パワードスーツの未来、身軽さがカギ
 「筋力強化」 で飛行の夢も叶う?


 産経新聞  12月13日(日)12時50分配信


 パワードスーツ(ロボットスーツ) と言えば、筑波大学発ベンチャーで昨年には東証マザーズへの株式上場も果たしたサイバーダイン(茨城県つくば市) が有名だが、三菱重工業と日本原子力発電が原子力災害の現場での活動を目指したスーツを開発したほか、クボタがブドウ農家など向けのアシストスーツをすでに販売開始するなど裾野が広がっている。

 機械で身体を強化するアイデアは、アメリカのSF作家ロバート・A・ハインラインが描いた 「宇宙の戦士」(1959年) からあり、アメリカには一般人がパワードスーツを着用して悪と戦うコミックヒーロー「アイアンマン」もいる。

 パワードスーツは宇宙や海洋開発、軍事など幅広い可能性を持っている。今後のパワードスーツの動向を、最新の特許情報などから探ってみた。


■米軍や自衛隊などが導入
 米陸軍の特殊作戦コマンド(SOCOM)は2013年、「TALOS(Tactical Assault Light Operator Suit=戦術的襲撃用軽装操縦者スーツ)」 を企業や大学などと共同で開発中だと公表した。
サイバーダインの 「HAL」 シリーズのような強化外骨格型のスタイルをしていて、この増強した骨格で防弾や熱から身を守る 「鎧」 や攻撃のための重装備を支える構想だ。

米陸軍が開発している「TALOS(戦術的襲撃用軽装操縦者スーツ)」(米陸軍提供)
米陸軍が開発している
「TALOS(戦術的襲撃用軽装操縦者スーツ)」(米陸軍提供)


米陸軍が開発中のパワードスーツ「TALOS」(米陸軍提供)
米陸軍が開発中のパワードスーツ「TALOS」(米陸軍提供)

 日本の防衛省も今年度から 「高機動パワードスーツ」(初年度予算7億円) の研究・開発に着手した。重装備での迅速な行動や不整地での安定した行動を目的としたパワードスーツを平成30年度には開発する計画だ。


■小型・軽量化
 パワードスーツにおいては、いかに身軽に行動できるようにするかが課題だ。サイバーダインの 「HAL福祉用(下肢タイプ)」 を例にとると、両脚タイプで重さは約12キロあるが、カカトに 「乗る」 構造を取り入れることで荷重を地面に逃している。最新の特許書類でも、こうした重さをどのように逃すかということに智恵を絞った形跡がみられる。

 機器の荷重を支える構造として、日本のロボット研究の第一人者として知られる東京工業大学の広瀬茂男名誉教授らは 「自重補償装置、および、それを備えるロボットスーツ」(平成26年1月23日公開) という特許を出願している。人の両足外側に2つの車輪を随行させ、機器の荷重を受け持たせる構造だ。階段の登り降りや、ひざまずいたりしても問題ないように動かせるとしている。

 スーツそのものも、軽量化もすればするほど扱いやすくなる。今年11月下旬、広島大学とダイヤ工業(岡山市) は、カカト下に設置されたポンプに体重をかけることでチューブを通じて空気を送り、筋力を強化するロボットを開発したと発表した。大腿筋を強化して障害者の歩行を支援するという用途だけでなく、速く走ったり、ジャンプしたり、物を遠くに投げるなど、“超人的” に使えるそうだ。

 「空気圧人工筋肉」 とも言われるジャンルのものだが、空気圧は日本のロボット産業の中でも主力で使われていて、絵空事でもない。駆動伝達機構などをゴムチューブで構築でき、軽量化に向いている。

 このほか、動力の不要なバネを利用するものや、エネルギーを回生して長持ちさせるなどの軽量化技術が検討されている。


■意をくむ「センサー」
 身軽に動くには機械の軽やかさとともに、意思をどう伝えるかの部分が重要だ。サイバーダインのHALでは、脳から筋肉に送られる神経信号を皮膚表面に現れる筋電位で検知するしくみで、まさに “人馬一体” を実現している。
一方、三菱重工業と日本原子力発電の 「パワーアシストスーツ」 は、押したという力を感じてそれを増幅するシステムをあえて採用した。

12月上旬に東京ビッグサイトで開かれた国際ロボット展で、商談の機会を探っていた同社の担当者は 「筋電位をパッドで測る方式だと汗をかくとはがれてしまう。少し反応は遅くなるが高温など過酷な状況での使用には『力センサー』方式のほうが有利だ」 と説明した。

三菱重工業と日本原子力発電が共同研究開発したパワードスーツ=12月3日、東京ビッグサイト(原田成樹撮影)
三菱重工業と日本原子力発電が共同研究開発した
パワードスーツ=12月3日、東京ビッグサイト(原田成樹撮影)

 さらには脳で考えただけで動けば、例えば脊髄を損傷した人でも使用が可能になる。BMI(ブレーン・マシン・インターフェース) と呼ばれ、脳波を頭の電位や磁気で探る方法も検討されている。


■飛行の夢は…
 1984年、ロサンゼルス五輪の開会式で、ジェット噴射機を背負ったロケットマンが飛んだ。あれから30年以上たつが、実用化の声は聞かない。ジェット噴射では、大量の燃料があっという間に消費され、実用的とはいえないのだろう。

 だが、手軽に空を飛べたらという夢は、誰もが抱いたことがあるはずだ。ヒトと同じほ乳類のコウモリでも飛べるのだから、軽い骨組みでできた翼と、パワードスーツを応用した 「筋肉」 さえあれば、羽ばたきによる飛行が可能ではないか。

 これについては、大阪の発明家、六車義方氏らが特許を出願している。六車氏の 「身体装着型羽ばたき飛行具及び飛行支援装置特許」(平成26年12月8日公開) では、圧風噴射機を装着した翼を両手で羽ばたく構造。こうした重い装置をつけていても、背中にある駆動用モーターで上下に強力に羽ばたけるという。30年来の夢の実現が待ち遠しい。


  (原田成樹)



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