宇宙&科学

 太陽系に第9惑星
    の証拠見つかる


 外縁天体の奇妙な動きから米科学者が研究

  ナショナル ジオグラフィック日本版  2016.01.21



太陽系外縁部に大きな第9惑星が潜んでいる可能性が出てきた。この惑星が実在するなら、太陽から非常に遠い軌道をまわる、天王星や海王星よりやや小さいガス惑星であるはずだ。
(COURTESY OF CALIFORNIA INSTITUTE OF TECHNOLOGY)




 太陽系外縁部の極寒の暗がりに、地球より大きい未知の惑星が潜んでいる可能性が出てきた。
学術誌 『アストロノミカル・ジャーナル』 2016年1月20日号に発表された研究によると、カイパーベルト(海王星軌道の外側にある天体密集領域) にあるいくつかの天体の奇妙な軌道を調べると、未知の大きな惑星の重力が作用している形跡が見てとれるという。
(参考記事:「カイパーベルトで新たな準惑星を発見か」 「カイパーベルトの密度の変遷」

 つまり、これらの奇妙な軌道が、未知の大きな第9惑星が太陽系外縁部に潜んでいる証拠である可能性が出てきた。
「太陽系にもう1つ惑星があるなら、これだと思います」 と、米カリフォルニア大学サンタクルーズ校のグレッグ・ラフリン氏は言う。

 研究チームの計算によると、第9惑星が存在するなら質量は地球の約10倍、半径は3倍程度。
「スーパー・アース」 か海王星より小さい 「ミニ・ネプチューン」 というタイプの惑星になる。銀河系にはこのタイプの惑星がたくさんあるが、なぜか太陽系の近くでは非常に少ない。

 シミュレーションによれば、第9惑星はおそろしく遠いところにある。
太陽に最も近づくときでも地球・太陽間のざっと200~300倍の距離があり、最も遠ざかるときには600~1200倍もの彼方にあるという。
 論文著者の1人であるカリフォルニア工科大学のコンスタンティン・バティジン氏は、 「この天体は極寒の長周期軌道を回っていて、太陽のまわりを1周するのに1万~2万年はかかるでしょう」 と言う。
(参考記事:「太陽系から最も近い太陽系外惑星が消えた!」


第9惑星の予言

 バティジン氏とカリフォルニア工科大学の同僚マイク・ブラウン氏は、新しい惑星を探そうとして研究を始めたわけではなかった。
きっかけは、2014年に別の研究チームが、冥王星より遠いところに2012VP113という大きな天体を発見したことだった。非公式に 「バイデン」 と呼ばれるこの天体は、同じく冥王星より遠いところで見つかった 「セドナ」 という天体によく似た奇妙な公転軌道を持っている。

 セドナやバイデンをはじめとする太陽系外縁天体のいくつかは、太陽に対してやや傾いた軌道を回っているため、科学者たちは、遠方の天体の重力の影響を受けて、このような奇妙な軌道になったのだろうと考えていた。

 今回、ブラウン氏とバティジン氏は、こうした天体6個の軌道を詳しく分析し、単なる偶然とは考えられない集まり方をしているという結論に達した(バティジン氏によると「偶然そうなる確率は、わずか0.007パーセント」とのこと)。
そこで彼らは、太陽系外縁部のシミュレーションをして、このような軌道パターンができた過程を解明しようとした。



地球の10倍の質量を持つ第9惑星(黄色の軌道。科学者たちは非公式に「ジョージ」「ヨシャファト」「猿の惑星」と呼んでいる)があれば、奇妙な軌道を持つ6個の太陽系外縁天体の軌道(紫)を説明できる。(COURTESY OF CALIFORNIA INSTITUTE OF TECHNOLOGY)



 カイパーベルト自体の重力が原因である可能性はすぐに否定できた。探すべきものは、単独の天体ということだ。

 そこで彼らはシミュレーションに第9の大きな惑星を追加して、その軌道と質量を調節していった。その結果、地球の10倍の質量を持つ惑星が卵形の軌道を運動していると考えると、セドナとバイデンをはじめとする奇妙な軌道を持つカイパーベルト天体の軌道を簡単に説明できることが明らかになった。

 このシミュレーションにより太陽系の軌道面に直交する軌道を運動する風変わりな天体群も説明できることが分かったところで、 「自分たちの計算結果を真剣に受け止めるようになりました」 とバティジン氏は言う。



第9惑星(黄色の軌道)が存在していれば、奇妙な軌道を持つカイパーベルト天体の軌道(紫)だけでなく、太陽系の軌道面に直交する軌道を持つ5個の謎の天体の軌道(青)も説明できるという。(COURTESY OF CALIFORNIA INSTITUTE OF TECHNOLOGY)


 バティジン氏とブラウン氏は、この惑星は太陽にもっと近いところで形成され、太陽系ができたばかりの頃に外縁部にはじき出されたのではないかと推測している。
太陽は星団の中で誕生し、時間の経過とともに星団がばらばらになって孤独な星になったと考えられているが、この惑星がはじき出された当時はまだ周囲に恒星があったため、その重力の影響で太陽の重力がかろうじて及ぶ範囲にとどまることになったのではないかという。
(参考記事:「巨大惑星、惑星系からはじき飛ばされた」


第9惑星を探して

 第9惑星が存在するなら、非常に遠くて暗いため、これまで発見されていなかったとしても不思議ではない。ラフリン氏は、 「第9惑星は途方もなく暗いはずです」
と言う。彼の計算によると、この惑星に比べれば冥王星は1万倍も明るいという。

 比較的大きい惑星であっても、これだけ遠くなると現在の技術で観測できるような熱特性は持たず、太陽光もほとんど反射しないだろう。見渡すかぎりの星の海から、移動する小さな光の点を見つけ出すためには非常に強力な望遠鏡が必要で、探すべき場所まで分かっている必要がある。
 バイデンを発見したハワイのジェミニ天文台のチャド・トルヒージョ氏は、 「正確な位置は分かりません。分かっていたら、明日にでも望遠鏡を向けて見つけていますよ」 と言う。

 とはいえ科学者にとって、難しいことは挑戦しない理由にはならない。ハワイのすばる望遠鏡などが第9惑星探しに挑む予定で、バティジン氏とブラウン氏はすでに探索に着手している。
トルヒージョ氏らも、来月から、研究チームが予想した軌道に沿って惑星を探すつもりだという。
(参考記事:日本のエクスプローラー大内正己「すばる望遠鏡との出合い」


「惑星X」との違い

 太陽系外縁部に大きな惑星があると科学者が予想したのは、これが初めてではない。このような主張は100年以上前から繰り返され、そのたびに否定されてきた。
 なかでも有名なのは、パーシバル・ローウェルが1916年に、天王星と海王星の実際の軌道が計算に合わないのは、海王星の軌道の彼方に惑星Xが存在するからだと主張したことだ。
ローウェルの確信は強く、10年にわたって惑星Xの探索が行われた結果、ついに1930年に冥王星が発見された。
(参考記事:「冥王星“接近通過”をめぐる10の疑問に答える」

 けれども冥王星は小さすぎて、ローウェルの言う 「天王星と海王星の軌道の異常」 を説明することはできなかった。さらにその後、この 「異常」 は、未知の惑星の影響ではなく、観測ミスによるものであることが明らかになった。
それから86年の間に、新しい惑星について多くの予想が発表されては否定されてきた。けれども今回の予想は違うかもしれない。

 コートダジュール天文台のアレッサンドロ・モルビデリ氏は、 「バティジン氏とブラウン氏の論文は、この惑星の存在について初めて説得力のある説明をしたもので、その軌道もかなりよく絞り込まれています。議論は非常にしっかりしています」
と言う。


  文=Nadia Drake/訳=三枝小夜子


「太陽系第9惑星」

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