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  武器としての
   コミュニケーション
         〔その2〕


   高城 幸司 : 株式会社セレブレイン社長

   2012年11月05日


いい仕事を続けるためには、仕事におけるコミュニケーションの「質」を上げることが大切です。
たとえば、営業職のあなたがお客様のクレームへの対応を上司に相談する場合、



「お客様が怒っています。どうしたらいいでしょうか?」
では、上司も困ってしまいます。ここで的確に状況を報告して、自分なりに考えた次のアクションを提示することで、上司の指示が的確になるのです。

ところが仕事のコミュニケーションで質を上げるのは難しいもので、訓練しないといつまで経っても向上しません。
私も上司として、何年経ってもコミュニケーションの質が上がらない部下にたくさん遭遇しました。ところが、質を上げるのはなかなか難しいものがあります。ここでは上司として自分のコミュニケーションの質が低くて失敗した恥ずかしいケースを1つ紹介させてください。

ちょうど求人広告の営業課長をしていたときの話です。新規営業を中心とする私の部下は毎日何社も営業をし、契約を取ってくるハードな仕事です。一方、上司の私には10名以上の部下がいましたので、全員の状況を把握して的確なアドバイスをするために、

  ① 1日の行動とトピックス
  ② (あれば)相談・連絡事項

の2点を、 「毎日」 「手短に」 業務報告させていました。残念ながら、一人ひとりと向き合える時間はせいぜい15分程度しか作れなかったからです。それでも、ほとんどの部下は期待に応え、わかりやすい業務報告をしてくれていました。ところが1人だけ、

「すてきな経営者にお会いしました。私にとってあこがれの存在かも」
「今日は何もない1日です。天気が悪くて気分も落ち込みがちです」
と、トンチンカンな報告ばかりする部下がいました。そのため毎日のように、

「もっとしっかり報告しなさい」

と注意していましたが一向に直りません。
上司の私は頭を抱える毎日でした。
ただ、今となって振り返ってみると、原因は上司の側にあったようです。部下に対して目的を別の言い方で伝えたところ、意図を理解して業務報告の内容が変わったからです。

「業務報告とは? 君のために行っているのだよ。わかる?」
と、トンチンカンな業務報告をする部下に対して目的を再確認しました。

さらに、
「上司は部下をサポートするのが仕事。そのために1日の仕事内容を知りたいのだ。叱ったり、注意したいのではない。君の成長のためにしっかり考えて報告してほしい」

この言葉を伝えた翌日から、
「今日は3社のお客様を訪問して新たな商談が1つ見つかりました。その会社から来週中に見積もり依頼をいただいたのですが、同行いただけますか?」
と、業務報告の内容が劇的に変わりました。
トンチンカンな部下はこれまで、1日の出来事を全部伝えればいいとしか認識していなかったようでした。上司のほうが仕事コミュニケーションが下手だったと大いに反省させられた出来事です。


さて、話を整理します。このように仕事コミュニケーションの「質が高い」とは、

  ① 状況を的確に伝える
  ② 周囲からサポートをもらう
  ③ 仕事の成果を高める


このサイクルを意識して対話することです。あなたは上司や同僚と質の高い仕事コミュニケーションができていますか? これから確認をしていきましょう。
では、ここで仕事コミュニケーションの質の違いについて理解いただくために、いくつかのケースを紹介しましょう。

ケース)
職場の机でメールチェックをしていたら、上司から呼ばれて、
「昨日の営業会議の議事録を明日までにまとめておいてくれないか?」

と指示を受けました。多忙で業務量がパンパンなので新たな仕事をこなせるか、少々不安を感じています。そんな状態でどのような対処をしますか?

  ① 「はい、わかりました」と、
      質問しないで渋々作業に入る
  ② 「何枚くらいにまとめたらいいですか?」と、
      わからない点を訊ねる
  ③ 「業務が立て込んでいるので
      明後日まででもいいですか?」と交渉する

ここで普段のあなたの対処、考えた結果として気づいた対処法を書いてみましょう。
「忙しいから③がいいかも」
いろいろ意見が分かれるところかもしれません。


さて、コミュニケーションの目的は成果を上げる=いい仕事をすることです。
とすれば、いい仕事をするとは?

上司が期待する「議事録のまとめ」に仕上げるためのコミュニケーションをしなければなりません。つまり大切なことは、上司が期待している成果物に近づけるために依頼内容の「確認」をすることではないでしょうか?

その確認が詳細であればあるほど「いい仕事」に近づきます。ですから正解は②です。

では、他の回答はダメなのかというと、そうではありません。
たとえば議事録のフォルダーを作るといった提案をすることは、次回以降のために効果的です。ただ、今回の仕事コミュニケーションの最大の目的である 「いい議事録に仕上げる」 ために、
②は絶対に不可欠な対処なのです。逆に、いい議事録を作成するために聞くべき内容は聞き逃してはなりません。

「社長からの冒頭のコメントは書いておいたほうがいいか?」
「次回の会議への積み残し課題はどうするか?」

など、気になったら上司から少々嫌な顔をされても聞くべきです。
いい仕事をするためには妥協は禁物です。
下手に大体の状態でコミュニケーションを終了させて、実際に仕上がった議事録が期待に応えられないものだと、

「何でもっとしっかりと確認しないのだ」

と、叱られたり、がっかりされて損をすることになります。自分のためにコミュニケーションの質を上げる努力は惜しまないようにしましょう。

最後に。このケースで、忙しい状況でも上司の期待に沿う成果物を作るために、上司と対話したほうがいい内容を紹介しましょう。

議事録の枚数に加えて
  ① そもそも、まとめる目的(何に使うのか?)
  ② 押さえておきたいテーマ

など、事前に確認しておかないと上司の期待とずれてしまう可能性があります。それを最後にお互い確認し合いながらチェックすれば、上司から「こんなまとめ方は期待していなかったよ」などと、お叱りを受けることはなくなることでしょう。

上記のようなことは、ビジネスマンとしては一般常識的なことで、分かっていて当然という考えをされることがあり、呆れ顔をさたとしても、“めげる”ことのありませんように。