時間をずらすのも、いつもの電車の時刻より、30分早くしたり、1時間遅らせたりと、同じ時に偏らないように気をつけていた。
……わかっている。
逃げて、いるのだと。
和之から、彼から。
どうして私がそんな気遣いをしなければならないの。と、腹立たしくもあったけれど。
じゃあ逆に。いつもの時刻の電車で、和之と遭遇して。
平然としていられるかと聞かれたら……口をつぐむしかない。
ホント言うと……怖い。
また、いつかのように、和之に求められるような、状況に陥ったら。
その手を、振り払えるのか。
断固として、拒否できるのか。
……自信が、なかった。
っ、じゃなくて!
うつむきそうになる心と顔を、「えいっ」と意気込んで上を向かせて。
拳を握り締めて「また何かしてこようとしたら、殴りつけよう!」と、後で考えると、結構理不尽なことを考えていた。
けど、この時は本気だった。
それくらい、和之に流されそうになっている自分を……感じていたから。
そうして、気概を奮い立たせた、時だった。
パンっ!
と、小気味よく、甲高い音が駅のホームに響いたのは。
「いい音」だけれど。
自分の身に起きたわけでもないのに、痛みを覚えてしまう。
耳にした音に、反射的に肩をすくめて「……痛そ~」と胸のうちでこぼしていた。
そうしてそろりと、音の原点をうかがい見て。
え。と。
驚いてしまう。
はたかれた小気味のいい音で、周辺から視線を集めている、その中心には。
赤くなった頬を、ぬぐうようにこすった和之と。
いつかの、白いコートの女性が。
和之の頬をはたいた格好で。
上気して真っ赤になった頬で。
和之を、にらみつけていた。