『時速25キロ』



 暗い宇宙に飛び出せば、落ちる、落ちる、落っこちる。真っ逆さまに、ぐんぐんと、意志の無いように、情けなく。
 仲間に気づき、見渡すが、首が痛くなるばかり。しかし、無数の、何万?の、運命を感じてホッとする。ひとりじゃないって暖かい。ひとりじゃないって幸せだ。
 約2グラム、時速25キロの流れ星。水の惑星だ。
 そのスピードに慣れてゆき、飛び出たふるさと見返せば、そこには新たな弟たちが、不安そうに下を見る。震える足を少しずつ、ずらしてまえに進んでく。そして目をつむり、思い切って飛び出して、落ちてく弟たちの惑星は、キラキラと、夢見るように、光って見えた。
 人生、半ばを、過ぎたなら、下の明かりに気づくんだ。赤や黄色や青やオレンジ、あれが、東京という街か。まるで天竺(てんじく)、夢の国、願いを叶える、魔法の世界。
 僕らは、選ばれた、ソルジャーなのか、あそこで、何が、できるのだろうか、何を、すべきなのか、いや、何もできない。僕らは死ぬんだ。生きるって、一瞬だけの夢なのかな。
 その時、強い風が吹き、仲間の半分は飛ばされた。流され、漆黒の山へと、向かってく。あらがい、泣いてる子供もいたが、どうすることも、できなくて、僕も泣いて、眺めてた。
 そろそろ、落ちて、ぶつかって、僕らはきっと、死んじゃうね。
痛いのだろうか、苦しいだろうか、生き延びることは、できないのだろうか。
 その時、生きてる生物が、手を差し出して、僕らを、受け止めていた。僕らの仲間の、死体を見つめ、美味しそうに?、ほほえんだ。そして、僕らに、名前をつけた、
「ねぇ、ママ、雨って、どこから来るの?」
 僕らは、雫は、雨?らしい。
 そして、悲しい、葬儀のように、東京の街を、濡らしてく。まるで地球が泣いて、淋しがって、いるように。
 落ちて、落ちて、スピード、あげて、真っ逆さまに、落ちてゆく。
 パシャ、パシャ、パシャ。
 どうやら、僕は、アスファルト、首都高とやらに、ぶつかって、いろんなタイヤに、踏まれてる。意識が、しだいに、遠くなる。初恋の彼女を、思い出す。
 流れて、古びた、景色が見える。
 遠くの高い建物の上に、大きな看板があった。
 あの看板は、子供の頃に下をのぞいて、そして見た看板だった。女神のように美しい、女優という笑顔がこちらを見てる。
 僕の初恋だ。

 やっと会えた。
 死んでく僕はいつか、雨水から、嬉し涙の、雫になった。