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 「太陽」が3個ある惑星
 =340光年先で発見-欧米チーム



惑星の軌道(画像赤線)と恒星3個の軌道(青線)。惑星から見ると「太陽」が3個あるように見える(欧州南天天文台=ESO提供) 惑星の軌道(画像赤線)と恒星3個の軌道(青線)。
惑星から見ると「太陽」が3個あるように見える
(欧州南天天文台=ESO提供)




 地球からケンタウルス座方向に約340光年離れた所で、「太陽」 が3個ある惑星を発見したと、米アリゾナ大などの欧米チームが7日付の米科学誌サイエンスに発表した。 南米チリにある欧州南天天文台のVLT望遠鏡を使い、赤外線で惑星を直接捉えた。

 この惑星は質量が木星の約4倍で、表面温度は約580度。 形成されてから約1,600万年と推定され、非常に若い。 惑星から見て太陽に当たる恒星は大、中、小の3個ある。 3個が一緒に昇って沈むため昼夜が変わる時期と、順番に昇ってほぼ昼間が続く時期があるという。

 この不思議な仕組みは円軌道の組み合わせで起きる。 中心は大きな恒星で、惑星は周囲を約550年かけて公転している。 一方、大恒星は中小の恒星ペアと重力で結び付き、お互いに回り合う関係にある。


  (2016/07/08-06:56)


   時事通信




宇宙&科学



  【解説】 発見!
  3つの太陽をもつ奇妙な新惑星


     影は3重になり、空からは鉄の雨


  2016.07.08


3つの太陽を持つ惑星HD 131399Abの想像図。
(ILLUSTRATION BY ESO/L. CALÇADA) [画像のクリックで拡大表示]




 太陽系の外に、変な惑星が見つかった。
 その星では、1つの季節が約140年も続き、影はときどき3重になり、空から鉄の雨が降ってきて、日の出と日の入りが見事なまでにばらついているかもしれない。空に見える太陽の数は、1つのときも、2つのときも、3つのときもある。
 これが、ケンタウルス座の方向に地球から340光年離れたところにある惑星HD 131399Abだ。
(参考記事:「地球に「最も似ている」太陽系外惑星を発見」



大きな恒星と2つの連星が描く複雑な軌道

 7月7日に科学誌『サイエンス』 に発表された論文によると、この惑星HD 131399Abは大きさが木星の4倍もあり、直接画像を撮影することができた数少ない太陽系外惑星の1つ。 そしてこの星から見上げる空では、3つの 「太陽」(大きい方から順に131399A、B、C) が複雑怪奇な動きをしているという。

 原因は、3つの恒星と惑星の軌道にある。 惑星は、青白く巨大な恒星Aのまわりを550年の周期で軌道運動している。 小さい恒星BとCはお互いのまわりを公転する連星で、さらにそれがAのまわりを公転している。 この入り組んだ軌道のおかげで、惑星から見る3つの恒星の動きはとても複雑になるという。

 これまでも連星や三連星のうち1つの恒星のまわりを公転する惑星は数多く見つかっているし、連星系の外側を回る 「周連星惑星」 の存在も知られている。 けれども今回の惑星HD 131399Abが特別なのは、天文学者が超大型望遠鏡VLTの観測装置SPHEREを使って直接観測できる点と、この星がそう長くは生きられないかもしれない点だ。
 (参考記事:「系外惑星への新たな眼、SPHERE」

 太陽系外惑星を探していてこの惑星を発見した米アリゾナ大学の大学院生ケビン・ワグナー氏は、「この惑星系は、安定しているとは断定できません。 近い将来、惑星がはじき出されてしまう可能性も否定できません」 と言う。


絶妙なバランスで成立

 実は、宇宙ではわれわれの太陽のような単独星の方が珍しい。 太陽の近傍にある恒星のほとんどが、一緒に生まれ育った別の恒星とペアになっている。 そのため天文学者は、多くの惑星は連星のまわりを周回していると予想している。 「太陽の近傍にある恒星の約50~60%が連星系を作っています。 現在の統計にもとづいて考えると、そのうちの10%が惑星をもっていると考えられます」 と、研究者の一人、米ハワイ大学のナーダー・ハギギプールは言う。

 しかし、このような系を形成するには、惑星の軌道と材料の分布の間に絶妙なバランスが取れている必要がある。 そのバランスが崩れると、多重星系の中で生まれようとする惑星は、お互いのまわりを公転する連星に引き込まれて消滅したり、外にはじき出されて果てしない銀河の暗闇の中を永遠にさまようことになったりと、悲惨な運命をたどることになる。

 惑星が多重星系の中で生き残るためには、一定の要件を満たす必要がある。惑星HD131399Abは、少なくとも1,600万年は生き残っているため、こうした条件をかろうじて満たしていることになる。

 惑星は現在、恒星Aから平均122億km(太陽から冥王星までの距離の約2倍) のところを公転している。 これは厄介な距離である。 同じく恒星Aのまわりを公転している連星BCに近すぎるのだ。

「惑星は、恒星Aと連星BCの間の不安定領域にあります」 とハギギプール氏。 「説明は非常に困難です」
 (参考記事:「かつて太陽は連星だった!?」

 そのため科学者たちは、惑星は恒星Aにもっと近いところで、連星BCの影響を受けずに形成され、何らかの原因により恒星Aから遠ざかって今の場所に落ち着いたのではないかと考えている。

 現時点では惑星の軌道は正確には決定されていないため、さらに外に向かって旅を続け、銀河系の中をさまよう数十億個の自由浮遊惑星の1つとして終わる可能性もある。

「惑星が非常に長く延びた軌道を回っている場合は、今後数千年から1万年で外に放り出されてしまうと考えられます。 惑星にはかわいそうですが、これは非常に面白い可能性です。 どの恒星とも関連のない空間に、惑星ほどの質量の天体が自由に浮遊している例が多数知られているからです」 とワグナー氏。


鉄の雨も

 天文学者たちの観察によって、惑星HD 131399Ab自体の姿も明らかになりはじめている。 重力の影響や影によってしかその存在を知ることができない大多数の太陽系外惑星とは違い、この惑星は直接観測できるため、その大気についても詳細に知ることができる。
 (参考記事:「ピンク色の系外惑星、すばるが直接観測」

 ワグナー氏によると、HD 131399Abは、木星や土星のように、その大気は主として水素とヘリウムからなり、微量の水とメタンもあるという。 しかし、木星がはっきりした模様の雲に包まれているのとは違い、この惑星にはほとんど雲がない。

「よく晴れているか、せいぜい部分的に雲があるだけのようです」 とワグナー氏は言う。 「大気の下層ではケイ酸塩の岩石粒子の雲が形成され、さらに下層では温度がもっと高くなり、高温の大気から鉄のしずくが凝結してきて、鉄の雨が降っているかもしれません」
 (参考記事:「太陽系に第9惑星の証拠見つかる」


  文=Nadia Drake/訳=三枝小夜子