1カ月としてカウントされず、社会保険料も掛からず将来の年金にも反映されないことになります。

 そのため、例えば退職日が7月30日と7月31日の場合は1日しか差がないですが、30日で退職した場合は月末退職でないので、厚生年金の加入実績として1カ月としてカウントされず、社会保険料も掛からず将来の年金にも反映されないわけです。 退職日を決める際はこの点を頭に入れておくとよいでしょう。

 ちなみに、月末前に退職する場合は、社会保険料も掛かりませんが、その月に再就職しなかった場合は退職日の翌日を加入日として、国民年金第1号、国民健康保険の保険料が日割りされずに、それぞれ1カ月分を支払う必要があるので、その点ご注意ください。


5.国民年金の未納期間、年金はどれだけ減る?
 本来、年金は1日の空白もなく加入しなければならないのですが、事情があったり忘れていたりして、保険料を払っていない時期があるというケースは結構ありますよね。 学生のときに免除申請を忘れていてそのまま、ということも少なくないのではないでしょうか。

 会社を退職して再就職するまで国民年金を払わずに未納となってしまっているケースもよくあります。


覚えておくと便利な計算式

 当然、未納期間があれば、将来の年金はその分減らされるわけですが、国民年金の場合は、どのくらい減額されるか気になりますよね。 それは、以下の老齢基礎年金の計算式で計算することができます。


老齢基礎年金額=78万100円×保険料納付月数÷480月 (免除、半額納付等がないケース)


 例えば、なかなか就職できず1年間未納だったケースは、
78万100円×468月(480-12)÷480月≒76万597円 になるので、満額で受給する場合より年額で約2万円、月額で約1600円少なくなることになります。

 この計算式は、簡単なので覚えておくと便利だと思います。
 ちなみに、会社を退職して所得が少なく、「国民年金保険料を払えない」 といったときは、保険料免除や納付猶予が活用できる場合があります。 未納と免除では、将来の年金の反映のされ方はもちろん、万が一障害などを負ったときなどでも大きな差があります。 万が一、保険料を払えない場合は、免除などを活用できるので覚えておくといいです。

 なお、国民年金が未納だった期間については、2年前までさかのぼって支払うことができるので、ご自身の将来の年金を少しでも増やしたい方はできる限り納付して頂くことをお勧めします。
(平成30年9月までは、5年前までさかのぼって支払うことが可能)
 年金は、知らないと損をすることがたくさんあります。 まずは、誕生月に届く年金定期便や 『ねんきんネット』 を活用し、ご自身の年金記録をじっくり確認してみてはいかがでしょうか。