主人公の20歳になる女性、ホリー・ゴライトリーが、自分の出自について語る場面での喩え話が、殊の外印象深く、いつまでも余韻が残った。哀しくて切ない、そして、どうしようもないこの世界の現実として。
たとえば、とてもかわいくて、とても魅力的で、どうにかして手元においておきたい、一緒に暮らしたいと思う野生動物がいるとする。でも、こちらがどんなに心を込めて手をのばしても、一瞬心が通じたように思えたとしても、いずれ野生動物は、それが本来いるべき場所へと戻って行く。それが鳥なら大空へ。
ホリー・ゴライトリーには、そのことがはっきりとわかっていた。そしてなおかつ、
「空を見上げている方が、空の上で暮らすよりはずっといいのよ。」とさえ言う。わたしを手に入れられないあなたの辛さよりも、過酷な空を生きていくしか選べないわたしのほうが辛いのだと。
美しくてとても賢くて自由奔放でミステリアスなホリーを好きにならずにはいられな い人は大勢いる。語り手の小説家志望の男性もそうだし、彼らの行きつけのバーの店主もそうだし、いつもホリーをどなり倒している日本人のユニオシさんも、実は彼女の魅力にやられている一人だ。
愛してやまない存在の、無事と平穏を祈るしかないやるせなさ。
とても切ない物語だ。
