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2015年5月現在、テレビニュース・報道にて、和歌山県太地町で行われている『追い込みイルカ漁』が残酷であるという『世界動物園水族館協会(WAZA)』より指摘を受け、国内約150の動物園と水族館で構成する公益社団法人「日本動物園水族館協会」(JAZA、東京都)が、「世界動物園水族館協会」(WAZA、スイス)から会員資格を停止するという通告で問題となっている事柄にも関わる内容ともなっているので一読されることをおススメします。
(上記内容の一部はYOMIURI ONLINEより)
なお、関連記事が下記にありますのでコチラも一読されると分かりやすいと思います。





  「あなたはなぜ
    「嫌悪感」をいだくのか」
        レイチェル・ハーツ 著



    2014/3/25
更新 2015/3/1 心理学



お話は納豆からはじまる。
日本ではこの大豆を発酵した食品は非常に好まれるが、日本人でなければ、ねばねばした糸を引き、独特の臭いが漂う納豆はとても食べ物とは思えない 「嫌悪感」 すら覚える何かだ。
一方、同じ発酵食品、イタリア・サルディーニャ島で好まれる羊のチーズ、カース・マルツゥは独特の臭いとともに生きた蛆虫の幼虫が入っていて、食べる時には蛆虫が入ってこないように目を守る必要がある。
カース・マルツゥに限らずペコリーノ・マルチェットなど虫入りのチーズは少なくない。
現地の人々に好まれる虫入りチーズも、他の文化圏の人々には納豆同様に 「嫌悪感」 を覚えるだろう。

そんな食と臭いの嗜好に関する嫌悪感から始まり、病気、道徳、秩序、他者、さらには人種差別や外国人嫌悪まで「嫌悪感」を生む脳のメカニズムと社会心理について、嗅覚心理学者である著者が現状の研究成果を一般向けにわかりやすくまとめた一冊。







文化の違い、すなわち我々が暮らす社会の秩序観や個人の身体感覚、清潔観念の違いは 「嫌悪感」 の対象の違いと密接に関係する。

「嫌悪感」 は社会的環境の影響下で学習を経て身につく感情であるが、同時に脳の働きとも大きく関係があることが最近わかってきたという。


運動能力や認知能力など様々な機能を担う大脳基底核と大脳基底核の隣の島皮質、特に前部島皮質が 「嫌悪感」 を生む重要な部位であるとされている。


脳はなぜ 「嫌悪感」 を生むのか。
従来は病気から身を守るためであるとされてきた。 「行動による免疫システム」 と名付けられたこのメカニズムは
『病気を伝染させたり、子孫を増やす生殖能力を脅かしかねない人々から逃げることを私たちに促すように進化してきた心のメカニズム』(P169)
という説が有力だったが、むしろ、人生のうちで最も病気にかかりやすい幼年期初期や老年期は逆に最も嫌悪感を抱きにくい時期であり、実際のところ嫌悪感は
『本当に病気から逃げ出したい時には、役に立っていない』(P170)。
病気や病気を引き起こす物質への反応は嫌悪感によってではなく学習によって身につくものである。

また、「行動による免疫システム」説は、外国人やマイノリティ、身体障碍者など異質なもの、健康でないものに対する差別を肯定することになる。

『なぜなら進化学的立場から見ると、公平さを保つメリットより、差別や偏見がないことで、もたらされる危機のほうが多いからだ。
外国人の病気がうつったら死ぬかもしれないし、死をもたらす病気体質をもったパートナーと交わると遺伝子が絶えてしまうかもしれない。
逆に、差別や偏見にとらわれずに接することから得られる進化上のメリットは存在しない』
(P172)


この説だと逆に嫌悪感に従うことで社会関係は著しく阻害されることになる。
著者はこれを否定して
『病気は嫌悪感を引き起こす主な要因ではあっても、嫌悪感をコントロールする心のメカニズムではない。』(P183)という。
では、嫌悪感をコントロールしているのは何か?
『嫌悪感をコントロールするのは、死への恐怖なのだ』(P183)。

自身の死への恐れ、死を意識させるような秩序の変化、
『いつか死ぬという真理を寄せつけずにいてくれる社会構造や幻想が脅かされたりすると、反発心が生じる』(P184)。
その反発心、死や死を象徴する何かを恐怖し拒絶しようとする心理が「嫌悪感」の背後にある原則だという。


身体的嫌悪感と道徳的嫌悪感の違いを示す実験例として嫌悪感を引き起こす主要な要因である苦味の敏感度と、身体的嫌悪感、道徳的嫌悪感との関連を調べた実験が紹介されている。
それによると苦味に対する敏感度が高いほど嫌悪感を覚えやすく、また身体的嫌悪感とも相関関係があったが、道徳的嫌悪感とは関連が無かったという。

一方で、 『道徳的パロメータに大きいプレッシャーがかかると、心理的レベルで嫌悪感により敏感になる』(P291) ことになる。
つまり、『道徳的嫌悪感と身体的嫌悪感が似たものに感じられる特殊な例はあっても、両者は同じ種類のものではない』(P292)。

歴史上、多く見られた人種主義(レイシズム)はこの二つの嫌悪感を結びつけるロジックで語られることが多い。
ナチスはユダヤ人をネズミの群れやがん細胞に例えて病原菌すなわちユダヤ人を駆逐するようプロパガンダを打ち、ルワンダ虐殺の際にフツ族はツチ族をゴキブリに例えて駆除するよう訴えた。

また、歴史を中世まで遡れば、ペストの流行はモンゴル軍と結びつけられていたし、現代でも同性愛者がHIV(エイズ(後天性免疫不全症候群) )と結びつけられるなど、異なる文化や民族、あるいは敵の拒絶は病気や健康への脅威として語られることで、嫌悪感を呼び覚まそうとされる。

嫌悪感は人間が覚える当然の、自然な感情であるが、その嫌悪感の理由は合理的なものでもなければ正当なものでもなく、ただ死への恐怖や死を想起させるような変化に対する拒絶への衝動が働きかけているにすぎない。
その具体的な要因は健康を脅かす細菌や腐り始めた食品の臭いかもしれないし、身体障碍者や同性愛者、外国人など自身とは異なる文化・慣習を持つ人々に対する理由のない偏見かもしれない。

すなわち、自身が 『なぜ「嫌悪感」をいだくのか』 という問いはヒトがヒトである限りにおいて常に自分に課さなければならないということだ。

この嫌悪感についての研究はまだまだ発展途上で確固とした説が確立されているわけではなく、著者も随所に諸説あることを明記しているし、監修者で心理学の教授である綾部早穂氏もあとがきで 『著者の解釈や見解に関して細部で賛同できない箇所もあった』 と書いている。
不確かな事の方がまだまだ多い「嫌悪感」という感情だが、 ”自身の感じる「嫌悪感」に対して忠実であることを当然のこととする風潮” が高まる現在、非常に注目に値する研究成果をまとめた一冊であることは間違いない。


また、読み物としても非常に面白い。
古今東西の嫌悪感を覚える様々な事例、ゲテモノ料理、大食いショー、様々なサイコパスの事件、嫌悪感にまつわる病気、性文化のギャップなど多様だ。
他にも、トイレの便器と紙幣、嫌悪感を感じるのは前者だが実は健康リスクが高いのは後者などなど、嫌悪感に関する研究成果と共に必要あるのかないのかわからないような雑学まで色々仕入れられる。
日本の文化についてもいろいろ紹介されているが、まとめると「納豆臭い、触手責めは芸術、日本のポルノは世界一」だった。大体あってる。

せっかくなのでこの記事は納豆で始まり納豆で終わらせよう。
納豆大好きで良く食べるのだが、そんな僕を見てたまに来る六歳だか七歳だかになる姪っ子が最近嫌悪感を露わにするように。
彼女は昔は納豆を食べていたらしいのだが、近頃嫌いになったらしい。納豆への忌避がそのまま僕への嫌悪感へと結びついているわけだけど、本書によれば子供が嫌悪感を覚えるのは成長の上で重要な過程の一つでもある。幼児期の自己の形成と嫌悪感の学習は密接に結びついているようだ。
嫌悪感をぶつけられるのは悲しいけれど、この悲しみが大人になるってことなのね。そんな一抹の寂しさを堪えておっさんは今日も納豆を食べるのである。




【関連記事】
「嫌悪感」が政治的・道徳的信条に及ぼす影響についてのTED動画
何故、モニターの中は整然としているのに部屋は汚いままなのか
「人種主義の歴史」ジョージ・M・フレドリクソン 著
妖精信仰と代替医療、アニミズムとスピリチュアル運動





http://www.yomiuri.co.jp/national/20150520-OYT1T50111.html

世界協会残留へ
  「追い込み漁」イルカ入手禁止に

YOMIURI ONLINE 2015年05月21日 01時05分

 国内約150の動物園と水族館で構成する公益社団法人「日本動物園水族館協会」(JAZA、東京都)が、「世界動物園水族館協会」(WAZA、スイス)から会員資格を停止された問題で、JAZAは20日、WAZAに対し、残留を要望したことを明らかにした。

 加盟する国内の水族館に対しては、資格停止の理由とされた「追い込み漁」で捕獲されたイルカの入手を今後は禁止するとした。
 イルカを飼育・展示している国内の水族館の多くが、その入手を追い込み漁に頼っており、JAZAの判断はこれらの水族館に大きな影響を与えそうだ。

 WAZAは残酷な方法による野生動物の捕獲を禁止しており、和歌山県太地町での追い込み漁で捕獲されたイルカを飼育・展示することが倫理規定に反するとして、4月21日にJAZAの会員資格を停止。改善されない場合は今月22日にも除名するとしていた。






http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015052102000141.html

東京新聞|TOKYO Web【社会】

イルカ漁で入手禁止
   水族館協会 国際組織残留選ぶ


 2015年5月21日 朝刊

 和歌山県太地(たいじ)町の伝統的な追い込み漁で捕獲されたイルカを入手している日本動物園水族館協会(JAZA、東京)が、世界動物園水族館協会(WAZA、スイス)から除名を通告された問題で、日本協会は二十日、会員による投票の結果、世界協会への残留を決めたと発表した。 
 残留決定で、日本協会は今後、会員施設が太地町で捕獲されたイルカを入手することを禁じる。荒井一利会長は二十日に環境省で記者会見し、「飼育下での繁殖を推進する。日本協会は追い込み漁は残酷ではないと一貫して主張しており、今回の決定は追い込み漁や捕鯨を非難するものではない」と話した。

 投票は日本協会に加盟する八十九の動物園と、六十三の水族館で行われ、このうちイルカを飼育しているのは三十四の水族館。有効票は百四十二票で、「残留」が九十九票、「離脱」が四十三票だった。
 会員施設はこれまで、太地町から年間で計二十~三十頭のイルカを入手してきた。世界的には繁殖による個体確保が主流で、今後は偶然網にかかって保護された場合などを除いて、繁殖以外での入手は不可能になる。

 荒井会長は今後について「繁殖率の高いアメリカの事例も参考に、会員同士でノウハウを共有し、動物を交換するなど、繁殖を促進する取り組みを協力して行う」とした。

<世界動物園水族館協会(WAZA)>
 50以上の国や地域から約300の動物園や水族館が加盟する民間団体で、スイスに本部がある。
動物の飼育環境の向上などを目的に設立され、希少動物の種の保存にも取り組んでいる。国内からは日本動物園水族館協会のほか、上野動物園(東京)、大阪市天王寺動物園など単独で加盟している施設もある。
加盟していると、世界各国の動物園や水族館とのネットワークを構築、希少動物に関する情報が得られやすくなるなどのメリットがある。