「虹」~だったらいいな①~
いつもそう。拗ねたきみはわたしの知らぬ間にどこかへ行ってしまう。わたしが心配すると思って。わたしが心配するのをわかってて。だけど、そこはいつも同じ場所でしょう?だったら今日くらいは先回りして待っててやろうじゃない。徐々に近づいてくる足音。ふふ、来た来た。こっそりと振り返ってきみの姿を確認しようとすると、びっくり顔でわたしを見つめているきみ。あれ?どうしてわかったの?ちゃんと隠れていたのに。ふと足元に視線を落とすと、わたしの靴からスッと伸びた影。あぁ、これか。もう夕方なのね。視線を足元からきみの顔へと戻すと、びっくり顔のきみはもういなくて。いたのは口を尖らせてプイッとよそを向くきみ。クルクルと変わる表情がかわいくて。そんなきみが愛しくて。そしたらもうなんでもよくなってくる。今すぐきみのそばへ行きたくなって。だから、「さっきは・・・・ごめんね」。また折れちゃった。また、わたしの負け。だけどそれでいい。だってこう言ったらきみは『じゃあこっち来てよ』って。ほら。今日も言ってくれたでしょ?きみのそばへいくと・・・・・・あ。重なった!「ねぇ見て。ほら、影も重なったよ。」なんて、こんな些細なことも嬉しくて。こんなことにまで幸せを感じるわたしはきみよりずっと子どもなんだろうな。小降りの雨の中を歩く、2本のビニール傘。きみの傘とわたしの傘がぶつかるせいで、まっすぐに歩けない。だけど隣のきみは平然と歩いてる。ぶつかる傘によろけるわたしを見て時折クスクスと笑いながら。わざとだ、わざと。じゃあわたしだって。と、口を尖らす。いつものきみの、真似。拗ねちゃったよ、わたし。彼女が機嫌を損ねちゃった。さて彼氏はどう対処する?なーんて。こんなことしてる何気ないこの時間も、きみとの空間も、そして何より優しく笑うきみが、泣きたくなるくらい一番大事なの。ねぇ、知ってる?わたしがこんなにもきみを好きだってこと。拗ねたフリしてわざと口を尖らせていたわたしに、「ごめんね」と悲しそうに眉尻を下げて謝るきみ。拗ねるきみの真似をしたのはちょっとした仕返しのつもりだったのに、悲しそうなきみを見ていると拗ねたフリする自分はひどく悪いことをしてる気がして。だけど、きみのそんな顔を初めて見れたことが嬉しかったりもして。わたしまで八の字眉になってるだろう顔で、少し笑いながら、「もういいよ。もう怒ってない」って言おうとした。それなのに。まだ言い終わってないのに、途中なのに、返事を最後まで聞かずにやさしくキスを落とすきみ。もしかして…わたしが拗ねた“フリ”してるの、気づいてたの?それなのに謝ってくれたの?だったら・・・・また負け。“フリ”だってわかってて謝るなんて。“フリ”だってことを内緒にしたままのわたしの返事を遮って。きみをちょっと困らそうとしたのがバレてたなんて、わたしすごく子どもっぽい。やっぱりきみには敵わないよ。だってそんな意地悪なきみも好きなんだもの。これからはワガママも少しなら許してあげる。わたしにだけなら甘えてもいいから。だから。だから、たまには言ってほしいな。「好きだよ」って。そのたった一言が『面倒くさい』だなんて、きみはほんとに素直じゃないんだから。なんでそれが言えないのかなぁ。でも、今日くらいは聞きたいな。だって今日はとても大事な日でしょう?わたしと君が名字を重ねることになった日。いままでとはカタチの違う愛が生まれた日。ふと見上げた空。・・・・・・あ。虹が出てる!キレイな、大きな虹。「ねぇ見て。ほら、虹が出てる。すごくキレイだよ」今度は二人で空を見上げる。キレイだね、虹。君と一緒に見る虹はこんなにもキレイに見える。君といるとね、どんな小さなことにも幸せを感じるの。ふふ、前にもこんなことあったなぁ。君は憶えてるかな?虹から君へと視線をズラすと、君の瞳もわたしを捉えていた。少し首を傾げて、どうしたの?と目で問いかけてみる。するとまた虹へと目を移す君。「いや、お前のほうが・・・・・・」いつもより気持ち小さな声。いつもよりぶっきらぼうな口調。その先に続くことのなかった言葉。おまけに、わたしではなく虹を見ながら言う君。けど、聞こえた。聞こえたよ。ちゃんと聞こえた。けど、だけどね。耳、真っ赤だよ。ありがとう。ちゃんと言葉にしてくれて。ありがとう。拗ねるとどこかへ行ってしまう、自分の言葉でテレてしまう、かわいくて愛しい“きみ”。ありがとう。わたしを好きになってくれた、わたしを選んでくれた、いつものかわいい“きみ”とは違う、愛しい“君”。ありがとう。いつもそばにいてくれて。ありがとう。ありがとう。☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚* ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚* ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*ねぇ、わたしの一番大事なもの、知ってる?・・・大事なもの?そう。大事なもの。ふふ、えっとね・・・・・・