相撲界の稽古のあり方で、わからないことがあります。稽古の量、数をたくさんこなすべきなのか、はたまた、量よりも質を重視すべきなのか、ということです。
力士経験者はじめほとんどの人が「とにかくたくさんの稽古をすること」と言います。
北の富士さん(元横綱北の富士、現解説者)は、日頃から「最近の力士は稽古が足らん」と口酸っぱく指摘します。自ら横綱まで駆け上がり、引退後は千代の富士(のちの九重親方)や北勝海(ほくとうみ=現・八角相撲協会理事長)の2横綱を育ててきただけに、説得力があります。「稽古嫌いの自分でさえ、何十番もの稽古をやったもんだよ」とも。
長年、相撲部屋で稽古を見てきましたが、最近は20番以上稽古をやる力士はあまり見かけません。北の富士さんの意見に全面賛成していました。
ところが、嘉風(よしかぜ=現中村親方)という力士を取材してから、見方が少し変わりました。
新入幕から59場所、33歳という高い年齢で関脇に昇進。〝最高齢大関誕生か〟など話題になったり、日馬富士(はるまふじ)や鶴竜(かくりゅう)など横綱にもめっぽう強い。突き押しを得意として、出足は素早く、機動力は抜群。年齢を重ねても鋭い動きで上位陣をかき回しました。
日頃から大変な稽古をこなしているのだろう。そう思っていたのですが、稽古場に降りても、土俵に上がらない、ぶつかりげいこなどもほとんどやらない、土俵周囲でしこを踏んだり体を動かすだけ。拍子抜けしました。
調子でも悪いのか。嘉風は「普段と変わりない。自分はぶつかり稽古も申し合い稽古もほとんどやらない」と、淡々と。
信じがたい。しかし付け人の若い衆に聞いても「関取はほとんどやりません」。別に隠している様子もない。驚きました。
聞くと、30歳過ぎたころから、実践的な稽古は1年365日のうちの10日間と決め、部屋でのけいこはほとんどやらず、独自の筋力トレーニングを積み重ねてきていると言いました。
140㌔ちょっとの、相撲界では小柄な体で、大きな相手と毎日本気でぶつかっていたら体がもたない、これでは好きな相撲が長く続けられない、という判断の末の選択でした。
力士の特性を尊重する師匠の存在なくしてあり得ない話です。稽古の在り方を含めて伝統を重んじる相撲界で、こんな力士がいるのかと、衝撃でした。
嘉風はその後、出身地のイベントに参加して足を大けがし、引退を余儀なくされました。家庭のことでもいろいろあるようです。ただ、この稽古と体づくりに関しては、無視できない試みではなかったか。今でも思います。
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