広島市から車で2時間。最寄りのバス停から徒歩30分くらいかかる田舎に、祖父の家がある。


私はこの土地が好きだ。思い出の畦道、池、ヤギ小屋も何も変わらない。都会の喧騒を忘れ、心が洗われていくのを実感する。最近変わった事といえば、隣のおじいちゃんが亡くなったことを祖父から聞いた。


そんな祖父の家に、半年ぶりに帰省した。

こたつで暖をとりながら、祖父と談笑する。

他愛もない世間話のなかで祖父が、運転をやめようかと話した。祖父は「何事も挑戦」が口癖。常に前向きの人だったので驚いた。


ふと、祖父を見つめる。当たり前だが、祖父は歳を取った。耳は遠くなり、足も痛そうにしている。一つひとつのことが出来なくなっていく事実に直面し、落ち込んでいるようだった。変わらない町の景色と、変わっていく祖父の姿に不安を覚えた。


そして今年、祖父は長年連れ去った妻と離れ一人暮らしを始めた。ただ、祖父が一人で暮らすためにはあまりに不便すぎる。本当に支援が必要なのは祖父の住むような地域なのにと思わざるを得ない。


医療の地域格差が深刻になっているという。都市部に医療が集中し、過疎地域へ医療の手が届いていない現状がある。


医療の進歩は、命を繋ぎ、多くの命を救ってきた。しかし、過疎地域で暮らし生きる祖父のことまで考えることはできていたのだろうか。繋いだ命の未来まで考えることができていたのだろうか。


人はただ生きるのではない。周囲の人に支えられ、触れ合い、助け合いながら生きていく。そうした人との関わり合いのなかで、生きる意味を見出すのだと、私は考える。


私はおじいちゃんに、幸せだったという人生を歩んでほしい。そのための医療を望み、期待したい。