前項で話が逸れたりして長くなったので、ほかの絵に関しては改めて。

この展覧会では、1850年代からロシア革命あたりまでの絵が並べられているが(A.ヴェネツィアーノフの「干し草作り」は1820年代半ばの作)、当然描写のうちに西欧絵画の流れがありながらも、ロシア固有の時代や社会背景もみえてくる。
パーヴェル・ミハイロヴィッチ・トレチャコフというこの美術館の創設者が、事業で成功し、ロシアの美術蒐集を体系的にしていった功績である。(そしてトレチャコフ美術館は、兄セルゲイの西欧美術コレクションも合わせ持っている)
そうした意図により集められた絵だから良品が多いのはもちろんとして、写実が外形的なところだけでなく本質へ迫ろうとするあたりが伝わってきて、まとまった形で見られたのは実に良かったと思う。
観察はあくまで客観だが、本質を描き出そうとすれば投影されるのは自らではないか。
そこにロシアのインテリと農民、市民の交感、フランスやイギリスにおける「ノブレス・オブリージュ」とはまたちょっと違ったものが顕れる感じがした。
高邁な人間愛や祖国愛であれ、壮大なるお節介であれ。
また、空気感が独特のものであり、空や雲、光、雪、広さ、北海道はそのあたりが似ているなと思う。
クラムスコイが描いたシーシキンも、人物に光が当たっているところ(白く縁取られている)、タバコの煙、ポーズのせいもあろうがいちいち様になっていて、これまた映画の1シーンのよう。
ヴェレシチャーギンのオリエンタル趣味(しかし非常に緻密なリアル感)、クインジの夢風景っぽい世界もおもしろい。

実際の作品についてはこの辺に載っていたりいなかったり。トレチャコフ美術館のコレクションページでも同様。

しかしイリヤ・レーピンくらいしか名前を知らなかったので、さまざま知ることができた展覧会だった。