おーい 助けてくれ ブクブク
大変だ 人が溺れているぞ
すぐに助けないと 危ないぞ
おおっ そうか 急いで助けよう
ああ どぜう掬いに来て 深みに填ったんだな
何か浮くものを すぐに投げ入れてやらねぇと
溺れている者は 藁をも掴むってぐらいだから
藁でも良いだろう
藁と言っても その藁じゃなぁ
沈みかけてる 急がないと
いやそうじゃない 藁は 左から投げた方が良い
いやいや 流れがこうだから 右から投げた方が良いさ
まてまて 藁は 5本より 100本の方が良いだろう
いやいや あの体格だから 120本はいるだろう
助けるつもりの二人は 互いに講釈を垂れている間に
溺れていた人は ブクブクと沈んでしまった
それでも二人は沈んだ人が作った渦を見ながら
まったく慌てる様子もなく 次の講釈を垂れ始めた
お前が右だとか 五月蠅いことを言ったからだ
いや 藁の数を細かく言った お前の方が悪い
沈んだのはお前のせいだぞ いや お前のせいだ
遂には 誰が悪い 彼が悪いの
責任の擦り合いが 始まったのであった。
すぐにでもどちらかが飛び込んで 救う事は出来なかったのだろうか
ふと二人の着物を見てみると 二人とも真新しい
おろしたての着物であった事は 此処だけの話にしておこう
助けられる方も 相手の損得勘定が先に立つと
救われるものも 救われなくなると言う
つまらないお話は これでお終い。