(11)安政江戸地震に学ぶ「首都直下」への

     備え M7超、浅い震源の可能性

2011/05/20 11:47更新

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2006年01月30日 産経新聞 東京朝刊



 ■「震度7」阪神の4倍/一般住宅が危険

 30年以内の発生確率が70%とされ、首都圏に壊滅的被害をもたらすおそれが指摘されている「首都直下地震 」。中央防災会議 の被害想定では、最悪のケースで死者1万2000人、経済被害は112 兆円にのぼるとされる。江戸時代版の首都直下地震 ともいえる「安政江戸地震」(1855年)が、震源のごく浅い阪神大震災 クラスの地震だった可能性が高いことが、東京大学地震研究所の古村孝志助教授らの最近の研究でわかった。同じタイプの地震が再び起こるとすれば、これまでの想定よりもはるかに広い範囲が、震度7の激しい揺れに襲われるという。

(溝上健良)



 ≪未知の断層≫

 中央防災会議 は、首都直下地震 として18の震源を想定。活断層 が見つかっていない都心部を震源とする地震については、一律にマグニチュード(M)6・9として、予想される揺れや被害を推定した。この想定では震度6強になる範囲は広いが、震度7になるのは震源近くで地盤の弱い地区に限られた。

 安政江戸地震や明治東京地震(1894年)の震源の深さや発生メカニズムについては、長い間、定説がなかった。このために地殻内で起こる浅い地震については“暫定的な想定”で間に合わせたのだ。

 古村さんらは、世界最高レベルのコンピューター「地球シミュレータ 」で震源の深さが異なる地震を再現し、安政江戸地震の被害記録と照らし合わせて震源を探った。その結果、M7を超える地震が深さ10キロ前後の浅い場所で起きた場合と、最もよく合致することが分かった。

 「最近10年間でも、鳥取県西部地震 (2000年10月)、宮城県連続地震(03年7月)、新潟県中越地震 (04年10月)など、知られていない断層が動いた地震は多い。都心部に潜んでいる未知の断層が活動することも、現実にあり得る」と古村さんは話す。



 ≪震度7≫

 阪神大震災 と同じM7・3の直下型地震 シミュレーション を試みた。関東の活断層 は北西-南東方向に伸びているものが多いため、さいたま市から千葉県市原市に至る長さ40キロ、深さ4-16キロの震源断層あると仮定した。

 その結果がイラストの「震度分布予想」と「地震波 の広がり」。地震波 の広がりで、都心部や房総半島が海底に沈んだように示されているのは、関東平野の柔らかい堆積層を除いて揺れの伝わり方を画像化したからだ。従来の震度予測 との最大の違いは、震度7の範囲が広いこと。震源直近だけでなく、断層の破壊方向にも強い揺れが伝わり、さいたま市周辺や千葉県野田市の一帯が震度7と なった。震度7となる面積は、阪神大震災 の4倍以上。震源を別の場所に仮定しても、同様の結果が出るという。

 「考えすぎかもしれないが、こうなる可能性があることも考えておく必要はあるでしょう」



 ≪対策は…≫

 直下型なので、激しい揺れの継続時間は20秒程度と見込まれる。超高層ビルなどを揺らす長周期震動の心配も、まずないという。対策が必要なのは一般の住宅だ。阪神大震災 では、地震による直接の犠牲者の85%が、家屋などの倒壊が原因だった。

 「現在の耐震基準で建てられた家屋は、震度7でも倒壊しない」(古村さん)。

 また、防災科学技術研究所の大規模地震実験施設「E-ディフェンス」の実験で、旧基準(築30年)の2階建て木造住宅は、耐震 補強をしなければ震度7であっさり倒壊したが、耐震 補強をすれば持ちこたえることが実証された。

 震度7では、家は倒れなくても、ピアノや冷蔵庫、タンスなどの家具が飛ぶことがある。151年前の安政江戸地震が、「耐震 補強」と「家具の固定」の大切さを、改めて教えてくれている。


(12)「首都直下地震」都防災会議の被害想定 大都市の特性、詳細に加味 に続く連載「いま読む 震災前の警告」すべて読む





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