{EACAF003-E47A-4E82-BACD-26BF3BC51A46:01}


マディソン通りを横切り、レキシントン通りを歩いていた。
日系のスーパーで買い物した後は必ずこの通りを歩く。
つまり、通い慣れた道なのだ。

そういった日常は突然壊される。


ボクはいつものように意気揚々とオアシスの曲を聴いていた。

目の前に大きな身体をした黒人が僕の隣を通ろうとした。
すると肩がぶつかって黒人が持っていた黒いビニール袋が落ちた。

中に入ってたものが割れて液体のものが出てきた。

すると黒人は凄まじい剣幕でボクを罵り始めた。
何言ってるか分からなかったが何度か

『Fuck!! Fuck!!』

と言ってるのは聞き取れた。

ボクは何度か海外でトラブルを起こしてしまっているので怖さというよりも



『面倒クセェな。電車に乗り遅れるし。』


と思い早くこの事態をおさめたかった。
黒人はボクに向かって


『弁償しろ!これは薬局で買ったんだ!21ドルよこせ!』


とボクに因縁をつけて金をよこせと言ってきやがった。



『21ドルって意外とお求めやすい値段だなー』

とカツアゲされてるわりには低価格だと思った。
しかもこいつ薬局でクスリを買ったとしても、健康にしか見えない。
超マッチョだったし。
しかも、超香水つけてるし。

病人は香水つけないよっ!笑



『証拠は?薬局で買ったという証拠は?』


ボクは負けたくなかったので、反撃を開始した。
てかっ、お前からぶつかってきたんだろ!!



カツアゲ黒人は財布からレシートを出してボクに見せてくれた。
だけど、肝心な部分が全く見えない。
ボクがレシートを手に取って粗探しをしようとしても、なかなか見せてくれない。


カツアゲ黒人はしびれを切らしてボクの肩をほんの少し強い力で殴った。




ボクは


『今の手持ちは7ドルだけしか入ってないから払えない!』


とポケットの中に入ってたチップで貰った7ドルを見せつけた。
本当は財布に50ドル入ってたけど。



カツアゲ黒人は


『全然足りない!』



と言って納得しなかった。
ボクはどうしても九時の電車に乗りたかった。



良いアイディアを思いついた。


『じゃあ、もう一度薬局に行って買ったクスリをもらったらいいじゃん。その壊れた品物を見せてレシートも見せたら無料で貰えると思うよ。』


となかなか機知に富んだ発言をしたと思う。

だが、カツアゲ黒人はボクの話す英語が分からないような仕草を見せる。




『じゃあ警察署行こう。』


と最大の切り札である“警察”という言葉を使った。
初めから使えば良かった、警察という言葉。
ボクは後になってから大事な事をいつも思い出す。




カツアゲ黒人はボクが持っていた7ドルを奪って、これで勘弁してやるといった表情で去っていった。



被害総額、7ドル。

まだ日本の高校生ヤンキーの方が金を取っていくぞ。



それにしても、腹が立った。


こんな馬鹿げた罠に引っかかるなんて。


『Stupid!! Stupid!! Stupid!!』

と自分自身を罵った。



映画ウォッチメンの主人公であるロール・シャッハが簡単な罠に引っかかり自分に向かってStupid!Stupid!!Stupid!!って言ってた気持ちがわかる。




まぁ、7ドルだけで済んだし電車に間に合ったのでまだ良かった。


電車の中で、あの壊れたクスリと言われる物の正体を探るのを忘れていた。
結局あれは何だったのか?
黒いビニール袋に入ってた地点で怪しいと気付くべきだった。



ボクはもう一度、腹が立った。