世間は、学祭の季節である。

 

私の在籍する大学も例外ではなく、学祭の真っ只中だ。

色々なサークルが連日出店し、様々な催し物を披露し、各々の準備の成果を遺憾なく発揮していた。

降り続く雨の中でも、やはり鮮やかな大学生活という色は薄れることなく学生たちの心を彩っているのだ。

 

しかし、ケとハレの区別をしっかりつける系男子であるところの私は、そんな浮ついた世情に流されず今日も精進の日々である。

 

では、今からやらなければいけないタスクを確認しよう。

深夜22時。今日が終わるまでにあと2時間しかない。

私の眼前にはPCの画面が、薄暗い自室を目一杯照らそうと必死に光を放っている。

 

『ESを書かなければ』いけないのだ。

 

ふと、すぐそばに横たわる成人男性の姿を確認する。学祭期間中、自宅と大学の往復の交通費を浮かしたいとほざいて私の家を出入りしているこいつ、後輩Kは数分前に眠りについたところだ。

彼に配慮し、照明はデスクに備え付けのものだけ灯している。これでも睡眠中の人間には明るいのであろうが、まあ許せ。

 

現実、いや画面を再び直視して、私はため息をつく。

 

ESとはみなさんご存知の通り、エントリーシートのこと。この時期の大学三年生なら、誰しも必ず一度は書いたことがあるのではないだろうか。

ところが、私は一度も書いたことがないのである。

なにせ、弁護士志望とは司法試験の合格が最優先事項であり、法律事務所はどこも予備試験(司法試験の受験資格を得る試験)にすら合格していない一学部生にインターンなど用意してくれない。

 

だから先日、「大学三年生以上」であれば参加可能な法律事務所のインターンを見つけたとき、これは絶対応募したいと思った。

 

だが、このインターンには難点がある。それは、応募の締め切り期日が書かれていないこと。

つまり明日にはこの応募フォームが「404 Not Found」と表示されていてもおかしくない、ということ。

せっかく見つけたチャンスをもし不意にしたしまったなら、その時の後悔は計り知れないだろう。

今日、まだ応募可能なうちに書いてしまうに越したことはない。

 

さて……

当たり前だが、氏名・年齢・住所・連絡先・学歴は必須の記入事項だ。そこで何を書けばいいか迷うほど、私のおつむは低レベルではない。

問題はここから。

 

「法曹(弁護士・裁判官・検察官)を志望する理由……自己PR……志望動機……興味のある法領域……」

正直、将来設計は割と頑強に組まれているので何を書けばいいかでは困らない。

私が悩ましいのは、どのくらいの量を、どのくらいの範囲で書けばいいのか、その相場勘だ。

 

いっぱしの就活生のように検索エンジンをフル活用。

「法律事務所 ES 書き方」「ES 自己PR」「ES 志望動機」……。

するとためになるアドバイスがいくつか出でくる。

 

『法曹を志望する理由で差はつかない』

『持っている資格は見られないが、その資格を取得した経緯から自分をアピールすることが大事』

『バイトで社会経験を積んでいるのは当たり前』

 

なるほどね。

 

とりあえずWordにいくつか草稿を認める。

こういうのは、書き始めるまでは怠いのだが、書き始めると意外と止まらなくなるのだ。

 

1時間と数十分後、完成した文章は、まるで「私、法律オタクでーす!」と全面で主張するような堅苦しい文章になった。

まあ……これも私らしいしいっか。

 

提出ボタンをクリックし、タスクが一つ減る。

正直採用は10人程度の狭き門。落ちてもそこまで落胆するものではない。

私のような者にはなかなかない、普通の就活生っぽい活動をしてみるいい機会と捉えておこう。

 

大きく伸びをして、痺れた両足をほぐす。

時刻は0時5分。これから寝るのもアリだけど……。

 

駅前まで散歩しようっ。

 

コートを羽織り、玄関のドアを開ける。

Kよ、留守番よろしく。