・・・苦しい。
楽になったと思っていたのに。
俺の腹にはまだ刄が刺さっている。
切り裂かれた肉からは鮮血が溢れだしてくるのに。
もう、目の前は霞んできているはずなのに。
まだ、死んでいない・・・
刄は内蔵にまで達している様なのに。
口からは血を吐き続けているのに。
『何故あいつは俺を殺さなかった?』
『何故あいつは俺をみんなと一緒に逝かせてくれなかった?』
床は誰の物か分からなくなった血で溢れている。
初めは死ぬのがあんなに嫌だったのに。
今は死にたくてたまらない。
俺は絶望に打ち拉がれていた。
すると、
再び、あいつがやって来た。
あいつは床の上の腐りかけた肉片を踏み潰しながら、真直ぐ、俺のところへ来た。
やっと・・・今度こそ死ねるんだ。
俺はいつのまにか笑っていた。
が、
あいつは俺を見るなり突然、険しい顔で俺の腹に刺さった刄を握り締めると、勢い良く抜いた。
刄を強く握りすぎて、手がズタズタになっている。
なんで・・・
ぽつり、と俺はつぶやいた。
もちろんあいつは答えない。
あいつの血が、腕に赤く線を引きながらしたたり落ちていた。
あいつはその手の血を、俺の口に塗り付けた。
そして、俺を血溜りに倒すと、服を裂き、傷口を縫っていく。
直に縫われる苦しみは息が詰まるほどだ。
しかし、今の衰弱しきった体では何もできず、俺はただ唸り、苦しむだけだった。
あいつが俺の腹を綺麗に縫いきった時には、俺は気絶していたようだ。
『助けて・・・』
声がする
『みんなぁ・・・ごぼっ・・・た、助け・・・』
昔の、俺
川で溺れている、俺
『ばーかばーか』
『何やってんだよ、さっさとこいよ』
みんな笑いながら、見ている
なぜこんな昔のことを思い出してるのだろう・・・
そして、この後も変わらずみんなと遊んでいた事実に気付く。
「これは・・・」
忘れていた、記憶。
誰一人思い出さなかった、出来事。
考える間にも、時は進んでいた
『おまえなんか、死んじまえ』
一人がそう、言い放った。
一人、また一人、帰っていく。
がばっ
小さな体が、水に埋もれた
「うそだろ・・・」
その時、
体があった場所からゆらり、と影が立ち上った。
小さな体が水から引き上げられる。
『みんなが、憎いよ・・・』
これは心の声なのか。
分からない
『いつか、あいつらに仕返しがしたい』
「・・・そうか
ならば
私が
手を貸そう」
はっ、と前を向くと
そこには
「これが望み、だろう?」
あいつが、笑っていた
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